第28話 いざ、アメリカの海底ダンジョンへ

「な、なんかアメリカがやばいことになってるみたいですね……」


「そ、そんな感じでしたね。ちょっと調べてみましょうか」


 配信を止めた後、俺たちは海外勢のSOSが具体的にどういう事案なのか調べることにした。

 と言っても……こういうのって、どうやって調べればいいんだろ。


 とりあえず、トゥイッターで詳しそうな人に呼びかけてみるか。

 などと思っていると――それより先に、タマが手がかりを一つ見つけてくれた。


「にゃ(これをみるにゃ)」


 鳴き声の後、俺のスマホに一つのウェブサイトが表示された。

 それは一週間ほど前にアップされた、迷宮協会ニュージャージー支部からの公式の注意喚起だった。


「未発見の、海底ダンジョン……?」


 そこに書かれていたのは、ニュージャージー沿岸から十キロほど沖合の位置に新たな海底ダンジョンが見つかった、という情報だった。

 記事によると、そのダンジョンからはモンスターが溢れ出る恐れがあるため、調査が完了するまではBランク以下の探索者を含めた一般人の立ち入りを制限しているのだとか。


「はえー。ダンジョンからモンスターが溢れ出るとか、そんなことってあるんですね」


「探索者が長い期間立ち入っていないダンジョンは、その危険性がありますね。ダンジョンって、定期的に中の魔物を間引かないと稀に上限を超えてモンスターがリスポーンしてしまうんです。ダンジョンのモンスターは通常、ダンジョンから出られない制限があるんですが、過剰リスポーン時はその制限が外れてしまうんだとか」


 俺が感想を口にすると、水原さんがそんな解説を入れてくれた。


「とすると……先ほどの海外勢のSOSは、危惧していたモンスターの溢れ出しが起こってしまって、街にモンスターが向かってきているみたいな感じだったんですかね?」


「その可能性は高そうですね……。あ、木天蓼さんこれ見てください!」


 現場の状況を予想していると、水原さんが何か見つけたようで、俺のスマホにリンクを転送してきた。

 リンクを開くと……ゲラゲラ動画のアプリに画面が遷移し、たった今公開されたアメリカのニュース速報番組のチャンネルの動画が表示された。


 その動画によると、案の定、海底ダンジョンからは魔物が溢れ出して来ているとのことだった。

 取材には現場の対応に当たっている「オメガフォース」のリッチー・ラッシュバウム隊長が応えていて、彼曰く「ダンジョンから出てくる魔物は全て危険度Aクラス。今はまだ出てくる数が少ないので対処できているが、三時間前あたりからその数は指数関数的に増加しており、この傾向が続くなら増援無しには対処しきれない」とのこと。


「オメガ……フォース……?」


「Aランク以上の探索者のみで構成される、ダンジョン関係のトラブルを専門とする米軍特殊部隊ですね。隊長のリッチー氏はその中でも頭一つ飛び抜けていて、Sランク探索者資格をお持ちなのだとか」


 へえ、そういうパーティーがあるのかと思ったらまさかの正式な軍隊なのか。

 一般人の立ち入りは制限されているらしいし、軍が出動しているなら今さら首を突っ込む余地も無い……と言いたいところだが、今後の流れによっては増援が無いと厳しいかもしれないって言ってるしなあ。


