第26話 viginti quinque
斎の手が天弥の服の中へと滑り込み、初めてその肌へと触れた。続いて唇が離れるとすぐに、天弥の首筋へと唇を置いた。
「せ……んせ……」
キスだけの時とは違う快楽に、斎を呼びしがみ付く。斎の手と唇が動くたびに駆け抜ける快楽にどうにかなってしまいそうで、少し不安と恐れを覚える。
「俺の部屋へ行くか?」
快楽に酔う天弥の耳に突然、斎の声が響く。与えられる快楽でまともに働かない思考でも、その意味は理解でき、なんのためらいもなく頷いた。
天弥の身体を解放すると、斎は手に持つメガネをかけた。すぐに天弥の手を取り、足を踏み出す。斎に手を引かれリビングを後にした天弥は、自分の胸元に手を置くと服を強く握り締めた。いつのまにか涙は止まっていたが、その代わりに壊れそうなほど大きな音を立て、鼓動が早くなる。
家に遊びに行きたいとねだった時から、微かな期待を抱いていた。だが、実際にその状況を目前にすると身体は小刻みに震え、痛いほど心臓が激しさを増し、この場から逃げだしてしまいそうになる。
斎は自室へ入るとドアを閉め、天弥を抱きしめた。腕の中の温もりと震えを感じながら、こんなつもりではなかったのだと少し後悔をする。相手は、まだ十六歳の子供なのだ。そう何度も自分に言い聞かせたが、火が点いてしまった欲情を抑えることが出来なかった。軽く天弥と唇を重ねた後、その身体を抱き上げた。天弥は斎の首に腕を回し、その肩に顔を埋める。
積み上げた本を崩さないように、ゆっくりとベッドへ向かう。抱きかかえる天弥の軽さに、少し戸惑う。腕の中の華奢な感触や軽さもそうだが、私服姿の天弥は女の子にしか見えず、女を相手にしているような錯覚さえ覚える。
天弥の身体を静かにベッドの上に置くとメガネを外し、スタンドが置かれた小さなサイドテーブルの上に置く。少しぼやける視界で天弥の姿を捉えた。はやる気持ちを抑え、ゆっくりとベッドに腰を下ろし天弥の頬に触れた。身体の震えが伝わり、不安を抱いている事を知る。
昨日の放課後、天弥が家に来る事になった時に両親が旅行に行くなど知らなかった。気軽に、生徒が遊びに来る感覚で了承をしてしまったのだ。帰宅後、食卓の上に置かれたメモでそれを知った時、今のような事を考えなかった訳ではない。だが、男との経験などある訳もなく、さらに天弥の年齢や自分の立場など色々と考慮した結果、それは思い留まる事にした。
斎は軽く何度も天弥に口付ける。天弥の腕が、戸惑いながら斎の身体に回された。斎の手が、ゆっくりと天弥の服を脱がし始める。
身体を繋げるのが全てではないと分かっているが、心を奪われた相手を前にしてそれを抑えられるほど、達観出来ている訳ではない。泣きながら想いを告げる天弥の姿や、その素肌に触れた感触などが押さえ込んでいたものを引き出した。
唇が重なり合う間隔が長くなり、口内を蹂躙される快楽で天弥の思考が鈍りだし、震えが少し治まり出す。代わりに体温が上昇し鼓動が早鐘を打つ。唇がゆっくりと離れると、天弥は名残惜しそうに潤んだ瞳を向ける。すぐに斎は天弥の白い首筋に唇を這わせた。
「あっ……」
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