第8話 わたしはマコト

 時は1987年頃、舞台はアフリカ南部に位置する、とある国(以降、S国と呼称)の小さな集落。


 わたしはまこと。日本のアニメやマンガをこよなく愛するイケてる5歳の女の子だ。

 何がイケてるかって? まだ学校というところに入ったことはないから、いずれ習うことではあるけれど、新聞や雑誌くらいなら、すでに問題なく読み書きOKなのだ。あっ、難しい漢字はちょっと自信ないものもあるから、「読み」は大体OK? って言った方がいいのかな?


 物心付き始めてから、ここアフリカに越してくるまで、ひたすら観まくったアニメで、言葉や会話、いろいろな感情表現なんかを理解して、ひたすら読みまくったマンガで、文字・漢字の読み書きを自然に吸収して(……だって丁寧にルビ付いてるしね)、最近ハマり始めた小説なんかは、文字だけで表現できることの凄さと、文字だけなのに頭の中で彩られた世界の中をキャラクターが各々動き出すサマはまさにファンタジーなのではないかしら? っと、たぶん日本の中学生くらいの文章の読み書きはできるのではないかと。


 そう、書かれている文章を読むことも、その意味を理解することも、難易度の高い表現じゃなきゃ、たいてい問題ないから、大人とも自然な日常会話ができる自信はある。でもちょっとアニメやマンガ寄りな、気の利いたセリフ回しっぽい傾向があるみたいだから、お年寄りとの会話では、よく踏まなくてもよい小さな地雷をポコポコ踏んじゃったりして……、まぁそこはご愛敬ということで。。


 ただ、頑張って日本語力を高めたのだけれど、肝心のアフリカの現地語はまったく手つかずなんだよね。アフリカの現地語のアニメなんかがあるとやる気が出るのだけれど……。まぁ、逆にこれから現地で覚えていけばよいのだから、ま、いっか。ひとまず今はかんたんな会話レベルは身に付けているけど、文字の読み書きはさっぱりな状態なんだ。


 そんな私の名は、理科の「理」の一文字で「まこと」と読む。理とは「ことわり」、変わることのない法則などを意味するお気に入りの漢字らしく、日本人であるパパが付けてくれた名前だ。


 マコは、意味合いは置いといて、理という漢字自体の字面も、書きやすさも気に入っているけど、なによりも、「マコト」という読みとその響きは大好きだ。でも普段使いの呼び方として、一息で呼ぶにはちと長い。だから自分のことは短くマコって呼んでるし、呼ばせてる。もちろん仲良しさんだけだけどね。


 でもママだけは、最初のころは「マコちゃん」だったのが、「マコちゃ」と少し短めで呼んだり、最近やることが立て込んで忙しさそーなときは「マコち」と、どんどん短くなっている気がする。と思ったら、3文字は語呂が悪いのか、ごく最近「マコっち」と呼び始めた。あれっ? でも、なんかいいかも? 「マコっち」かぁー、うんうん。ママと友達みたいな、距離感がちょっといい感じな気がして、なんだかるんるんっな気分。。これで落ち着くといいなぁ……。


 マコは髪と瞳の色が真っ黒だ。もぅ漆黒。とわざわざ言葉にしてまで言ったのは、ママが外国人で、瞳が碧くてクルクル・フワフワの金髪だからだ。それに加えて、すらっとしてるから、カッコカワイーのだ。


 ママの名前はソフィア。N国生まれ。ほくおーというところらしいけど、なんだろっ? その「ほくおー」って響きもよくわからないカッコよさがあってとてもよいし、そちらに多いらしい「背が高く金髪碧眼」。そのうえすごく優しいときた。マジ美人なママ。おそるべしほくおーそんなすごくきれいなママの金髪と違って、マコの髪は真っ黒なのだ。すごくすごくすごくママがうらやましい。


