ゲーマーくんと桜ちゃん

朱之ユク

第1話ゲームをしている最中にエッチなちょっかいをかけるのはやめてくれ

 どれだけハイスペックな人間であろうとも他人からの邪魔が入ればゲームを完璧にこなすのは難しいことだろう。

 五十嵐サクヤはその事実をここ数時間で思い知らされていた。

 わかりやすく言うとわからせられたということだ。

 僕をわからせたのは今僕の家で対戦型ゲームに熱中している2人。

 全く恐ろしいものだな。


「よし、勝てる! 桜! 今度こそ私が勝利するからね!」

「ふっ! それは甘いですよ!」

「なっ! どうして」


 2人のことを形容する言葉はいくらでもあるけれど、ここは僕が最もわかりやすく形容しようとすると、バカと天才になる

 バカの方の名前は朱莉杏(あかり あんず)という。

 可愛い名前だろ?

 でも僕は納得していない。

 このバカは名前の割に髪の毛が黄色いし、名前の割に甘い人間ではない。

 そして何よりゲームの最中だけ口が悪い。

 他にも弱点多数。

 もうちょっと神様は強くしてあげてくれ。


「クソ! どうして負けちゃったの! 意味わかんない! チートでしょ! ちょっと許せないんですけど。私は真面目に勝負したのに、そっちはチートを使っていたなんてね!」


 おい。

 自分が負けたことをチートのせいにするな。それはゲーマーの中で一番みっともない言い訳であろう。

 まあ、ゲーマーでもなんでもない少女にそんなことを言っても意味はないだろう。

 無視するのが最適である。


「ふふ、チートって本当に私がそんなことをしていると疑っているんですか! 先輩! それは流石に許せません!」


 ああ、忘れていた。

 こっちはバカと天才のうち天才の方だ。

 名前は夜雨桜(よるあめ さくら)。

 夜の雨に桜という非常にかっこいい名前であるし、それに付随するような形で容姿も飛び抜けて優れている。

 パッチリとした宝石のような目、流れるような黒髪、少し小さな体は見るものの保護欲を引き立てる姿をしている。

 はっきり言ってとんでもないレベルの女の子だ。

 なのに、杏とよく絡んでいる。

 ここが唯一の弱点だ。

 もうちょっと神様が手加減してくれればいいのに。


「もう許せません。杏さん。今まで私はずっと我慢してきました」

「そんなこと言うならそっちに付き合ってあげていることを理解しないさいよ、後輩ちゃん」


 ああ、もうこのあたりだろう。これ以上放っておくと碌なことにならない。

 学校が早く終わって今日は2人は僕の家でずっとゲームしている予定なのだ。時間はまだある。なのにもうこの状態は流石によくないだろう。

 一瞬、僕は躊躇う。

 今からすることは余計なエネルギーを使うものだ。

 だけど、やっぱりこの2人が喧嘩していることは僕の心労に与するから、さっさとやめさせた方がいいだろう。


「2人とも。そろそろ僕も再戦してもいいか?」


 別に今はヘッドフォンは着けていないが、少し頭を働かせれば解決する問題だった。

 ほら。

 予想通り、桜と杏が僕の方を向いて反応した。

 2人ともすっかりケンカしていたことを忘れてしまったようだ。


「サクヤ。どうせまた私たちのことを圧倒的な実力でねじ伏せるつもりでしょ?」


 杏。その通りだ。

 僕はそれが狙いで君達に勝負を挑んでいる。バカの君にしては勘が鋭いじゃ無いか。


「先輩。私は先輩の狙いはわかっていますよ」


 桜。

 言葉が通じるのは僕だけだ。だからバカにもわかるように説明してあげてくれ。


「あっ、もしかして桜さんは先輩の意図に気づいていいないんですか? さすがですね」

「き、気づいてるわよ。バカにしないで」

「それじゃあ、心優しい先輩のために作戦に乗ってあげましょう。いいですよ。先輩はまた私たちのことをボコボコにしてください。私たちも特別サービスしてあげますから」

「まあいいわよ。私だって狙いはあるしね」


 まあ、彼女たちが何を考えているか想像はつくけど、よくもまあ、それぞれが違う狙いで同じ結論に行き着くとはおかしなことだ。

 はっ!

 これがバカと天才は紙一重ということか!

 僕は桜(天才の方)からコントローラを受け取ると杏と勝負を始める。ちなみに桜はトイレに行ってくる、と言って部屋を出ていった。時刻は昼の16時。まだまだ時間には余裕がある。


「くっ! それがあなたの本気ってわけね」


 杏は唇をかみながら、攻撃を仕掛けてくる。

 ゲームの中じゃない。現実世界で蹴りを喰らわせてきた。

 汚いぞ。

 だけど、君たちの邪魔はそんなものじゃないだろ?

