第32話 次回、主人公が脱ぎます

 夏が近づいてきて、だんだんと直射日光も強くなる時期。

 運動をせずとも歩いているだけで汗ばむような、ヌメッとした暑さの中をみゃーちゃんと一緒に歩く。


 なぜ二人で帰宅の途についているのかと言えば


「ボディーガードをしていくのだ」

「この中で一番腕っ節が弱そうだけど安全ってこれ意味が分からないわね……」


 海未ちゃんに「発情期の二人に送らせたら狼になるわ」と首を振られながら言われ、一華は心外だとばかりに肩をいからせ、ふたりちゃんは「ふふふ~」とにこやかに笑っていた。

 80年代に活躍した二人組の曲が浮かんだけれども、色んな権利の関係上ここでは詳らかにすることは出来ない。


「前々から謎に包まれていた怜の放課後。この目でしっかりと焼き付けるのだ」

「たいしたことはないけど、それでもよろしければ」


 左腕を差し出すとしがみつくような形で抱きつかれる。元々スキンシップ過剰な子だ、海未ちゃんに怖い目を向けられるから発揮される機会が少ないだけで。


「おお……スーパーとは隠語ではなかったのだ」

「私が謝ることかは分からないけど、ゴメンね普通で……」


 一番小馬鹿にされているのは実家からの最寄りのスーパーであるんだけども、かの建物は悠然と構えているから頭を下げるにしたっておかしい。


 普段は買い過ぎ防止のために手にカゴを持って店内を巡るんだけど(単純に他のお客様の邪魔になってしまうのもある)

 手荷物を任せるには腕力にちょっと難があるから、冗談めかして「勝手にお菓子入れちゃダメだよ」と。


「怜の作るお菓子の方が美味しいからなー」

「それは……ありがとうございます。これからも差し入れは善処させていただきます」

「うむ、苦しゅうない」


 商品を物色しながらカゴに入れていると、物欲しそうな目でみゃーちゃんが眺めているので、頭を撫でて欲しいのかなと考えて手を伸ばす。


 触り心地の良い髪の毛や頭皮を撫でていると、彼女も心地よさげに目を細めて、


「怜と結婚生活を送ったらこんな毎日が続くんだろうなぁ」

「私と結婚する人は生活費で苦労しそうな気もするなぁ」


 ふたりちゃんの妄想の時もそうだったけど、自分が将来高給取りになるとは思えないので、薄給の中生活費をやりくりしているのが容易に想像できる。


 同性での生活なので子育てに関する諸経費が掛からないのだけが救い……


「だいじょうぶなのだ。お給金と出産は私にお任せなのだ」

「私はコウノトリかなんかじゃないんですよ!?」


 技術が発展して同性でも子どもを作り出産が可能になれば、まあ、ギリギリみゃーちゃんに子どもを任せるのも可能だろう。


「お給金までみゃーちゃんに任せるなんてできないよ」

「子どもの面倒を見つつお仕事も任せるなんてそれこそ無理なのだ。まあ、私もその道で食べていけたら良いなあと思っているだけなのだ」


 私も将来のことは考えてはいるけど、すっごいボヤッとしていて、薄ぼんやりしているのに不安でしょうがなくって、ややもすると悲観的にもなってしまう。

 

 みゃーちゃんは私よりも断然鮮やかなビジョンでこうありたいを語っている……まぶしいなって思った、なんとなくで暗い気分になっちゃう自分とは違って、目標があるから頑張れるんだろうな。


「将来の夢があるって素敵だね」

「……」


 相手を良い気分にさせようとか、勝手な羨ましさとかなしに、純粋にまぶしくて素敵な子を見ているとこっちも嬉しくなるよね。

 ちょっと違う面が目立ちつつあるけど、周りから慕われているみんなを眺めていると、あー、私とは違うなーって感じがする。


「産むから」

「え、何を?」


 安売りしている卵を手に取りながら言われたので、想わずみゃーちゃんが口から卵を出すシーンを想像してしまったけど、彼女はナメック星人じゃないから隠し芸じみた所業はなしえない。


「怜の子」

「そこに至るまでも至った後にも問題しかない将来の展望はやめましょう!?」


 私の子どもを産むって言っている姿はサスペンスじみていて、もう子どもを産むための行為はしましたと言わんばかりだけど、誰一人として自分から手を出したつもりはない。


「うー、じゃあ、代わり! 代わりなら良い!?」

「なかなか代替するものは思いつかないけど……まあ、それでみゃーちゃんが満足するなら」


 みゃーちゃんは困らせることはあっても嘘はつかないから、本当に代替となるものを提案して、それなら自分は満足しますと言っているのだから。


 約束だよ! となのだ口調を忘れて言われたので「指切りしようか」と言ったら手を握られて頬を寄せられた……これは、指切りげんまんの上位互換ということでオーケー?

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