小さな服屋の店主を世界一の大資産家に成り上がらせた異世界転生者のお話
三紋昨夏
異世界転生者による経営改革チート
貧乏商人「俺の店で働きたいだと? いいか! まずは全商品の価格を覚えろ」
転生者「ふむふむ。値段交渉をする文化ですか。商品は何を扱っていますか?」
貧乏商人「見れば分かるだろ! 俺の店は服屋だ! 商品は100点以上ある。値段の相場を覚えたら、次は値切り交渉の受け答えだ! 安値で売りすぎると損をするぞ。どれだけ値引けるか、ふっかけられるか! 合わせ売りだとどうなるか! そのさじ加減を頭に叩き込め!」
転生者「ちなみに、一人前になるまでどれくらいの期間がかかりますか?」
貧乏商人「そうさな。まあ3年もすれば一人前だ! 頭が鈍けりゃもっとかかるぜ。俺を見て必死に覚えろよ!」
転生者「分かりました。――まず商品すべてに
貧乏商人「
転生者「定価で大量に売る。消耗品・日用品の売買で大儲けするのなら、絶対にこれしかありません」
貧乏商人「すごい自信だな。よし、試しにやってみるか。どうせ潰れかけの小さな服屋だ」
――後の『
◆ ◆ ◆ 1年後 ◆ ◆ ◆
裕福な商人「すばらしい! 沢山の商品を売れるようになったよ。大成功だ! 値切ってくる面倒な客の相手もせずに済む! ところで君! もっと儲ける方法はないかね?」
転生者「ありますよ。人件費が高いので、店員をもっと減らしましょう。成人男性である必要もありません。女性、老人、子供、誰であろうと通貨を数えられる知能と最低限の接客能力があれば構いません」
裕福な商人「女性を雇う⋯⋯? 女性を働かせている商店などないぞ? 商人は男の仕事だ。給仕や売り子とは違う。金を扱うんだぞ?」
転生者「今なら男性よりも安く雇えますね。私は差別を憎みます。老若男女を問わず、仕事を与えるべきです。当然、給料も平等にします。同一労働、同一賃金。男性の給料を女性や子供と同じにします」
裕福な商人「
転生者「それと、商品の品揃えも食料品を中心にしてください。売り場面積をとにかく増やし、大量仕入れ、低価格で客を掴みます。商品は客にカウンターまで持ってきてもらってください」
裕福な商人「ちょっと待った! これは安すぎないか? いくら薄利多売といっても、他店や
転生者「他店は潰します。時代錯誤の
――後の『スーパーマーケット』である。
◆ ◆ ◆ 1年後 ◆ ◆ ◆
大商人「日用品はスーパーマーケットで独占状態だ! 低価格で街の商店を廃業に追いやってやったよ! 笑いがとまらんな! 店を潰されたり、解雇した従業員からは恨まれてしまったが⋯⋯。ところで君! もっと儲ける方法はないかね?」
転生者「ありますよ。街の商店をあらかた潰したので、空白地域ができました。そこに24時間営業の小型商店を作りましょう。大型店が出店できないような都会の立地でも、小規模店舗なら展開が可能です。ただし、商品の価格はやや高めにします。スーパーが近くで営業してなければ他に選択肢はありません。強めの価格でも客は買います」
大商人「戦略は分かるが24時間営業⋯⋯? 8時間勤務だとしても1日に3人必要になるぞ。正気とは思えないな。どうやって従業員を確保する?」
転生者「ご安心ください。我々が競業を全て潰したので、街は失業者で溢れかえっています」
大商人「ああ⋯⋯そうだった⋯⋯」
転生者「彼らに職を恵んでやりましょう」
大商人「⋯⋯もはや奴隷商人だな」
――後の『コンビニ』である。
◆ ◆ ◆ 1年後 ◆ ◆ ◆
大富豪「ふむ。さまざまな客層を掴んだ。しかし、24時間営業は人件費がな⋯⋯。君! もっと儲ける方法はないかね?」
転生者「ありますよ。直営をやめて、看板とビジネス形式を貸し出しましょう。オーナーを募集してコンビニ業務を委託します。従業員の何人かが文句を言っているので、店主にさせてやるのです」
大富豪「おお! グッドアイディアだ! しかし、そうすると我々の利益が減るのではないか? 苦労してブランドを築いたコンビニを盗られてしまうぞ。それはもったいない気がする」
転生者「我々はブランド利用料、売上ロイヤリティで儲けます。当然ですがオーナーは事業主なので、我々とは雇用関係にありません。給料は自前で稼いでもらいますし、これから従業員を見つけるのもオーナーの仕事です」
大富豪「えぐいな⋯⋯。せめて開店するときの準備金はこっちで何割かは負担しよう。可哀想になってきた」
転生者「お優しいですね。それなら、お金だけでなく土地も貸しましょう。しかし、投資をする以上はリスクヘッジが必要です。最低でも10年は運営し、途中で廃業する場合、オーナーに対して多額の違約金を請求します」
