第17話 一華のお母さんはスーファミをプレイしたのを隠語だと思ったそうです(気が早すぎでしょ!?)

 オト高の王子様とかスパダリとか呼ばれている人間がスーファミのコントローラーを握っているのが実にシュールだ。


「すごいな……コレがゲームか」


 これ、動くぞ? みたいな感じで恐る恐るボタンを押している姿が実に可愛らしい。

 赤い帽子を被ったキャラと緑の帽子を被ったキャラと王冠を乗っけた桃色のお姫様は知っていたらしく、一華は主人公だからという理由で赤い帽子のキャラを選んでいた。


「感嘆しているところ申し訳ないけど、30年近く前の親のお下がりです……」

「物持ちが良いんだな」


 コントローラーの扱い方に慣れておらず、まだ直進しかできない彼女も、私へのフォローは抜群。

 即答だったことからして気を使ったとか、本心では見下しているって可能性はゼロ。

 言葉が厳しい傾向にある海未ちゃんや雅ちゃんにスーファミをやらせようモノなら、どんな言葉が飛び出してくるか分からない。


 もしかしたらゲーム機自体に「これ、動くぞ!」と驚くかも分からない―― 


「あと、近くない?」

「すまないな。少しこの……こんとろーら? が短いモノだから」

「ああ、それは確かに」


 両親がまだ小学生だった時に間近な距離で罵り合いながらプレイしていたそうだから、おのずとソーシャルディスタンスは蔑ろになるのかもって。


「寄ってきてるじゃん!」

「はじめてだから優しくして」

「言葉選び!」


 スーファミ初体験なのは間違いなかろうが、頬を染めながら肩に頬を乗っけて言う台詞ではなかろうに。


「ベッドの上で言えば良かったか?」

「まあ、距離は取れるからそれでも良いけど」

「このままがいい」


 プレイスタイルと距離感は間違っているけれども、ゲームに対してネガティブな感情は抱いていない様子だから良かった。

 

「ふむ、一通り学んだから、今度は怜がヤっている姿を見たい」

「イントネーションがおかしくなかった?」


 タイムアタックなのに全然時間に挑戦してないプレイからしばらく、一華の希望でCPUとのレースに挑むことになった。

 私がカメの部下を選ぶと彼女が袖のあたりをクイクイと引く。


 お互いの熱が伝わる範囲でそんな無防備に可愛らしい姿をさらされてしまうと、大変にドキドキする。

 ……いや、この子は昨日着替えをガン見してきた子だ。


「どうしたの?」

「主人公を選ばないのか?」

「そういえば、赤い帽子の彼は選んだことなかったな」


 小っちゃいころからカメの部下を選んできたから、プレイするときは何でもなしにこの子を選択する。


「ちょっと重いキャラは苦手で」

「重いとか軽いとかあるのか」

「うん。簡単に言うとスタートが早いけど最高速がそれほどでもないキャラと、スタートが遅いけど最高速が速いキャラがいるの。赤い帽子はややスタートが遅くて、最高速がちょっと速い」

「なるほど、よくできているんだな……本当に30年前か?」

「とても残念なことに、今ではキャラもすっごい増えて、操作も複雑になっているのだよ……」


 単純さが敷居の高い低いになっているかはともかく、やれる限りの最善を尽くした感じが私のお気に入りだ。


「今のゲームはもっとリアルだし、声だって付いているよ。それにオンラインでこの場にいない人とも遊べる」

「そっか、確かにスマホで色々できたりするらしいからな、私は親から責任の取れる範囲でしろと脅されているから分からないけど」

「あー」


 自己責任って言葉があるけど、両親の庇護下にある高校生ってどこまでが自己責任なのか判断に困っちゃうよね。


 課金とかなら、一華みたいにメッチャ稼いでいる人でない限りお小遣いの中になるだろう。

 じゃあ、お小遣いの中で制限をなくしてやって良いか、それに付随した失敗を自分で取るべきか。


 一華なら問題が起こったときに親が出てくる範囲までなら何をしても良いと思う。お小遣いじゃなくてお給料を頂いているんだから。


「すごいな、独走じゃないか」

「このゲーム、やりこんでいると基本的に勝てるようになっているからね」

「今のゲームは違うのか?」

「私が風評から見る限り、今のゲームの難易度のMAXって理不尽レベルだよ。んで、そういうゲームをクリアしちゃう人と遊べるかって言ったら、向こうが折れてくれるしかない。私はヘタレだから、どうにも挑戦的になれなくてね……」


 初期配置のユニットのほとんどが攻撃に耐えられないとか。

 物語の仕様を完全に理解していないとプレイもままならないとか。

 難易度高いのを選ぶのは良いけど自己責任でねってのは好きじゃない。

 

「まあ、そのそういう理不尽さを経てもやりたい人はやれば良いのかな……あーでも」

「でも?」

「ソシャゲって言うの? ガチャガチャを回してキャラを手に入れるってゲームで、理不尽を解決するのがお金ってパターンは気をつけた方が良いよ」


 まあ、一華がソシャゲ廃人になるとかはありえないと思う。

 元来忙しいし、どう時間を捻出しているのかは分からないけど学力も高い。


 そんな子にレトロゲーを遊ばせて良いものかは判断に戸惑うけども、今のところ彼女も楽しんでいるのだから大丈夫なはず。


「時間と同じようにお金も溶けていくってなったら、それはもう依存症一歩手前だから……一華のご両親もそうなって欲しくないと考えるから釘を刺すんじゃないかな」


 彼女はどうしたことか不満そうに唇を尖らせた。

 どういう立場だよお前と言われたら涙目で俯いて申し訳ありませんって言うけど……。

 


「私はちゃんと自戒できる女だぞ。沼にハマるようにお金など払ったりしない」

「……」

「なんだその顔は、私に対して信用がないか?」

「いや、その姿がまさしく沼にハマりそうな姿だから不安で」


 私とは年季が違うのでプレイスタイルは初心者から抜け出したレベルだけど。

 コントローラーを握ってから数時間でここまで上達するのだから末恐ろしい。


 本当はマリカーだけじゃなくて桃鉄とかでも遊ぶ予定だったんだけど……まあ、機会があれば。


「怒らないからどこがどうなのか言ってみるが良い。私は事実摘示で根に持ったりしないから」

「さっき理不尽って言ったでしょ? 理不尽ってね努力をしても運が悪ければ覆されてしまう事案なの。それをお金で簡単に解決できるって言ったら、お金を持っている一華ならどうする?」


 彼女は金魚が呼吸を求めるように口をパクパクと動かして。


「ムキになると冷静な判断ができなくなるから……」

「傷口に塩を塗るなぁ!」


 小学生くらいなら怒って帰るくらいのことはするだろうけど、彼女はぷんすか怒ったまま太股に頭を乗っけて「もういい、怜の太ももと心中する」とか言った。


 なんかラストに失敗した感はあるから、恋人dayの翌日は「一華が所望する内容で良いよ、今日のお詫びも兼ねておうちで」と別れ際に告げた。

 不機嫌そうな表情が一発で治ったのは良いけど、まあ、変なことはしないよね……?

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