第17話 イルんちの大掃除
「チュンチュン、チュン」
鳥の囀りに、ふと目が覚めると、外は明るくなっていた。
パパの両側にママとケインが寄り添い、パパの両足の太ももにマコとイルがちょこんと座り、パパの胸に身体を預けている。パパはモテモテだね。
すると、突然、携帯電話から、けたたましくメロディーが流れる。目覚まし? ううん、着電だ。
「パパ? 電話だよ?」
「う、うん。もう朝か。電話? あ、ありがとう」
「はい。イチノセです。はい、はい。え? あ、はい。あ、私の家族と一緒にいるので大丈夫です。そうですか。その動きだと諦める気はなさそうですね。はい。それでそちらでは何か手を打てそうですか? あぁ、なるほど。手は打っているが、少し時間がかかるから、今今は現場を押さえるしか、現行犯で検挙するしか、防ぐ方法がないと、そういう訳ですね。いえいえ、組織を改変するのはそう簡単ではないことは重々承知しています。ただ私もそう時間をかけられない理由がありまして、こちらで勝手にやらせていただきますね。え? あぁ、ちょっと今回の下っ端組織を壊滅させるくらいですかね。本当は丸ごとお掃除できると良いのですが、今回の一件は、下っ端組織の単独判断による暴挙らしくて、丸ごとやるには始めるにももっと準備にかける時間が必要なことと、上の組織は悪どいこと以外の真っ当な事業もやってるから、賛否両論な世論も含めて、決着するまで膨大な時間がかかりますからね。それに下っ端組織のほうは許し難い暴挙でほっとけば、私の友人だけでなく直接この町の人たちに害なす存在なので、早急に排除する必要がありますからね。まぁ、後始末諸々はお願いしなきゃならないので、あなたには立ち合って欲しいですね。そうすれば、あなたの手柄にもなるし、署長癒着の追い落としの足掛かりにもなるんじゃないですか? そういうわけで、お昼頃に昨日の友人宅に向かい、一息ついたら行動開始しますから、便乗したければいらっしゃってください。それではまた。はい。ピッ、ツーッ」
「パパ殿、いよいよ決行ですか。お供しますぞ!」
「お、おぉ、またそのモードなんだな。あぁ、みんなも起こしちゃったね」
「「「おはよう」ございます!」」
「イ、イルも行きたい、パパ?」
「ダメだよ。イルとケインは敵からの絶好のターゲットだし、髪の色が変わってるから、変に追求されても困るだろ?」
「でも、今から敵と対峙するんですよね? これから先、マコちゃんと共にある人生では、たぶん似たようなことが起こるような気がするから、そのときにすべきことのためのケーススタディにちょうど良いかなと、それからイル自身も、これから自分の能力が開花していくと、どんなことができるのかの参考にもなるかと思うんです。だから、車に隠れているので連れていってもらえませんか?」
「うーん。言ってることの筋が通り過ぎてる。説得力ハンパないね。うーん。まだイルには戦闘力みたいなものはないし、どれくらい動けるかも未知数だからな。安全が確保できるのなら、何の心配もないんだが。あ? ソフィア? 昨日シールドの話をしてくれたけど、例えば、バリアーみたいな物理攻撃を通さないとか、相手に見えなくなるようなのはないの?」
「え? あー、どっちもあるわよ。見えなくなる、ってほうは、透明になるんじゃないけど、見えにくくなる? っというか、光学的にねじ曲げるんだけどね」
「それそれ。それはマスターするのは難しい?」
「うーん。オーラを発動できるなら、あとはセンスがあれば比較的、習得は難しくないわよ?」
「試しにイルに教えてみてくれる? できれば両方。できなくても片方が使えるようなら、イルは連れていってもいいよ?」
「ホントですか? イル頑張ります。ソフィー、よろしくお願いします」
「わかったわ。ジンもマコちゃも、もちろんケインも知らないんでしょ? ついでだから、一緒に聞いててね」
「了解です!」
ママはまずはオーラの説明と、その具現化をイルたちに教える。これは2人とも瞬時にマスターする。
