第64話 総仕上げの激戦!
「にゃ(それじゃ――補助開始にゃ)」
タマの合図と共に……「呼吸」に調整が入ったのだろう。
ステラちゃんがまた一段と巨大化し、タマよりは若干小さいかどうかくらいのサイズになった。
「にゃ(まずはあの斧を
「にゃ!」
どうやら今回はタマの戦術指示のもと戦う形となるようだ。
アックスティターンは斧を大上段に振り上げ……猛烈に走ってステラちゃんに向かって振り下ろそうとした。
ステラちゃんはそれを難なく回避し、両前足で挟む形でアックスティターンの持ち手を掴む。
次の瞬間――斧だけがその場に残り、アックスティターン本体は回転しながらすっ飛んで行ってしまった。
「にゃ(上手にゃ。無理やりではなく、ちゃんと相手の力を利用できてたにゃ)」
「にゃ!」
どうやら理想的な投げ飛ばし方ができていたようで、タマは満足げに褒め言葉を口にする。
アックスティターンはというと……投げ飛ばされた先で起き上がったかと思うと、「ガアアァァ!」と雄叫びを上げながら猛烈な勢いで走って戻ってきた。
そんな様子を見て、ネルさんが一言こう呟く。
「怒りモードにさせちゃいましたね……」
怒り……モード?
「何ですかそれは?」
「アックスティターンって、斧を取り上げると取り返そうとして猛烈に怒るんです。理性が吹っ飛んで見境なく凶暴に暴れまわるので、なかなか恐ろしいモードでして……」
聞いてみると、ネルさんはそう解説してくれた。
が――このモードについて、タマの見解は少し違うようだ。
「にゃ(我を忘れた生物の本能任せな暴走など、先の先を読める者にとっては取るに足らないにゃ。あれを相手に、カウンターの練習をするにゃ)」
どうやら「タマ流ニャイ氣体術」においては、むしろこのモードの方が都合がいいようだ。
「にゃ!」
気前よく返事をすると、ステラちゃんは鬼気迫ってくるアックスティターンに自ら突っ込んでいった。
それを見て、アックスティターンは腕をブンブンと振り回すが……。
「にゃっ!」
ものの見事に全て空振りし、逆にステラちゃんのカウンターは完璧に有効打が入った。
一発カウンターが入るたびに、アックスティターンは大きくよろめいて後退する。
5発くらいカウンターが入ったところで、とうとうアックスティターンは尻もちをついた。
このまま行けば順当にステラちゃんの勝利か。
と、思ったところだったが――。
「にゃ(よし、一旦タンマにゃ)」
何を意図してか、ここでタマが戦闘中断の合図を出した。
「にゃ、にゃあ(ここ、ツボにゃんで。そしてこことここと……指定の12箇所は急所にゃんで)」
タマはアックスティターンに近づくと、「ツボ」と指定した1箇所および「急所」に指定した12箇所の計13個所をポンポンと触れていく。
「にゃーん(15分で死ぬ代償と引き換えに攻防力が3倍になるツボを押したから、もう今のパンチ力じゃ有効打にならないにゃ。その代わり、こめかみや心臓……いわゆる人体で言う『ナンバリング』に相当する箇所を急所にしたにゃ)」
「にゃあ?」
「にゃ(ステラちゃんには、この巨人が寿命を迎える前に、急所に的確にカウンターを入れてトドメを刺してみてほしいにゃ。ちょっと難しくなるけどできるはずにゃ)」
何かと思えば……稽古としてのレベルを一段上げるために調整をしていたようだ。
「にゃ!」
集中力のギアがまた一段上がったのだろうか。
ステラちゃんは威勢よく返事したかと思うと、また少し大きくなり、タマとのサイズ差が小さくなったように見えた。
:なんか魔改造が始まったwwwww
:【黄】タマちゃん、アックスティターンを木人椿かなんかだと思ってそうで草 ¥3,000
:ありもしないリミッターが解除されるアックスティターン氏wwww
:今までやってることがエグすぎて、危険度Aモンスターをオモチャにする程度日常の一コマに見えてしまう現実
:↑マジそれな 冷静に考えておかしなことやっとる
このまさかの変化球な展開には、視聴者のみんなも盛り上がっている様子だ。
などと思いつつ、もうしばらくコメント欄を眺めていると……。
:【赤】なるほど、鎧通しと合わせずに秘孔創造だけやって弟子の稽古に使う発想が ¥20,000
これは……闇宮先生のコメントか?
言われてみれば確かに、攻撃を伴わない「急所にゃんで」は初見な気がする。
てか、相変わらず闇宮先生は勉強……というか技術の逆輸入目的でこの配信を見てんだな。
アックスティターンが起き上がると、再び攻防のラッシュが始まる。
アックスティターンの動きはさっきとは比べ物にならないくらい俊敏になっていたが……ステラちゃんの方はむしろさっきよりゆったりとしたように見える動きで、繰り出される攻撃の全てを躱していった。
これが「練度が上がって動きに無駄がなくなる」ということか。
カウンターは次々と、的確にタマが「急所にゃんで」したところにヒットし……戦闘再開から1分後、ついにアックスティターンが倒れ、ドロップ品に変わりだした。
制限時間の15分の1での圧勝だ。
「にゃあ!(よくやったにゃ! 見違えるほど動きが良くなってるにゃ!)」
「にゃ!」
合氣による補助を解除し、虎くらいのサイズに戻ったステラちゃんを、タマは労いの言葉をかけながら優しく撫でた。
頑張りが認められてよほど嬉しいのか、ステラちゃんもスリスリとタマの足にすり寄る。
:【赤】おつかれさま! ¥10,000
:【赤】凄い戦いだった! ¥12,000
:【赤】師弟愛マジでてぇてぇ ¥15,000
:【赤】うちの子も習わせてみたいと思った! ¥10,000
:【赤】補助でDレベルをAレベルに引き上げる方も、それに応えてベストパフォーマンスを出す方もほんとに凄い! 感動しました ¥20,000
コメント欄を見てみると……開いた口が塞がらなくなるくらい、怒涛の速度で真っ赤な画面が流れている。
これは最高のフィナーレを迎えたな。
と、思った俺だったが……ここでステラちゃんが放った一言の疑問により、流れはまた大きく変わることとなった。
「にゃあ?」
「にゃ?(この武術に究極奥義はあるのか、あるならいつかは覚えられるのかって?)」
「にゃあ!」
「にゃ(そうだにゃ……それなら、せっかくここまで頑張ってくれたし、良い技を見せてあげるにゃ。これはステラちゃんの素質があれば間違いなく習得できるにゃ)」
おいおい……ここから更に上位の技のお披露目があるのかよ。
「にゃ(ここ、ツボにゃんで)」
呆気にとられている間もなく、タマはダンジョンをツボして次のモンスターを呼び出した。
出てきたのは、全身が光沢のある金属の鱗で覆われた、目が赤く光る全長30メートルくらいのヘビだった。
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