転生したら学生とかいう奇妙な職業だったんだが
七基ふゆき
転生したら学生とかいう奇妙な職業だったんだが
「いやわかるぞ、わかるとも。あの世界にもうぬらのような若造が勉学の徒として励み、世界のしくみとやらやあの煩わしい魔法なぞを姑息にも継承し、研鑽を積み、そして羽虫共が群れ我々を打倒せんと涙ぐましい努力を重ねていたことは。だが笑止千万、そのことごとくを常に叩き潰してやったわ!」
「でも最後にはアンタ俺に負けたじゃん」
「やかましいわ小僧、茶々を入れるでない! そして、だ! 何故我が玉体は斯様な物に変化しておるのだ、何故我が肩書は魔王ではなく【高校生】というものになっている!」
いや、俺が聞きたいですけど。
ぎゃんぎゃんぎゃん、とわめくのは前に散々うなされた地を這うような声ではなく、甲高くいわゆる姦しいと形容されるような、女の子のそれだ。
甘く脳を揺らしてくるような声でそんなご無体なことを叩きつけてくるもんだから、なんとも頭がくらくらする。
ある日異世界に召喚されて、そこから苦節体感数年。
俺は冒険の中で金銭をやりくりし、仲間を増やして迷宮を踏破し、成長と共に旅を続けて、その果てに召喚された理由だった魔王討伐に成功した。
そして仲間に惜しまれながらも家族のもとへ帰るべく元の世界へ戻った俺の世界には、何故か勇者の不倶戴天の敵である魔王がいた。それも、記憶から一人増えたクラスメートとして。
いや、なんでだよ。なんでだよ女神様。俺が何したっていうんだよ。
なんでも俺の枕元に立った女神様曰く、魔王の魂は非常に呪詛的なものを蓄えておりあの世界に置いておくにはまずい代物だったんだと。
封印しようにも復活したら困るし、かといって浄化するとなると非常に労力と時間がかかるし、めちゃくちゃ扱いに困った女神様がとった選択が【魔王と非常に縁が深い存在】、つまり俺のところへ向けてそのままの世界間距離魂が時間をかけて辿り着くよう放浪すること、だったらしい。
魔王はそれでかなりあらゆるものをそがれ、もうあの凄まじい力は殆ど使えないままこの世界に転生した、と。
いやそこは殆どじゃなくてすべてであってくれよ、一端でも残ってる可能性があるのかよ。あと長い旅の中で色々削げ落ちてもこんだけ自我残ってんのかよ。すごいな魔王。
こうして俺は召喚が終わったあとも、異世界の魔王をどうにかする役目を仰せつかったのである。ちくしょう。
そしてこの魔王、おれたちの世界の時間的には自我が覚醒したのが結構最近らしく、現状に納得がいっていないようでことあるごとに俺に絡んでくる。
そのため中二病まっしぐらの振る舞いである魔王(現代の姿)と親しい間柄である、と認識された俺は異世界召喚前とは違う意味で浮いているのだ。
本当に、あらゆる面倒が降りかかったものである。
「おい小僧、聞いているのか! 今日という今日は許さんぞ、そこになおれ! 叩きのめしてくれる!」
「おいやめろ、怪我すんだろ」
でもまぁ、それでも。
俺がこの世界から消えてまた帰ってきた時、一時も流れていないようなものだった。
つまりあの旅は俺の白昼夢に等しく、こんなこと誰かに話してもただの妄言にしか思われないわけで。
あの世界でそれなりの出会いと別れを繰り返した俺には、それは案外もの寂しく、あの旅が確かにあったことを肯定してくれるこいつとの会話は、まあまあ悪くないものでもある。
性格自体は変わってないものの、一応邪心とか悪性はある程度はそぎ落とされてるっぽいし。
「おい、聞いているのか小僧! 無視するでないわ!」
だからこいつにはせいぜい、第二の人生を楽しんでもらおうと思う。
……それはそれとして、俺のこと結構いい感じに思っててくれたっぽいヒーラーちゃんとかよこしてくれてもよかったんじゃないですかね、女神様。
転生したら学生とかいう奇妙な職業だったんだが 七基ふゆき @Notxx
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