続いて、オーラ? というか、生命エネルギーの形の変形の仕方、まぁ、主にはうまく具体的にイメージできるかどうかがポイントなんだけど、ケインがちょっと苦戦していたが、まぁ、マスターする。
問題のシールド。パパとマコは、もうそれに近いことを既に経験済だから、難なくクリア。ケインにはまだまだ難しいようだ。イルは思考が柔軟なのか、飲み込みが早い。だけど、硬質化ができるものの、強度があまり強くできないようだ。これは魔力量の問題かもしれないから、いずれは解決するはず。
見えにくくするほうは、やや高度なはずだが、イルには難しくはなかったようだ。
「うん。まぁ、いいだろう。じゃあ、イルは車から出ないこと。見えにくくするシールドを張って、その中で念のための硬質化シールドも張ってジッとしていること! それができるなら連れて行こう」
「ちゃんとできます。連れていってくれますか?」
「あぁ、OKだ」
「やったぁ」
車に乗り込み、イルんちへ向かう。軽トラなので狭いけれども、幼児と小学生の2人なら、助手席に並んで座れるから、中で作戦会議しながら車は進む。一通りの流れを話せば、イルんちに到着だ。
「じゃあ、イルは言った通り、シールド張って大人しく車の中にいること。いいね。声や音を出したり、動いて車体が揺れたりしたら、姿が隠す意味がなくなるから、くれぐれも大人しくしているんだぞ」
「はい。心得ていますよ。パパ?」
「そうか、録音だけは前と同じようにしといてくれ。あと、車の中にいるからってシールド解除しないようにな。シールド張っていれば、車ごと爆破されても大丈夫だが、張っていないと死ぬからな」
「うぅ、そうですね」
「マコトもオレも、シールドだけは張っておこう。それで、前に渡した花火の玉は持ってるな? 今回は使わないつもりだけど、万一に備えて使えるような心構えだけは忘れるなよ。ただし、シールド張りっぱなしじゃあ、撃てないからな! 一時的に解除するか、手首だけ撃てるように、シールドを部分的に解除するかのどちらかだが、後者は難しいかもだ。いろいろ試してみるといい」
「了解。後者も問題なくできるみたい」
「おぉ、すごいな、さすがはマコトだな」
「エヘヘ。でしょ?」
「今日は最初にイルのおうちに行くけど、たぶんそこではなにも起こらないと思うから、ポルターガイストは使えないな。もしそこで始まるなら使うけどね。おそらく今日は奴らの本拠地になると思う。その場合は、狙撃大作戦がいいと思ってる。もし、平和的解決に進むなら、何もしないけど、一戦始まる場合は、外のビル屋上から狙撃しているテイで、敵の落としたい武器と仮想狙撃手を結ぶあたりのガラスを割る威力で撃ち、すぐ次の瞬間には目的の武器を打ち落とす。そうすると思わぬ方向からの敵に注意が向くから、残りの武器を打ち落としていく。とまぁ、そんな算段だ。状況はどうなるかはわからないから、臨機応変にな。もし逃げるときは、シールド後方配置を忘れるなよ」
「はっ、了解であります。パパ殿。なんかまた楽しくなってきた。ワクワク」
「こら! 間違えれば命を落とすのだから真剣にやれよ! まぁ、楽しめるならソレも良いけどね」
「よし、いくぞ」
「「オー」」
「イルの家、到着。中に入ってみよう。イル? 鍵を貸してくれるか?」
「はい。どうぞ」
バタン、バタン。
「ん? 鍵が壊されている。中に入った形跡、というかかなり荒らされてるな。やはり連れ帰って良かったよ。それにしても、少し怒りが満ちてきたよ」
「マコもです」
「マコト? 外で人の気配があったの気付いたか? 住民じゃなく、たぶん銃か何かを持ってたな」
「うん。マコも気付いていたよ。気付かないふりしてたけどね」
「じゃあ、すぐに来るだろうから、相手の出方次第だな」
「じゃあ、先に電話を入れとくか。ピッポッパットゥルルルーッ、ぴっ。あ、もしもし、イチノセです。先日のお宅に到着してます。さきに進めていますね。ガチャっ。ツー、ツー」
「この間の警察官ね?」
