二話②

(皆に持って帰れないのが残念ねっ)

 頬が落ちるかと思うほどの焼き菓子に百々代ももよが感動をしていると、同い年の少女が三人、群れを作って歩み寄る。

「ちょぉっといいかしら、貴女が庶民の入学生よね?」

 キリッと尖った目元に派手目の衣装を纏った少女たちは胸を張り百々代が振り返るのを待つ。


「はい、そうです。はじめまして、安茂里あもり工房の工房長が娘、安茂里百々代です」

(((背たっか)))

「あら、丁寧な挨拶ね。そういう殊勝な態度は嫌いじゃないわっ!わたくしは白秋桜しろこすもす子爵ししゃく家の西条にしじょう結衣ゆいよ」

「わたしは大朝顔おおあさがお男爵だんしゃく家の平田ひらた莉子りこです」「篝火花かがりびばな男爵家の田沢たざわあんでーす」

「西条結衣様、平田莉子様、田沢杏様、ですね。お声掛けいただきありがとうございますっ」

「ふふん、感謝しなさい。んっ、あれれっ」

 身長差から見下されている状態が気に食わず、背伸びをしていた結衣は均衡を崩して身体が傾く。


「おっと。大丈夫…ですか?」

 一歩踏み込み抱き支えたのは百々代で、体勢を戻しては一歩引いて立ち姿を戻す。


「ひゃい、大丈夫です。(…背伸びは止めよう)………おほん、ところで貴女本当に実力で試験を受かったのかしら?」

「はい。…実力以外の方法があるのですか?」

「そりゃ、ねぇ。これよ」

 手で金子きんすを表して、献金で入学したのではないかと疑心混じりの雰囲気で問う。


「わたし、魔法学舎に通う金子はおろか、坂北さかきた様の家庭教師代も今井いまいの、男爵様に面倒を見てもらっていまして、積み上げる程の余裕はないかと」

「あら、そうなの?今井の男爵様、というと油菜崎あぶらなざき男爵今井達吾郎たつごろう様かしら?」

「はい。お世話になりっぱなしで」

「油菜崎男爵ってそういうことしない人じゃなーい?」

「うん。悪い人じゃないと思うよ結衣ちゃん」

「そうね。なら本当に実力で入ったのね」

「だと思います」

 納得をすると疑心は晴れて、感心が高まり三人が一歩近づく。


「ねえねえ、試験って筆記と実技よね?どんな事をしたの?」

「そういうのって話していいのでしょうか?」

「大丈夫よ、試験ごとに内容を変更しているから。そうでなかったら覚えて帰った人が広めてお終いでしょ」

「…なら。筆記は魔法基礎と魔法史、簡単な算術と読み書きもありました。あと、百港史です。ところどころに引っ掛け問題があったから…ので、しっかりと読み込んだほうが良いと思います」

「ふむふむ」


「実技は魔力質検査と市販の物より高価な魔法莢まほうきょうを使えるかどうかの試験でした。難しい事はないので出来ることをするだけかと」

「魔法莢を使った試験の詳細を教えて」

「水の形状変化、火の威力調整、擲槍射撃てきそうしゃげき、簡易防壁の範囲及び強度調整です」

「「「…。」」」

「け、けっこうじつようじゅうしななしけんね!」

「百々代は、あっ百々代って呼ぶね。百々代はどれくらい出来たのー?」

「全部出来ました」

「ほう、全部。俺の時とは内容が異なっているが驚いた」

 横から声を掛けてきたのは一帆かずほ


「一帆様っ」

 当然、主催たる彼が現れれば驚きもする。四人は緩みつつあった空気を張り詰め直した。

「固くならなくて良い、何れ学友となる仲だ仲良くやろう」

「はい」

「こ、光栄ですわ」「私は受かるかどうかわからなくて」「よろしくお願いしまーす!」

「でだ、擲槍射撃と魔法防壁は俺は受けていない。どういった形式でどのような結果をだした?」

「擲槍射撃は丸太を的にして撃つように、と。命中はしましたが中央は外れていました。防壁は円を描いた中心に立ち、大きさと強度の確認を。広くすると木の剣でも砕けてしまいましたが、範囲を狭めれば金槌も受けれて。いい勉強になりました」

