第2話 初めての友達、イル
ひょんなことから、現地育ちのちょっと可愛いイルという女の子と知り合った。
イルの見た目はすごく可愛い。肌は健康的な小麦色だが、おそらく白人系の肌がきれいに日焼けしているような感じだ。何が可愛いかって、肌もそうだけど、顔が無茶苦茶可愛い。
でもでも、なんてったって髪の色がすごくいい。赤っぽい金髪なのだ。金髪と赤毛が混じった髪で、どうやら「ストロベリーブロンド」といって、なかなか珍しい髪色らしく、髪色コンプレックスのマコからすれば憧れの的だ。見ているだけでうっとりしちゃうよ。
現地育ちとはいっても、たぶん移民なのだろうね。いくつかの国のクォーターらしいけど、マコと同じで、アフリカの人の血は混じっていないらしい。
ふとした話題から意気投合し、いつの間にか仲良しの友達という関係になっていた。
イルは二つ上の7歳で、日本でなら小学2年生。こちらでの教育制度や家庭環境をよく知らないから詳しくはわからないけど、学校には行っているらしい。マコより年上だけど、マコの物言いからか、見下すことなく対等な位置関係で向き合ってくれる。
イルは活発で裏表のないはきはきした物言いのため、誰からも安心して付き合えるからか、自然に人が集まり、できる輪の中心になることが多い、いわゆる人気者だ。巷で有名で、聡明で可愛らしいときたら、当然モテモテな立場であり、言い寄る男の子は多い。
しかし、イルはまだ色恋沙汰な話題にもあまり興味はなく、「ごめんなさい」とペコリ記録を絶賛更新中である。
その性格も手伝って、清々しく断られると、たいていの男の子はそれ以上しつこく言い寄ることはしないようだ。それは次のような理由らしい。
――・決して諦めたわけではないのだろうが、しつこさへの悪感情の芽生えは、自分にマイナスにしか働かないことをわかっていること、
――・誰も相手にされない「今」ではない、チャンス到来する「いつか」がいつなのか、の分析・予測が重要であると認識していること、
――・いつ訪れるかわからないそのときに、少しでも確実に、チャンスをモノにできるための自身の研鑽や、この難攻不落城を無傷開城させるための方策を練ること、の重要性を認識していること、など、ひとそれぞれの思いを胸に秘め、諦めたわけではないことを言い含めたうえで、紳士的に引き下がるようだ。
みんな、なかなか策士だね。それに引き際を知り、耐え忍ぶ心も持ち合わせているなんて、人間的素養が高いよね。
というのも、もとはその男子たちも、そっちこっちにいる男の子と変わらないお馬鹿さんだったのだけど、その男子たちがアタックし、当然のごとく撃沈する。大体小学生が殆どだから、イルの精神年齢から見たらそんなおませさんたちなんて、幼すぎて恋の相手には見えないんじゃないかな? ただ、イルは優しいというか、面倒見が良いというか、どこがダメだったのかをワンポイントアドバイスしてあげるのだ。
もちろん応じることができない自分のことは諦めてもらって、次の別の女の子とうまく付き合えるようにと、応援したいらしい。
イルの言葉はいつも的確で、相手の立場を尊重し、短い言葉の中でも、誤解なくキチンと伝えられるよう、言葉と心を尽くしている。それどころか、幼さゆえに気付いてなかったであろう、周りの人を含めた本人からの立ち位置の関係を図解入りでわかりやすく説明してあげることもあるそうだ。そのため、ほとんどの男子たちは勘違いすることもなく、自分自身を見つめなおす機会が与えられたことに気付き、数日たった頃には、心からの感謝の言葉が返ってくるらしい。
そうやって、自分の言葉をキチンと受け止め、理解し、僅かながらも成長の兆しが見えるような、実りあるレスポンスが返ってくるのは、誰でも嬉しいものだけど、イルも例外ではなく、たとえその度合いが小さくとも、そんな成長を自分のことのように喜び、嬉しくなって、その男子たちそれぞれが可愛い彼女をゲットして幸せを享受できるよう、さらなるアドバイスをあげるのだ。
みんなが自分のことを諦め、新しい恋に向けて頑張っていこうとする姿に、心から嬉しく思うイルだが、そんな男子たちの心の中は違っていた。みんなイルの言葉をキチンと理解しているが、皮肉にも、イルに磨き上げられたからこそ、イルの内に秘める美しさや素晴らしさへの理解がいっそう深まっていく。
イルによりどんどん洗練されていく男子たちは、もう迂闊な告白などしたりはしない。身の程を知り、今は高嶺の花であるイルだか、それに見合う男になって、いつか自分に振り向かせてみせる、という決意の炎を静かに燃やす男たちを、図らずもイル自身が育成していることに、露ほども気付けないイルだった。
そんな男子たちが日々研鑽を重ね高めている傍らで、何度お断りしても諦めてくれない男の子もいるそうだ。
純粋な恋心ゆえに諦めきれないという人も中にはいて、まぁ、こればかりはどうしようもない。諦めきれないなら、振り向いてくれるまでをじっと我慢するしかないだろう。この場合、すべては自己責任だ。迷惑をかけないでいてくれるなら、好きにすればよいのだが、それができない幼さなのか、人によっては、「青春だね~」のひとことで表現できる程度なのだけど、たいていの人からは、「面倒くさい」と思われてしまうことに気が付いてないようだ。
まぁ、ほどほどにね。
ただ厄介なのは、苦労知らずのお坊ちゃまが自分のわがままを押し通すような場合だ。特に生まれながらにして金や権力を持っている場合で、そんなのがさらにイケメンだったりしたら、もう最悪だ。何の責任もとれないのに、すべてを思いのままに生きてきたやつと交わせる言葉は持ち合わせていないし、まず受け入れることはないだろう。
そしてたいていの場合、そういう輩だからこそ、「引き際」とか「諦め」とか「忍耐」などの類の言葉を知らないらしく、いや言葉としては知っていても、その概念への理解・経験、そして認識などが著しく不足しているのだろう。おそらく痛い思いでもしなければ、響くことはないと思われる。
とはいえ、こちらから無理に痛い思いをさせる必要もないし、相手は多くの場合、何かしらの権力を持っているので、彼ら自身の勉強のために痛い思いをさせたくとも、たいていの場合、それは阻害される。そのような場合に、予想される反撃を無傷かつ安全に防いだうえで、さらに凌駕できるほどの力がなければ、踏み込むべき領域ではないし、それを行うに相応しい大義名分も持ち合わせてはいないので、今できることは、根気よく断り続け、相手が諦めてくれるのをひたすら待つしかないのが実情だ。
もしも度の過ぎる振る舞いで仕掛けられるようなことがあった場合、せいぜい、かけてくるちょっかいを上手に逸らすか、誰も傷つけることなく撃退できれば御の字といったところだろうか?
ここ最近では、イルに大変ご執心の、悪ガキ暴れん坊のお坊ちゃまが一人いるそうで、なるべく相手にしないようにしていると、少しでも気を引きたいのか、幼稚ないたずらを仕掛けるようになってきたらしい。
ちょっと厄介なのは、村長の長男らしいために何かあれば大ごとになりそうなことと、手を付けられないガキ大将気質と認識されているのか、おそらくその抑制のために、監視役の従者っぽい数人の大人か、子分肌の取り巻き連中が付いていることが多いのだけど、この周囲をもってしても、このガキ大将の暴走を止められる気がしないことだ。むしろ数による周囲に撒き散らす威圧効果が、ガキ大将の暴走振りを加速している気がする。
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