「あぁ、もう一本電話するね。もしもし、夾竹桃会会長のジョンさまですか? 私は一ノ瀬仁、あ、はい。その一ノ瀬です。いえ、お話が通っており、助かります。実は私たちの家族が直面しているのですが、なにやらそちらの下部組織のベラドンナ商会が、悪どいこと、おそらく人身売買や臓器売買、その他諸々の悪事を振るっているようなのです。えぇ、そんなバカなと仰る気持ちはわたしも理解しています。まさか当家が資金援助、技術援助している先がこのような悪事を働く組織だったとは、夢にも思いませんでした。まだこのことは当家は知りません。ご協力いただけるなら、私の胸の内に秘めておくのもかまいません。はい。いえ、難しいことではありません。丁度今から当事者たちがこの場にやって来ますので、事実を確認した上で、お口添えをいただけると助かるのですが? はい、はい。ご了承頂けたようでありがとうございます。このまま通話状態でお待ち頂けますか? はい。よろしくお願いいたします」
「あぁ、別の電話でもう一本電話するね。トゥルルルーッ、プッ。もしもし、太田か? ああ、一ノ瀬だ。おぉ? 、なかなかの大物だな? 何? 繋がってるのか? ちょうどいいな。それなら三者通話にしてもらえるか? あぁ、話は通ってるんだな? あぁ、頼む。ププププっ。あ、初めまして。ジンイチノセです。今ちょうど相手方が到着しそうなので、お忙しいところを申し訳ありませんが、このまま通話状態で聞いていただけると助かるのですが。はい、ご理解、ご協力感謝いたします。いえいえ、どんな国でもいるものですから、お気になさらずに。今回はお掃除できる良い機会かと。あぁ、ちょうど来たみたいです。このままでお待ちください。はい、それでは」
「マコト、準備はOKか?」
「バッチリ。録音もね」
「うん。さすがだな」
「エヘヘ」
「お家の中が破壊されても困るし、どうやら敵は大人数だ。外で待ち受けようか?」
「りょ」
「おや? 先日の強盗の皆さん、今日は大所帯ですね。何事ですか?」
「あなた達はお二人ですか? あの親子はどちらに?」
「あぁ、私が保護していますから、いませんよ」
「なるほど、困りますねぇ。我々の世界にも秩序というものがありましてね。それを乱そうとするあなた達にも制裁が必要ではないか、との意見もありましてね。見たところ、そのお連れさまはお子さまでしょうか? うーん、大変お可愛い。なかなかの上物、いや? 日本人であるなら、極上物ですね。あの親子でなくても、お一人で充分元は取れるでしょう。まぁ、書類もキチンと整えて参りましたし、ここは屋外。昨日のような奇妙な現象も起こらないでしょう。素直に観念していただけると助かるのですが?」
「ホホゥ、お得意の偽造証書を性懲りもなく作ってきたと。またお粗末な偽物なんでしょうね?」
「いえいえ、前回のご指摘がありましたから、こちらの先生方のお力添えで完璧なものに仕上がってますよ。しかも今度はあなた達お二人が最初から狙いなので抜かりはありませんよ」
「ほう、今度は付け入る隙もない証書に仕上がっていると?」
「はい。もちろん。まぁ、強引さは否めませんが、あなた達お二人を捕らえれば何も問題ございませんよ。それにあの親子もあなたの口を割らせれば、後ほどゆっくりと回収できるでしょう」
「ほぅほぅ。で、そちらの後ろにいらっしゃる私服の紳士は警察署長さまですか?」
「なんとご存知でしたか? それならば話も早い。あなたはどう転んでも、この町で誰かの助けを得ることもできないわけです」
「なるほど、警察署長の癒着問題は真実だったようですね。しかし、警察全体が汚れてはいないようですが、もしこの場を見られたら、いくらあなたでも立場が無くなるのでは? 警察署長のミューラーさん?」
「そ、そうじゃのう。しかし、このタイミングに合わせて市場のほうに一斉捜査を命じているから、この場には誰も訪れることはないよ。ほっほっほっ」
「そういうことですから、素直に捕まっていただきたい。怪我をされては価値も下がるというものです」
「ということは、人身売買も手掛けておられると?」