(なるほど、注目しているのは俺たちだけじゃないって事か)


「将来は魔法師になるのか?」

「可能であれば魔法師を目指したいです」

(肩を並べる相手は吟味しておきたいと思っていたが。こいつは確実にほしいな)

「百々代、俺と組まないか。魔法学舎では迷宮の探索実習なんてのもあって、自分たちで組む相手を見つけて挑むんだ。そういう協力が必要な時に君が欲しい。魔法省に入った後も同僚としての縁は結んでおきたいしな」

(実力者と組めるのなら願ったり叶ったりだけれど。よしみ先生と相談したほうが良いよね)

(ええーっ!?一帆様がここまで欲しがるなんて、この子やっぱ凄いのかしら!?)


「わたしは魔法学舎に詳しくなくて、よしみ先生と相談しても良いでしょうか?」

(案外に賢明な判断をしたな。前に見た庶民とちがって喧しくないし、こいつは本当に欲しいな。アレが受かるかどうかはわからないけれど、庶民の誼みなんて言われて取られても腹が立つ。日をおいて呼び出すか)

「ああ、構わないよ。それでは失礼する、楽しんでいってくれ(…今度、屋敷に呼ぶ。その時にまで決めておけ)」

 すれ違いざまに耳打ちした一帆は、来客の許へ歩いていき歓談を始めてた。


「もも、ももよ。一帆様から協力のお誘いなんていう好機を無駄にしないようにするのよ!」

「す、すごいですね」「わたしたちも頑張ろっか!」

 なんだかんだ三人に馴染んだ百々代は、甘味を楽しみながら歓談に混じる。


―――


「―――という事がありました」

「しっかりと持ち帰り、私に相談したこと褒めて差し上げます。他に同様の誘いをしてきた方は?」

「いません。西條結衣様、平田莉子様、田沢杏様の三人とは仲良くなりましたっ」

「人脈作り出来たことは良いことね。…百々代、貴女は魔法師となって何を目指すのかしら、前に話したわね?」


 魔法師、といっても色々といる。

 先ずは魔法省に務める者。こちらは文官のような事務仕事から、新たな魔法作成や既存魔法の発展を行う研究職、迷宮に潜って魔物の討伐や資源回収を行う探索業。

 次いで港防省に務める軍人や刑務官。一戦力として魔法師は重要で、戦闘面に秀でているものは在学中に声がかかるとか。

 最後は私人に使える魔法師。こちらは護衛という意味合いやよしみのような家庭教師、大工房の検品役等。

 上記の三箇所が主となる。


「魔物がたくさんいる迷宮に飛び込み、外へと溢れ出ないよう管理し皆を護る迷宮探索か、魔法莢を使って新しい魔法を作ったりできる研究のどっちかがいいです」

「最近はお小遣いで魔法莢を弄って遊んでいるのでしたっけ?」

「はいっ!」

「なら研究職の方がご両親も(私も)安心して送り出せるのですけれど。先に出てきた迷宮探索に熱が傾いているようね」

「少しだけ。誰かを護れる仕事は格好いいなって」

「それなら港防省は?迷宮探索より直接的に人々を護れる仕事よ」

「そのぉ、人と戦うのは違うなって」

(人を攻撃するために魔法を学びたくはないよ。護るためとはいえ)

 身体を縮こまらせて、バツの悪そうに百々代はつぶやく。


「百々代、貴女の決める道に否定はしないから、じっくりと自分で決めなさい。一帆様のことだけど、彼と協力関係を結ぶのは目指す二つの道の確かな足掛かりになる、嫌でないのなら受けてしまってかまわないわ」

「わかりましたっ!では今度、一緒に学びたいと伝えてきます!」

「…今度?」

「屋敷に呼ぶから決めておけって言われてました!」

「そんなこと何時いわれたの?」

「すれ違う時、こそっと」

「なぜに、それを、いって、ないの、ですか!」

「ふみまへん、いいほびれまひた~」

 頬を軽く引っ張りながらよしみは眼を釣り上げる。


(ただ、学友として興味がある程度で態々呼び出すかしら?切磋琢磨してくれるのなら良い学友になると思うのだけれど)

「失礼のないように、いいですか?」

「はい~」

「よろしい」

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