第30話 吾輩は夏目隕石でにゃ〜る
「(いや……え?)」
よほどタマの作戦が想定外だったのだろうか。
リッチー隊長はそう言ったかと思うと、またもやしばらく開いた口が塞がらなくなってしまった。
うーん……おそらくタマはおかしい事を言ってるんだろうと思うが、どれくらいおかしいのかが分からないので、なぜみんながこんなに驚くのかもイマイチ掴めないな。
などと思いつつ、数秒の静寂をやり過ごしていると……リッチー隊長は続けてタマにこう質問した。
「(そんなことが……本当に、本当に可能なのか?)」
わざわざ「本当に」を繰り返すあたり、相当タマの言ってることが信じられないみたいだな。
「ごろにゃ〜?(当然にゃ。なんでそんなことを聞くにゃ?)」
逆にタマがそう聞き返すと、リッチー隊長は理由を説明しだした。
「(そんなの決まっているだろう。ダンジョンの破壊は、今まで一度として成功させられた事が無いからだ)」
え……ダンジョンって、過去にも破壊が試みられたことがあるのか?
意外に思っている間にも、リッチー隊長は更にこう続ける。
「(ここ以外にも、資源が得られる有用性より被害のリスクや有害性が上回る、いわゆる『邪魔なダンジョン』は世界に何か所かあるからな。そういったダンジョンは当然、過去に完全破壊を試みられたことがある。時には、そのためにSランク探索者複数名が集結したこともあった。しかし……作戦はどれも失敗に終わったんだ)」
どうやら話によると、ダンジョンの破壊というのは歴史的にその不可能さが証明されているようだった。
なるほど……それなら確かに、さっきの反応になるのも納得だな。
って――タマ、それをやれると確信してるんかい。
「にゃ、ごろにゃ〜ん(ま、なら今は信じなくていいにゃ。百聞は一見に如かずって言うにゃ)」
それを聞いても尚、タマは自信ありげにそう返事した。
「にゃあ? (あの新商品のにゃ〜る貰っていいにゃ?)」
そしてタマは
「ああ、もちろんだ。 ……リッチー隊長、一つお願いなんだが、タマの様子をカメラで撮影してもいいか?」
俺は
そんな前代未聞の偉業を成し遂げるなら、ぜひとも記録に残して全世界に配信したいからな。
とはいえ、軍事行動の区域でそんなことが許されるのかは分からないが。
「(ああ……構わない)」
半分期待せずに求めた撮影許可はしかし、あっさりと降りることとなった。
ありがたい限りだ。これでまた一歩、まつもとペットフードのスポンサーになってくれる確率が上がるな。
ちなみにそうは言っても今から生配信の準備をする時間は無いので、今回は撮影だけしておいて、あとで編集してゲラゲラ動画にアップするつもりだが。
俺はカメラを起動してからタマの前に
「ごろごろ!(はっぴーはっぴーはっぴー、にゃ!)」
テンションMAXで、
「にゃーーーー! にゃにゃーーーーー!(ヤーーーー! パワーーーーー!)」
全て平らげると……タマは「やる気モード」に入り、また全身から黄金のオーラを出し始めた。
「(ジーザス……なんて神々しい……)」
そんなタマを見て、リッチー隊長はいかにもアメリカンな反応を見せる。
「にゃ(それじゃやるにゃ)」
タマはそう言うと、おもむろに空中へと浮き上がり、地上から五十メートルほどのところで静止した。
かと思うと……次の瞬間、タマは全身の黄金のオーラを中華料理屋の五徳の最高火力かのように激しく轟々と滾らせる。
そして――今まで聞いたこともない呪文の詠唱を始めた。
「にゃにゃにゃにゃにゃ にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ にゃにゃにゃにゃにゃ(吾輩は 夏目隕石 夏メテオ)」
なんじゃそりゃ。
ふざけているのか――と言いたいところだったが、直後に出現した直径百メートルはありそうな超巨大魔法陣を見ると、俺はそんなツッコミを入れる気も失せた。
おいおいおい、何が始まろうとしているんだ。
固唾を呑んで見守っていると――巨大魔法陣からは、のっそりと巨大隕石が姿を覗かせた。
最初は一角だけが見えていた隕石だったが、次第に魔法陣から出てきている体積が大きくなり、数秒後にはついに全容が露になる。
そして――魔法陣が虹色に輝いたかと思うと、隕石は急加速して海中へとツッコんだ。
巨大な水柱を上げつつ、隕石は瞬く間に海中深くにめり込む。
「……にゃ(このままでは余波で街がまずいから、鎮めるにゃ)」
隕石の落下地点の周囲に巨大な波が発生しているのを見て……タマは至って冷静にそう言った。
「にゃあ(収まれにゃ)」
タマが海に手をかざして念力をかけると……なんと、先ほどまでの荒波が嘘のように、海面がピタッと微動だにしなくなった。
数秒後、真下にダンジョンがあったであろう地点からは、見たこともないくらい巨大で黄金色のカプセルが浮かび上がってきた。
あれはまさか……ダンジョンそのものがドロップ品と化した、的なやつか?
「ふにゃ〜(回収するにゃ)」
タマは巨大黄金カプセルを収納し、こちらにゆったりと戻ってきた。
「よくやったぞ」
とりあえず、俺はタマの頭を撫でておいた。
「(ま、ままままま……)」
ふと後ろからペタンと音が聞こえたので振り返ってみると、リッチー隊長は腰が抜けたようにへたり込んでしまっていた。
「(マジか……き、金色のカプセル、学説通りじゃねえか。ほほ本当にやりやがった。し、しかも破壊の余波の相殺まで……)」
半分白目を剥きながら、彼は言葉を噛み噛みで感想を口にする。
……どうせテレパシーに変換するなら噛んでるとこまで再現しなくていいと思うのだが。
「にゃ(できたにゃ)」
タマは誇らしげに、シンプルな一言でそう報告した。
「(全く……とんでもない逸材がいたもんだ。これがSランクじゃないなんて、日本の迷宮協会が一体何をしている?)」
ごめんなさい、それ日本の迷宮協会のせいじゃないです。
俺の筆記が散々だっただけなのであんまり責めないであげてください。
などと心の中で謝っている間に、リッチー隊長は何度か大きく深呼吸した。
そして、足はまだ震えていながらも何とか立ち上がり、こう口にする。
「(いやはや、取り乱してすまない。まずは改めて礼を言おう。この度は窮地を救ってくれただけでなく、問題を根底から解決までしてもらって本当にありがとう)」
「にゃ」
リッチー隊長がタマに手を差し出すと、タマはそのぷにぷにの肉球で握手に応じた。
続けて彼は、俺の方を向いてこんなことを言いだした。
「(意外と思うだろうが……実は私、こう見えて親戚に世界的なロックスターがいてね。この返しきれない恩を少しでも返すためにも、その親戚に猫ちゃんへのお礼の曲を作るよう頼み込んでおくよ)」
「あ、ああ……ありがとう」
それは何だ……アメリカンジョークってやつか?
まあ一応気持ちは受け取っておこう。
よし。じゃあ一件落着したことだし……後のことは軍隊に任せて、俺たちはお暇するとするか。
ちょうど気になってた
会場は西海岸のスタジアムだが、む〜とふぉるむなら問題なく間に合うだろう。
「タマ、行こうか」
「にゃ(そうだにゃ)」
タマはむ〜とふぉるむに変身すると、念力で俺を吸い寄せた。
そして、オメガフォースの隊員たちに手を振る間だけゆっくりと上昇し、姿が見えなくなる高度に達してからは西に向けて急加速しだした。
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