四方備忘録~魔ノ棲ム所

しろめしめじ

第1章 依頼人は・・・

「すみません。ここって探偵事務所でよろしいんでしょうか」

 青白い顔の青年が、落ち着かない様子で事務所の中を見回した。

 カーキ色のストレートパンツに、デニムのタンガリーシャツ。髪の毛は襟足より長く、耳もほぼ毛髪の中に隠れている。

「はい、そうですけど」

 応接用のソファーに腰を降ろしていた白髪交じりの壮年男性が、ゆっくりと振り向く。

 途端に、その青年は驚きの声を上げる。

「宇古陀さん? フリーライターの宇古陀さんですよね!? 」

「え、ええ。どちら様でしたっけ? 」

 壮年の男――宇古陀は、怪訝な顔つきで青年を見た。

「俺、宇古陀さんの大ファンなんです。本、全部持ってます」

 青年は興奮した面持ちでまくし立てた。

「そ、それはありがとう」

 青年の圧倒されてか、宇古陀は戸惑いながら愛想笑いを浮かべた。

「宇古陀さん、ここで何をしているんですか? 何か依頼をしに来たのですか? 其れとも取材? 」

 好奇心に眼を輝かせながら矢継ぎ早に質問を浴びせる青年を、宇古陀は困惑した表情で見つめた。

 不意に、事務所のドアが開いた。

「いらっしゃませ――あ、やっぱり宇古陀さんか。そちらの方はお知り合い? 」

「四方ちゃん、その恰好・・・」

 宇古陀が呆気にとられた面相で声の主をガン見する。

 神秘的な輝きを秘めた瞳。黒く艶やかなショートヘアーが、色白の肌を一層際立てている。清楚な白いブラウスはかろうじて双丘の曲線を立体化している。

 そして、落ち着きを感じさせる黒いミニスカートから、雪のような白い肌の引き締まった脚が芸術的なシルエットを描いていた。

「下のカフェのヘルプに入ってたんだ。今日、スタッフの子が何人か風邪で休んじゃったからさ。つぐみがこの恰好じゃなきゃダメだって言うし」

 四方は恥ずかしそうに答えた。

「四方ちゃん、いいねえ。これからもそれで行こうよ」

 宇古陀が眼を細めながらにんまりと笑う。いつものスラックス姿の四方とは違う女性らしさを前面に出した美の演出に、彼は完全無欠のエロ狸と化していた。

「んで、こちらの方は? 」

 四方は傍らで落ち着きなくおどおどしている若者に目を向ける。

「お客さんだよ。さっきいらっしゃったんだ。こちらは探偵の四方さん」

 宇古陀の紹介を受けて、彼は緊張した面持ちで四方に会釈をした。

「四方です。どういった御用件でしょうか」

 四方は、彼の緊張を解きほぐすかのように優しい笑みを浮かべた。

「はい、実は、僕の彼女を探して欲しいんです」

 彼は、思いつめた表情で吐息を吐き出すように語った。





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