「察しがいい。娘さんはそれが一番適しているでしょう。あなたの場合は、奴隷か臓器か、まぁ、これからじっくり検分いたしますから、ご心配なく」
「うーん。今度ばかりは用意周到ですね。最初から私たちに狙いを変えていたことも、念頭になかったです。でも、いいんですか? そんな悪事をペラペラ喋らせちゃって? 警察署長さん。それとあなたは、ベラドンナ商会でしたか? 下っ端組織のあなた達が勝手にやってることなのではないですか?」
「何? 貴様、我々の組織の何を知っている。まぁ、いい。夾竹桃会のハウエルさまから指示を受けて、この場を任されている。いずれ会長となられる立場のお方だ。貴様が何を知ろうとも、この町、いやこの国では何もできないと思え」
「あー、そろそろいいかな? ベラドンナ商会さん、やっぱりあなた達は下っ端組織でちょろいですね。まぁ、住む世界が狭すぎるから、仕方がないのかな?」
「ちょ、チョロいだとぉ? 貴様ぁ、舐めた口をきくにもほどがある、テメエら……」
「ちょっと待って!」
駆け出しかけた、ヤツらに対して、手のひら広げて腕を突き出す、いわゆる「止まれ!」の制止のジェスチャー。すると、律儀に止まろうとする。やはりチョロすぎる。
「夾竹桃会会長のジョンさん。お聞きになられましたか? ハウエルさんはご存知ですか?」
携帯のスピーカーをONにする。
「な、何? 夾竹桃会会長だと? また口からでまかせを」
「おぉ、ハウエルか、調子の良いことばかり抜かすほら吹き小僧だな? ちょうど今、使途不明金が多すぎることが内部で問題になっておってな、あらぬ悪い噂もあるようなので、ちょうど大掃除しようと思っていたところだ。そんなところに良い情報を助かったよ。ミスターイチノセ。すぐにでも緊急集会に掛かるとするよ。ベラドンナ商会とやら、そういうわけだから、夾竹桃会と貴様等は何の関わりも持たない、ということじゃ、早々に覚悟することだな?」
「お忙しいところをありがとうございました」
「あぁ、今回は助かったよ。また埋め合わせはさせてくれ。それでは忙しくなるからこれでお暇するよ。プツッ、プープーブー」
「というわけで、強力な後ろ盾が無くなってしまいましたね、ベラドンナ商会さん?」
「貴様、一体何者だ? おい、ハウエルさんに電話で確認してこい!」
「はっ!」
「さて、警察署長さん? ミューラーさんでしたっけ? 今まさにあなたの手駒が失われそうですが、いかがなさいますか?」
「フン。こいつらだけが手駒ではないし、後ろ盾が無くなるなら、ジギタリス商会か、キングサリ会に移籍させれば良いだけのこと。何も変わらんよ。君は早々に消したほうが良さそうだ」
「ほぅほぅ。ジギタリス商会にキングサリ会、それにわたしへの殺害予告ですか、あ、あなたもチョロすぎる。アハハハ、聞きましたか?」
「何を笑っている? それに誰と話しておる。ん? まさか,他にも誰か居るのか?」
もう一つの携帯のスピーカーON。
「あなた達の上司? この国の警察のトップの方だよ」
「な、何をデタラメを。貴様如きが……」
「話は聞かせてもらったよ、ミューラーくん」
「そ、その声は?!」
「癒着問題は、少々遠巻きに聞こえていたが、まさか真実だったとはな。署長とそれに荷担した者たちよ。追って沙汰があると思うが、覚悟することだな。万一逃亡しようものなら、国際指名手配のうえ、これ以上ない重罪、そうだな、死罪は免れないだろう。それが嫌なら大人しくすることだな。もしもその場合は一族もろとも隠蔽の罪にも問うことになる。この地球上に逃れる場所はないと思え」
「そ、そんなぁ」
膝を落とし、うなだれる警察署長とその取り巻きたち。
「ジェイムズ! はい、出番ですよ」
「おぉ、イチノセの旦那。気付いてたんですか?」
「えぇ、、とっくにね。その旦那ってのはなんですか? 先日と態度が違うじゃないですか? それより、署長とその側近たちをサッサと確保したほうがいいんじゃないですか?」
