大嫌いなコーヒーと貴方
ささくれ
すべて私だけのもの
「あれ、コーヒーは嫌いじゃなかった?」
そう言うと、目の前に座る彼女のコーヒーカップに伸びる指の動きは一瞬鈍くなった。
「ああ、覚えてたんだ」
もちろんよく覚えていた。刻み込んだ、という方が正しい。その頃の自分は彼女に恋をしていることをはっきりと自覚していたから。
「一口も飲めない、て言ってた」
「なんでそんなことまで覚えているの」
カップを掴もうとしていた手を口元に寄せて静かに彼女は笑った。
その笑顔を見て心臓の鼓動が助走をつけるように早まっていく。
なんでって、そんなの。この想いを言っていいのだろうか、今この場で。勘のいい彼女には悟られていると感じた。彼女の微笑みはとても静かで綺麗だ。
「それは」
「本当は大好きなの、コーヒー」
まるで独り言を呟くような軽やかさで言葉は遮られた。
「好きだから、そこには誰も何も入ってきて欲しくないの。私にとって好きってそういうことなの」
その世界にいるのは自分だけがいい。彼女はそう呟いてからコーヒーカップをそっと掴む。カップの中の波紋は揺らぐことはない。そして告げられたのだった。
だから、ごめんなさい。ーーきらいなの、貴方も。
大嫌いなコーヒーと貴方 ささくれ @sugu17
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