第3話 状況説明とかマジでキツいんだけど! (かなり無理!)

 今まで陽キャグループに所属してなかったから、あやつらは明るいけど人間力に難があると考えていた。


 が、仲間内にだけ優しいヤンキーとは違って、誰に対しても隔てなく愛情を降り注げる――ビックリな愛情保有量、ヒアルロン酸で保湿完璧みたいな優しさをお持ちになって。


 その上でとびきりの顔面……前世でどう徳を積んだら顔面や内面にチート属性を付与できるのか、前世で勇者をやってて苦難の末に魔王を倒したのかもしれない。


 オト高の生徒なら誰かしらに夢中になるグループの一員になって、春先はなんと幸運だとイキリ散らかしていたと思う――未熟な私と違ってお相手はチート属性が付与されたパーフェクトウーマンだったのだ……。


 ゲーマーならレベリングって言葉を聞いたことがあると思うんだけど。

 もちろん私が低レベルの足を引っ張るパーティメンバーで、他のみんなが世話を焼く上位互換。

 桜塚怜がレベリングして対等になれるんだったら、それはハッピーエンドの物語と言える。

 もしかすれば誰かしらが私のことを大好きになって恵まれた人生を送るかもしれない――


「んなわけあるかい! レベル2の私がレベル500のレベリングについていけるかいっ!」


 思わず地団駄を踏みそうになってしまった――対応を間違えれば即死の状況下でヒヤヒヤもんの交流をしながら、ちびちびと成長を重ねていく桜塚怜。

 こちとら10数年もんの陰キャなんだよ? 二ヶ月陽キャ演じて陽キャになれるんならさ、私は人生のどこかしらで「このままじゃやべー」って思って陽キャになってんだよ、二ヶ月前の私なに考えてんだオラ。


「もうこれで陰キャに逆戻りだ、井の中の蛙身の程を知る……これからは井戸の中でゲロゲロ鳴きながら、みんなの思い出を語りますよ、ゲロゲーロ」


 手すりに背中を預けて、ちょっとお下品だけどハンカチも引かずに地べたにお尻も付けちゃう。

 空を見上げていると今までの事柄が思い出に変わる心持ちがする。

 すべては虚空の彼方にあるのだと考えるだけで救われた気がする。


 はは、と乾いた笑いを漏らして屋上と校内とを断絶するドアを見やると、そこには神岸一華が立っていた。

 いやいや見間違い……あれは彗星かな? 違うな、彗星はもっとバーって動くもんな?


 彗星が二本足で立っているわけがないし、神岸一華にクリソツなんて事があるわけがない。

 すらりと長い両手足のモデル体型、誰しもが憧れ、誰しもが称賛する……キミのようになりたいとこいねがう、そんな人間が一人や二人ましてや彗星であってたまるものか。


「……一華?」


 喉がパリパリ、口の中が乾き乾きだったのでがさごそとした声色だったけれども、相手には自身の名前を呼ばれたと認知された模様。

 神岸グループの一員ならば人間として軸が出来ているので、滑舌が多少悪かろうとも「え? 聞こえなーい」とか死んでも言わないだろうけど。


「ふふっ、どうしてここにと言いたげだね? 壁に手を付いて顎をクイッ! としながら尋ねたら全部吐いてくれたよ」

「ちょっと待って!? そこまでしなくても良いから普通に訊いて!?」


 桜塚怜の行方を知りたいばかりに壁ドンをされた生徒……末代までの自慢話になりそうだけども、私の行方の見当を付けたのは恨んじゃうぞ。


 干からびたカエルみたくなっていた私は気力で立ち上がり、普段会話するようにおちゃらけたキャラクターを演じてみせる。


 が、先ほどまでのネガネガモードがいけなかったのか勢いよく立ち上がった瞬間にクラッときた――桜塚怜の大声で叫んだ! HPが尽きて死んでしまった! 的な感じ。


 まあ死んでないけど、そう簡単に人間は死なないけど、生きながら死んでる状態だろオマエって言われたら涙目で俯くけど!

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