 プロゲーマーである僕を邪魔するためにはもっと汚いことをすることができるはずだ。

 僕がそう願っていた瞬間だった。


「セーンパイ! 帰ってきましたよ」


 僕の耳元で距離感をバグらせた桜が超至近距離で囁いてきた。


「いいね、桜! 初めてダメージを与えれた!」


 キャラクターを操作する手がブレる。

 そうだ。ちょっとびっくりしただけだ。だけど、そのおかげで僕は操作ミスをした。


「先輩。私たちにもっと手加減してくださいよ。さっきもボコボコにしてくれたじゃないですか」

「距離感が近い。あとボコボコにしたのは最初だけだろ? すぐに適応して僕を邪魔するという方向で僕を妨害してきたじゃないか」


 そうだ。

 先ほどの言葉を思い出してほしい。

‘ どれだけハイスペックな人間であろうとも他人からの邪魔が入ればゲームを完璧にこなすのは難しいことだろう。‘

 どうして僕からこんなセリフが飛び出してきたのか。

 その理由は簡単。

 いかにゲームというジャンルにおいて圧倒的なアドバンテージを誇る僕であっても桜のような美人にゲーム中にエッチなちょっかいをかけられたら完璧にゲームをこなすのは難しくなるからだ。


「ほら先輩、ここら辺が弱かったですよね?」

「こちょこちょこちょこちょ」

「耳元も感じるんでしたっけ?」

「フー! フー!」

「くっ! ちょ、やメー、やめろー」

「ああ、みっともないですね、先輩!」


 最初は優勢だったのに、瞬く間にちょっかいをかけられたことによって操作ミスを連発してしまい、現実世界でもゲーム対戦でも劣勢に落とされる。


「あっはっは、先輩ってほんと正直ですよね?」

「そんなわけないだろ? 俺は全く桜に反応していない」

「まあまあ、そんなに強がらないでいいですよ!」


 強がってなどいな、って、桜。耳の中に耳かきを入れるのはやめてくれ。背骨がこそばゆい。あ、だめだ。


「あっはっは。先輩って本当に面白いですよね。だって私の感情には鈍感なのに、自分の感覚は過敏なんですからね」


 言いたい放題言い上がって。

 全く、散々やってくれたな。

 流石にこれ以上の巻き返しは無理だろう。そう判断したらしい桜と杏は2人してハイタッチして喜びを表現する。

 嬉しいのはわかるけど、僕とまでハイタッチする必要はなくない?

 

「さ、あとは撃墜するだけですね杏先輩!」

「そうだね」


 杏のゲームキャラが僕のキャラクターに最後の一撃を叩き込む寸前。


「じゃあね、プロゲーマー。ゲーム世界に依存していたあなたも、そろそろ夢から覚める時間よ!」


 その煽りの言葉を聞いた瞬間に、僕はこちょこちょをされている桜の手を噛む。それに驚いた桜は「えっ」という声を出して、顔を真っ赤にした。

 その一瞬の隙をついて僕は片手でコントローラーを操作してキャラの必殺技を回避する。

 ギリギリのところで撃墜されることを防いだ僕は2人に向き直って今の自分たちの状況をわからせてやることにした。


「勘違いするなよ」


 首にかかっているヘッドフォンを耳に当てて雑念を切り捨てる。


「このゲームの勝敗はすでに決まっている」

「え?」


 僕が本気でコントローラを操作し始めてすぐ杏のキャラクターは徹底的に追い込まれる。それも僕のキャラクターはほとんど動くこともなく数手数手ですぐに追い詰めている。


「ちょっと! 桜、どうにかしなさいよ」

「は、はい」

 