大富豪「多額の違約金⋯⋯? 警戒されないか? それ?」
転生者「大丈夫です。10年間営業を続ければ、何の問題もありません。それと商品を仕入れる際は、かならず本部を通させてください。商品の質を維持するという名目で奴れぇ、ごほん! オーナーに首輪を付けます」
大富豪「今、奴隷と言いかけなかったか?」
――後の『フランチャイズ経営』である。
◆ ◆ ◆ 1年後 ◆ ◆ ◆
億万長者「儂はこの国の小売業を支配した。小売業界のボスだ! 君のおかげだよ。まさかスーパーマーケットの売り上げをコンビニが越えるとはな。⋯⋯ところで、もっと儲ける方法はないかね?」
転生者「ありますよ。これをご覧ください。友人の魔法使いに開発させたクリスタル石版です。これで欲しい商品を注文し、自宅まで届けます。輸送費はかかりますが、実店舗・接客の費用、窃盗などによる商品ロスのコストはゼロです」
億万長者「ほう。指先でスッスッと動く! 写真、映像、音楽、なんと! 音声通話までできるのか!? むしろ儂はこのクリスタル石版を売りたいんだが⋯⋯? とんでもない高値で売れる! 大儲けだ!」
転生者「残念ながらこれは無料で配っています。私と友人で共同開発したのですが、万民に無料で情報を届けたいという崇高な理念があったのです。本体が無料では利益がでません」
億万長者「そうか。儂は君を誤解しておった。もっと業突く張りかと⋯⋯」
転生者「心外ですね。私にも社会貢献の精神はありますよ」
億万長者「しかし、大丈夫か? 利益を出さずに継続できるのか⋯⋯? 援助ならするぞ?」
転生者「ありがとうございます。ですが、少額の月額利用量を使用者からもらっています。まあ、微々たる額ですよ。本体は無料なので、実質タダというわけです」
億万長者「実質タダ⋯⋯? ん? 魔法の石版を使い続ける限り、半永久的に金を吸い上げられているような⋯⋯」
転生者「それよりも通信販売の件を進めましょうか」
億万長者「ああ、うむ。そうだな。食料品は運んでいる最中に腐ってしまうかもしれない。最初は痛まないものがいいな。服も⋯⋯サイズが合わなかったらどうする?」
転生者「そうですね。まずは『本』の売買から始めましょう。輸送網が整ってきたら、食料品などの日用品を売りましょう。そして、衣服については返品も認める大らか運営でノウハウを築くのです」
――後の『通販サイト』である。
◆ ◆ ◆ 1年後 ◆ ◆ ◆
資産家「すべて君のおかげだよ。見たまえ。さきほど国王陛下から勲章をもらったんだ。高額納税者の証だ。潰れかけの服屋だった儂が、ほんの数年で巨万の富を築いた!」
転生者「おめでとうございます」
資産家「通販販売は素晴らしい! 今では世界展開だ! 儂は間違いなく世界一の大金持ちだな!! くっはははは! 国家予算並の売上高だ! さすがの君でもこれ以上は儲ける方法をしらんのではないかね?」
転生者「ありますよ。納税をやめましょう」
資産家「え? ちょ⋯⋯! 犯罪では⋯⋯? 納税は義務じゃぞ?」
転生者「まず商会の本部を無税の外国に移します。商取引は魔法の石版で行われています。つまり、外国で交わされた売買となります。この国に税金を払う理由がありません」
資産家「いやいや! 購入者はこの国にいて、商品だってこの国にあるのだぞ!?」
転生者「ええ。そうです。この国には大切なお客様がおり、我が商会の倉庫があります。しかしながら、店は存在せず、本部もない。したがいまして、我々は倉庫にかかる税金だけを払えばいいのです。真っ当な理屈でしょう?」
資産家「儂には脱税の方便にしか聞こえないのだが⋯⋯」
転生者「合法的な節税です。ご存知ですか? 払わなくなった税金の分は単純増。すなわち、純増利益なのですよ」
――後の『Am●zon』である。
◆ ◆ ◆ 1年後 ◆ ◆ ◆
転生者「⋯⋯おやおや、どうされました?」
億万長者「君は異世界から転生したと言っていたな。まさかその異世界ってのは地獄で⋯⋯君は悪魔なんじゃないか⋯⋯?」
転生者「とんでもない。私の前世はただの経営コンサルタントです」
億万長者「なるほど⋯⋯。君の世界では悪魔の親玉を経営コンサルタントというんだな」
小さな服屋の店主を世界一の大資産家に成り上がらせた異世界転生者のお話 三紋昨夏 @sanmonsakka
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