第29話 超修羅場マックスゴッド
「というわけでコクったらオーケー貰ったわ」
「ちょー!?」
一華のグループ以外とはろくに交流がない陰キャと違って、様々な人たちと関係を深めているみんなが一同に揃う機会はなかなかに少ない。
放課後に入るのは敷居の高いファミレスにおける、海未ちゃんの唐突な関係性の吐露は方々に個性的な反応をさせた。
慌てているのは私、桜塚怜――確かに恋人のフリを了承したのは自分だし、一華にもみんなにもお付き合いの宣言はせねばとは考えていた。
こんな心の準備もできていない丁々発止で暴露をされるのは週刊誌だって驚きだよ……リークの前に自分から公にするスタイル。
飲んでいた炭酸系の飲み物が思いっきり喉に絡んでいるのは、神岸一華――オト高のスパダリとして名高く、顔面偏差値はマックス。
未だかつて誰一人告白に成功したことがない難攻不落な生徒としても有名。
両手で口を押さえながら咳き込みつつ悶絶する模様には、お気持ちを表明したいところだけども……。
相当な健啖家、食べたものの栄養がすべて胸に行っているのでは無いか疑惑がある立花ふたりちゃんは、夕食前なのに山盛りのポテトを食べていたんだけども、目が一点を見つめたまま微動だにせず、ポテトを持っていると思しき指が皿と口の間をひたすら往復している――怖い。
ふたりちゃんほどじゃないけど、甘いものが大好きで私のお手製のお菓子もお気に入りのみゃーちゃん。
思いきりしょげた表情を浮かべつつ、プリンパフェを食べるスピードが倍増した……もしかして、ストレスを食にぶつけるタイプなんだろうか。
「怜の反応を見るに口から出任せであると……これでも私の頭は良いほうでね……」
何とか吹かずに済んだ炭酸飲料のコップをぷるぷると震わせながらコースターへと着席。
都合の悪い事実を指摘された犯人みたいに動揺があからさまだけども、すっかり無口になった二人に比べれば話し合いの余地がある分だけマシだろうか。
「あら、どうしてそう思うのかしら?」
ふぅん? と言いたげに仰ぎ見ながら目を細くして、一華を見やるその姿は女王様と言った感じで、どこの女子高生がどういう鍛錬をしてそのオーラを纏っていられるのかが気になった。
私がどれだけ頑張ったところでアライグマの威嚇が関の山だ……あれほどユーモアに溢れててプリティーでないのが残念。
「怜は私と付き合っているからな」
「ごほっ!」
私は思いっきり咳き込んだけど、恋人dayの日は付き合っていないとも言いがたいので否定ができない。
ふたりちゃんの空ぶっている手が両手に増えて、蟹がご飯を食べている感じがしてきたし、みゃーちゃんは追加のパフェを頼んだ……そんなに頼んで大丈夫?
「日本語は正確に使いなさい。告白したけれど答えを先延ばしにして貰っている……いや、怜の優しさを利用して関係を持続させているのでしょう」
ふたりちゃんのセットアップを完了しなければいけなかったので、てづから口の中にポテトを入れたら、もう一口二口と要求をされた……これで元気になるなら良かった。
が、さっきまで自身でパフェを貪り食べていたみゃーちゃんまでが「あー」とあーんを要求するので、私は親鳥のようにポテトを持ち、スプーンを握った。
「キミこそ日本語を正確に使うべきだな。怜がよもや二股をかける女に見えるとでも?」
ふたりちゃんとみゃーちゃんが頷いているけれども、一華の答え先延ばしもそうだし、海未ちゃん提案の恋人のフリを了承したのは私だ。
両者ともに恋人同士であると言えない関係も端から見ればどっちつかずの人間と判断されるとも限らない。
「私がよしんば答えを先延ばしにして貰っているとしても、期限までには落とす自信があるよ」
なあ? と同意を求められたけれども、一華は大変魅力的です……と答えを濁すしかなかった。
や、だって顔は良いし距離感はバグってるし、愛の囁きに遠慮がないからドギマギしちゃうんだよ……この気持ちが恋なのか、ライクなのかまったく分からなくてズルズルとしてしまっているんだ。
「その自信がホテルでの行為に関連付けられているのね」
「ぐはっ!?」
せっかく再起動したというのに、目をまんまるに見開いたままこちらを凝視するふたりちゃん。ギギギと潤滑油の切れたブリキ人形のようにきしみながら動く様子が恐ろしい。
みゃーちゃんはすん、と消灯するようにいつもの明るい表情が切れて、あーんしたら食べてくれるけど、こっちももちろん心配だよ!?
「幼いころからの付き合いがなくとも、あなたの顔面が整っているのは認めるわ」
「ふっ、光栄だな海未。早くも敗北宣言……」
「それで迫れば……たとえ”その気がない女”でも、コロリと落ちてしまうでしょうね、ましてや強引に行けば頷いてしまう子よ? 一夜限りの過ちは大いにあり得るでしょうね……」
おでこに手のひらを当てながら「可哀想に」と嘆く姿は、さも私に同情を寄せられる要素があると言いたげだけども。
ご承知の通り、私と一華との間に一夜限りの過ちなどあるわけがない。
裸で抱き合ってキスまでしたってのが意識させてしまうのに充分な所業だった。
「怜は一華に抱かれたのか?」
「抱かれてませんが!?」
「強引には行かれたのか?」
「そういうのは主観では言いがたいかな……」
その気があった無かったは水掛け論になりがちだし、事実を摘示して具体的にこういうイベントがありましたなら第三者に判断して貰えるけど……。
「ねえ、怜ちゃん……その、言いづらいとは思うんだけど」
セットアップから再起動してようやく普段通りになったふたりちゃんがおずおずと言った調子で尋ねてくる。
この手の話題は主役が誰であろうと、プライバシーの根幹に関わってくるゆゆしき事態だから、興味本位で追及する話題じゃない。
「嫌だったかそうじゃなかったかだけ教えて」
すごく端的にいつもの落ち着いた調子で尋ねてくるものだから、海未ちゃんと一華の暴露による関係性の変化も元通りになるのではと考えて、ここは正直に答えることにした。
「迫られて驚いたのはあります。でも、そういうことをするのに抵抗はなかったです、ハイ」
これから一華と付き合うか否かはともかくとして、彼女にされた行為に対して否定的かと聞かれれば、嫌じゃなかった。
海未ちゃんからすれば一華の行動について思うところがあっただろうから、反省を促すために悪者扱いをしたけれども、そこは私の優柔不断さを免じて責めるならば桜塚怜にして欲しい。
「じゃあ、この中で誰に押し倒されても抵抗はしない感じ?」
「抵抗はするよ!? そんな誘い受けみたいなことしないよ!?」
「私が涙目で土下座をしながら、一夜限りの関係を提案してきたら?」
え、ふたりちゃんが涙目で土下座を!? もうそのシチュエーションが想像できないけど……あ、逆ならいくらでも。
「本当にするわけじゃないよ?」
「そうだよねぇ」
「でも、そうしたら私とえっちなことする?」
「私にそんな価値はないけど……すっごいお願いされたら考えちゃうかなあ……あはは、あり得ない想定だから楽だね」
なんて笑いながら答えると「まったく、しょうがないやつだな怜は」と一華が場を取りなすように告げ。
この場は一華の奢りねと海未ちゃんが言い、女の子のなんとも言えない抵抗しがたい同調圧力でスパダリの奢りでフェミレスでの会合は終了した。
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