 一応、行くだけ行ってみるか。

 そんで近くで待機しておいて、戦力として必要とされそうなら参戦するし、軍だけでどうにかなりそうなら下手に手出しはせず、メジャー観戦でもして帰るとして。


「タマ……今から11000キロほど飛ぶことってできそうか?」


「にゃ(余裕にゃ)」


 む〜とふぉるむの航続距離的にも問題ないとのことなので、早速俺は出発することにした。


「水原さん、急ですいませんが……この現場に行ってこようかと思います」


「えっ、大丈夫なんですか? 先ほどダンジョンを攻略したばかりなのに、疲れとかは……」


「にゃ(問題ないにゃ。でもあの新しいにゃ〜るは貰っていきたいにゃ)」


「そ、それくらいでしたらもちろんです……! はい、これを!」


 水原さんからはMEOWミャオにゃ〜るDXデラックスをもう一本もらい、送り出されることとなった。


「ご武運を祈ります」


「ありがとうございます。といっても……本当に戦うことになるかは向こうの状況次第ですが」


 挨拶をしている間に、タマはむ〜とふぉるむへ。

 念力で吸い寄せられると、次の瞬間にはもう地上が遥か下に離れていた。



 ◇◇◇【side:オメガフォース視点】



 哲也とタマが日本を出発してから約三十分後のこと。

 オメガフォースの隊長、リッチー・ラッシュバウムはこれまでにない不安を感じていた。


「おいおい、勘弁してくれよ……」


 また一体、新たに海から姿を現したモンスターの姿を見て……彼は頭を抱えながらそう呟く。

 出現したのはリヴァイアサンという、危険度Aでも特に難しいダンジョンでボスをやっているはずのモンスターだった。


「こいつが出てくる・・・・たあ、どういう意味だよ……」


 最新の迷宮学の学説によれば、過剰リスポーンによるモンスターの氾濫時であっても、ボスは絶対にダンジョンから出てこないとされていたはずだ。

 にもかかわらず、危険度Aならボス設定のはずの魔物が平然と姿を現すことが何を意味するか。


 考えただけで、リッチーはため息をつかざるを得なかった。


 今までの戦いでは、戦力温存のため戦闘を全て部下に任せていたリッチーだったが……流石に今回は全く手助けしないと味方に被害が出る懸念を考慮し、自身も参戦することに。


「バッド・メディシン」


 彼は杖を取り出すと、手始めに強力な毒魔法をリヴァイアサンに飛ばした。


「ギャアァァァァ!」


 流石の危険度Aのボス級モンスターといえど、Sランク探索者の毒魔法は堪えるようで、リヴァイアサンは叫び声をあげた。

 その動きも、魔法がかかる前と比べて少し鈍くなっている。


「今だ、やれ!」


「「「「イエッサー!」」」」


 リッチーの号令により、部下のAランク探索者たちは一斉に攻撃を開始した。

 しかし……ちょくちょく微妙にリヴァイアサンが痛がる程度の攻撃は入るものの、部下たちでは決定打になるようなダメージは与えられず、戦況はしばらく拮抗する。


「仕方がないか……」


 それを見かねて、リッチーは次の攻撃を繰りだすことを決意した。


「相当魔力を食うから、本当はやりたく無かったがやむを得ん」


 再度杖を構え、彼はこう詠唱する。


「ハヴ・ア・ナイス・デイ」


 呪文の詠唱と共に、杖からは不気味な緑の閃光が飛び出し、リヴァイアサンに命中した。

 今彼が放ったのは、外傷を一つ残さず対象者の生命活動を瞬時に終わらせる即死魔法。

 食らった瞬間からリヴァイアサンは微動だにしなくなり……そのまま海に沈み、カプセルへと姿を変えた。


「ふう、流石に疲れるな……」


 大技を放ったことでどっと体力を消耗し、肩で息をするリッチー。


「「「「隊長!」」」」


 そのしんどそうな様子に、部下たちは急いで彼に駆け寄った。



 しかし――息をつく暇もなく、今度はまた新たな敵が出現してしまった。


「は、はあ……?」


 今回の敵の出現は――また新たな問題を孕んでいた。

 今まで海から出現するモンスターの数は一回につき一体だけだったのだが、今回はなんと五体もいっぺんに出現したのだ。


「い、いやいやいや……」


 その様子には、オメガフォースのメンバー全員絶望を余儀なくされた。


「む、むう……」


 リッチーは一応杖を構えるものの、どの敵にどの魔法を使い、どういう魔力配分で戦えばいいか迷ってしまい、なかなか魔法が撃てない様子。



 だが、そんな時。

 突如として、彼は背後からとてつもない気配が超高速で迫ってくるのを感じ取った。


「な……何だこれは!」


 その気配は、先程のリヴァイアサンですら小物に思えるくらいとにかく圧倒的だった。

 普通なら更に絶望するところだが……しかし彼には、その気配がどうも敵ではないように感じ取れた。


「バウンス」


 とりあえず、目の前の五体の敵から身を守るため防御魔法だけ展開しておき、一旦彼らは気配の到着を待つことに。


 十数秒経つと、人が一人乗った小型のドラゴンが姿を表し……かと思うと、そのドラゴンは身たこともないほど巨大な猫へと姿を変えた。

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