「えぇ、トップの言葉も頂けたんで、周囲の警官が逃がさないように包囲しながら集結中ですわ。まぁ、署長は私がこの手でしょっぴきますがね」
「そのすり寄るような口調は気持ち悪いからやめてくれますか。まぁ、確保はよろしくやってください」
「あぁ、ジェイムズくんか、君の活躍は私の耳にも届いておるよ。その現場をしっかり取り押さえてくれよ? 取り逃がしてはならぬぞ」
「はっ! かしこまりました」
「うむ。あぁ、それからミスターイチノセ、今回は多大なる協力に感謝する。今日はこれから直ぐに緊急会議を招集・開催して今後の対応に大急ぎで掛からねばならない。また改めて連絡させてくれ。今日は本当にありがとう。助かったよ。それではこれにて失礼させてもらうよ」
「いえ、今日はお忙しいところをありがとうございました。プツッ、プープープー」
「兄貴、連絡取れません。先方の周囲の者に電話で聞いてみたところ、一本の電話を受けると、血相を変えて、荷物をまとめて飛び出していったとか。どうやら奴の言うとおりのようですぜ」
「そうか、なら、捕まるのも地獄、他の一派に拾われても、屈辱の人生しか浮ばねぇ。そうなると、ここでひと暴れして、あの小僧を抹殺する。それが最悪を免れる最後の希望だと思わないか? あいつの頭の中には俺たちを陥れる巧妙な策がひしめいているように思える。奴さえ始末できりゃ、活路は開けるかもしれない。違うか?」
「あ、兄貴。俺も同感だ。アイツだけは底知れない不気味さがある。やろうぜ、皆」
「「「オー!」」」
「狙いはあの男と娘だ。撃て! ぶっ放せ!」
ガガガガ……
「あーぁ、マコト。避けられなかったな。なら、ばれないように大暴れだ。いくぞ。あぁ、突っ込むんじゃないぞ。あくまで距離を取って迎撃だ。狙うは手か足だぞ」
「了解。わかってるよ。まずは武器を何とかしよう」
「あぁ、そうだな」
「なぜか、あいつらに当たらねぇ。見えない防弾ガラスでもあるのか?」
「感づき始めたか。急ぐぞ。オレは前に出るから、その位置から援護頼む」
パパは大きく右側に迂回するように弧を描きながら、花火つぶてでヤツらの足元を散らす。派手な音でヤツらの注意を一手に引き受ける考えのようだ。その間にマコがゆっくり照準を定め、無音つぶてで一人一人の銃やナイフを正確に確実に、一個ずつ削ぎ落とすように、弾き飛ばしていく。
パパの派手な動きと音に、奴らは面白いように翻弄され、音も動きもない狙撃なので誰もこっちに気付かない。だから面白いようにドンドン弾き飛ばせる。そう、マコは今、サイレントスナイパー。うーーっ、カッコ気持ちいい。って、思ってたら、狙撃に気付いたわけではないけど、じっとしているマコに気付いた敵のひとりが、マコをさらうために近付いて来る。仕方ない。無音つぶてのまま、足を狙い命中。ドサッと勢いよく倒れる。その動きに周りが気付いて大勢がこっちに押し寄せる。ヤバい。それでも全員撃退できる自信はあるけど、さすがにこちらから撃つのはバレてしまう。尋常じゃない力がバレると、後々厄介だ。
そう思っていると、周囲から一斉に警察官が押し寄せてきた。遅いよ、とも思うが、ほど良い遅咲き登場だったかもしれない。何より楽しかったからね。あぁ、ドキドキして面白かった。よし、録音終了っと。カチッ。
「マコト、けがはないか?」
「うん。大丈夫。パパは?」
「オレも大丈夫だ。それより楽しかったな? シールドあれば全然怖く無いんだもんな」
「アハハハ、パパもそう思っていたんだ。ちょっと反則級だけど、絶対内緒だよね」
「そうだな。イルは大丈夫かな?」
「イルも大丈夫だよ」
「うわぁ、ビックリしたぁ。いつからそこに?」
「今だよ?」
「だ、だって、何の音もしなかったよ?」
「んふふん。ソフィーがお母さんの癒やしを掛けてるときに浮かしてたのを思い出して、なんとなくやってみたらできたみたい。テへ」
「テへ、って、すごい。イルってば、才能あるのね」
「ホントにすごいね。これは頼もしいぞ」
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