桜舞い 胸に抱かれるその人は

彩世ひより

第1話  グループに所属するのマジきついもう無理(後悔しています)

 陰キャがスパダリから告白されて運命の歯車が回り出した。

 ただそれだけのことなんだ、特に難しく考える必要はない。



 私こと桜塚怜とは十数年ものの陰キャである。

 が、現在は陽キャに偽装している。


 スクールカーストの頂点の神岸グループの所属、ただし周囲からはその認知はほぼない。

 主役の神岸一華が輝きすぎているからだ、属性のバーゲンセールである。

 ……あ、私があまりに無個性からかもしれないね、責任転嫁は良くないですね。


 あと10年も経てば熟成どころか腐乱する陰キャがパリピグループに所属することになったのか説明するね。


 私が桜塚で一華が神岸。

 このクラスには「き~こ」までの人がいなかったのもまさしく運命。

 が、高校に入って陽キャになんベと息巻いとったわだすは緊張で縮こまっていたんだな。


 そんなとこに興味ありげに挨拶をしてくれたのが一華だったんだベ、なんでなまってるんだ直せ直せ。


 でもね、こちとら挨拶をされるなんて一個も予測してなかったから、脳がオーバーヒートしてしまって。

 酸素を求めるように口をパクパクと動かしたあと、コントロールキー、オルトキー、デリートキーを同時に押したみたいに私の意識はシャットダウンしたってわけ。


 しかもね、いきなりぶっ倒れた私を筋トレを趣味に持っている一華がお姫様抱っこで運んだんだって。

 彼女は「生まれてきてごめんなさい」って言ってたよ、どうしたらそんな自虐をできるんだ……って苦笑いしながら言ってたけど。


 言うでしょ! 林先生(今でしょの人)くらい食い気味で言うけど言うでしょ! いや林先生は溜め気味だっけ? 



 と、脳内モノローグをかましている間に八つの目がこちらを気にしていた。

 会話の最中に急に黙ったら、そりゃそうなるよねって感じだ。

 神岸グループのみんなは人間性が仏様レベルだから、私みたいな塵芥でも心配してくれるのだ、吹けば飛ぶのに。


 ここで一華以外のメンバーを紹介しておくね。


 立花ふたり――可愛い、天使、胸おっきいと女神の生まれ変わりか、もしくは女神そのものみたいな美少女。

 性格よし器量よしと桜塚怜の脳内でお嫁さんにしたい子ランキングナンバーツーの天使さんだ。


 愛川海未――規律正しい学級委員、真面目で融通の利かないところがあるけど、ストッパーとして抜群の働きを見せる美少女。

 普段はお堅いんだけど不意の笑顔が天使みたいなのでとっても素晴らしい。


 最後は椎名雅ちゃん――通称みゃーちゃん。小柄でなのだ口調で、私やふたりちゃんに抱きつく傾向がある美少女。

 気持ちいいからって抱きつかれるとその、私は心臓が止まりそうになっちゃうよ、パネェ。


 そんな人生勝ち組が約束された美少女の集団が私なんぞを心配してくれるのだ――申し訳なさで胸が一杯。

 

 だから耐えられなかった……手を握って回復魔法をかけてくるような癒やしの力はアンデッドには耐えられないのだ。


「あ、あのね! ちょっと急に用事を思い出したから、あ、用事があった気がするから失礼するね!」


 きょうび幼稚園児だってまともな言い訳をするだろって品質の低さ。


 でも、私は限界だったのだ。本質的な陰キャが華やかな陽キャ集団に紛れて生活して二ヶ月。

 精神をすり減らして迎合して、語彙が幼稚園児未満になるくらいメンタルが激ヤバだったのだ。


 逃げるように足早に一人になれる場所へと向かう――様々な人とすれ違ったけど、皆々に避けられていた気がする。


「あー、でも、マジ無理……キッツ……あー、一人最高」


 空を見上げながら独り言を宣う姿は周囲から見ればおかしみがある風景だろう。

 でも気にしないもん! 屋上に出る生徒がそもそも限られているし、普段は鍵がかけられているし。

 

 私はお手伝いさんみたいにはたらくの大好き星人だから、先生からスペアキー渡されているし! こうして悪用してたら没収されそうだけど!

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