 パパも優しくて大好きだけど、髪と瞳の色だけはママに似たかったなぁ~。しかも、ママの場合は、髪が金髪だからなのかな、なんかキラキラしていて……、うーんと、このキラキラは金髪だから、というだけの理由とは違う気がする。だって目の前を通り過ぎる他の金髪美人や、テレビで見る美人女優さん? とか見ても、ママみたいなキラキラも、キラキラを除いた素顔美人も、たぶん見たことがない。


 どんなにすごくきれーに見える人でも、ママにはかなわない。ママ大好き。


 ただマコの場合、髪と瞳が黒いは黒いのだけれど、同じく黒髪のパパと同じかというと、びみょーにちがってて、マコの髪は本当に真っ黒で、ずっと見つめていると吸い込まれそうな気がするってパパがいってた。


 パパの名前はジン、26歳、中肉中背のむかしちょっとイケメンだったかもな容姿だ。パパの髪は黒いけれど、真っ黒じゃない。すこしだけ栗色っぽい感じがしていて、ママにいわせると、人なつっこい感じに見えて、ちょうどいい塩梅なんだとか。


 確かに柔らかそうな栗色の髪は、初めて会う人にも、優しさがにじんでくるような印象が見て取れるから、長所といえる特徴ではあると思うし、パパ自身はそれ以上に優しさのかたまりのような人だから、ママにとっては見目と中身が何倍にも掛け合わさった魅力にいちころなのかもしれない。


 あっ、パパのやさしさって、甘やかしてくれるようなやさしさとはちょっと違ってて、いつもことばや行動が伴って、その結果が後からズシーンって心に響き渡るような優しさなんだよね。

 嬉しかったりしたときのその素を、時間や人や物をたどって振り返ると、数珠繋ぎのように繋がったその先には、いつもパパが言ってくれたり、してくれたことがそこにはあった。パパには先の先の先のもぉ~っと先が見えるみたいだ。まるで神様か魔法使いみたい。。


 なにやら難しいほーりつてきな問題が絡むときには「いんがかんけい」みたいなことばも零れてきたりして、なんのことだかマコにはさっぱりなのだけど、そこから少したった頃には、立ちはだかっていた壁のような問題事もいつの間にか乗り越えていて、そんなときには、笑顔咲くきらきら未来にそーぐーすることができるって、ママが幸せそうに言ってた。


 とくに算数や理科? 的なことにもむちゃくちゃ詳しいらしくて、とても頼りになるらしい。なんだかとってもあたまのよい優しさみたい。あたまをつかって誰かをしあわせににできるなんて、すごくスマートでカッコよすぎる~。そんなところにママもズキューンってきたのじゃないかなぁ?


 法律関係ってやたら難しそうだから、マコは好きじゃない。だから将来お嫁さんになるときは、小難しい人は嫌だけど、パパみたいに優しく頼れて、ほーりつ関係は、ぽいっと丸投げできる人がいいかな。あははは。


 ママはパパよりもっと優しい。って言い方したらパパは拗ねちゃいそうだけど、ママのやさしさって、ほかの誰ともくらべようがない、そう、偉大なの。いつも包まれているような安心感で、まるで女神さまみたいな……って、ほんとうの女神さまがいるのかはわからないけど、パパじゃなくても一目惚れしちゃうよね~。


 マコもお話しするときは混ぜてほしいけど、難しすぎることばはまだ苦手だから、話についていけないこともたまにある。そんなときは、わかってるふりをして、心の中にメモメモ。あとできっちり調べておくのだ。あはははぁ。知らないことは恥ずかしいことかもしれないけど、こういう機会学習のほうが一番学習効果があがるんだよね。


 というわけで、マコはハーフなんだけど、生まれたときに真っ黒な髪と瞳だったから、名前も日本人の名前で「まこと」になったんだって。もしもママみたいな金髪碧眼だったら、どんな名前を付けてくれたのかなぁ? なんとなく興味があるから、こんどママに聞いてみよぉっと。

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