 桜が僕にエッチなちょっかいをかけてくる。

 しかし、今の僕にその手は通じない。

 あらゆる感覚はヘッドフォンによって遮断されてしまっている。今の僕にとってちょっかいなど負ける要因にはならない。


「じゃあな、杏。ゲームをバカにする割には現実もさほど充実していないキョロ充」

「ぐはっ!」


 まるで血溜まりを吐き出しているかのような効果音を出しながら杏のキャラクターを撃破する。これによって僕の勝利が確定した。


「どうして? どうして?」

「私たちはちゃんと邪魔をしたはずなのに」

「ふん。僕の勝因はヘッドフォンだ。このヘッドフォンをつけることによって外界との刺激を遮断して集中力をあげたんだ」

「ふーん。なんだ。てっきり先輩はまたゲームの試合をして私にエッチなことをされたいのかと思ったのにな」

「私もそう思ってた。むっつりスケベ。というかさっきのセリフ何? ゲームをバカにしながら現実もさほど充実してないキョロ充って? とんでもない侮辱よね?」

「悪かったよ。つい流れでそんな言葉が出てきてしまったんだ」

「ふーん」


 そこで杏のスマホに通知が来た。


「あっ、ごめん。お母さんに妹の分の夕飯作るように言われたから、私そろそろ帰らないと」

「そうか。じゃあ、気をつけて帰れよ」

「うん、ありがと」

「そうか。先輩が帰るならわたしも帰ろう。流石に2人きりは怖いからね」

「俺が何かをすると思うのか?」

「違う。わたしが先輩をボコボコにしちゃうでしょ」


 される側じゃなくてする側なんだ。

 率直に言って怖いです。


 なぜか桜は杏よりも先に準備を済ませて、僕の家から出て行った。

 そして、そもそも妹などいない杏が僕に向き合う。


「あんた、どうして桜ちゃんを引き留めなかったの?」

「悪かったよ。ちょっと緊張してたし。そもそも引き留める前に帰っちゃったし」

「はあ、全く」


 こんなところで衝撃の事実を明かすのはとても恥ずかしいのだけれど、一つだけ伝えなくてはいけないことがある。


「あんたが桜ちゃんのことが好きで2人きりになろうとしている作戦に手伝ってあげたのに、あの体たらくは何? サクヤ? あんた本当に付き合う気はあるの? わたしがせっかく存在しない妹を持ち出して2人きりにできたはずなのに」


 そうだ。

 杏は先ほど妹の話を持ち出したが、それは嘘だ。

 杏に妹などいない。あれは僕と桜を2人きりにするための嘘である。

 まあ、その嘘も不発弾となってしまったけどな。


 まあ、こんなことを言うのは恥ずかしいけど、僕は完全に夜雨桜に片思いをしてしまっている。片思いをしてしまった。いな、彼女の容姿に引き込まれてしまったと言った方が無難であったな。


「そもそもの話、わたしと桜ちゃんがあなたに勝つために桜ちゃんがあなたにエッチなちょっかいをかけるって言う作戦。それもあなたと桜ちゃんの距離感を狭めて好きになってもらおうって言う作戦だったのに。桜ちゃんは全く悶えてる様子はないわね。こんなことを言うのはあれだけど」

「いや、わかってる。それ以上先は言わないでくれ」

「桜ちゃん。あなたに脈なしじゃない」

「ぐはっ」


 現実は無常だ。土砂崩れのように次から次に鋭い言葉が降りかかってくる。


「それに桜ちゃん。みんなに隠して爆弾もあるし」


 まあ、その言葉をうまく聞き取れなかったのは不幸中の幸いだったかもしれない。


「とりあえず、あなたは明日の学校だよ。明日は学校で自習するからそこで桜ちゃんとの仲を深めなさい! わたしも手伝ってあげるから」

「ありがとう。本当にありがとう」


 杏には彼氏だっているのに、どうしてこんなに優しくしてくれるのだろうか。いや、彼氏がいるからこそのこの余裕なのだろう。

 僕としては桜と付き合えればいいのだからこれ以上ありがたいこともないのだけど。

 

「それじゃあ、わたしも今日は帰るわ。じゃあね」

「ああ、ありがとう。じゃあな」


 とりあえず、今日は明日に備えよう。


 *


 学校はとうに終わっている。

 ではなぜ僕たちは学校の教室に残っているかというと、杏と桜と僕。そして、姫路周斗という杏の彼氏と一緒に学校に残って夏休みの課題を終わらせていたからだ。

 三者面談もそろそろ終わる。

 早くが学校が終わるこの機会に一気に宿題を終わらせて置くことが賢明だろうことは誰にでもわかることだ。


「あ、杏。消しゴム貸してくれない?」

「いいよ! サクヤ忘れてきたの?」

「まあ、ちょっとね」


 このまま時間が過ぎれば課題を終わっていくだろう。だけど、僕は杏と周斗くんと協力して一緒に桜との距離を縮めなければいけない。

 そして僕には一つのアドバンテージがある。

 僕は2年生だけど、桜は後輩の一年生だということだ。つまり、僕がすでに理解していることを桜に教えることができる。

 ここは先輩として、勉強というものを教えてあげよう。


「桜、わからないことがあるなら」

「よーし! やっと宿題終わったよ! 大変でしたね、先輩」


 あれ?

 この子、もうすでに宿題終わらせちゃったの?


「いや、私たまたま宿題を計画的にやっていたので終わっただけですけどね。はい終わり。私はちょっと図書室に行ってきます。まあ、本でも借りてきて暇つぶししてきます」

「ええー」


 忘れていてがこいつはとんでもないレベルの天才。

 高校レベルの問題でも容赦なく解くことができる天才だった。失念していたのはこちら。だが、まだ僕は桜と話していたい。

 ここはどうしたらいいんだ?


「ん? 先輩、私の方をさっきからずっと見てるんですけど、どうしたんですか?」

「い、いや、なんでもないよ。気にしないでくれ」

「あっはー、そういうことですか。分かりますよ。分かります。きっと私が先に宿題を終わらせてしまったのが悔しいんですよね。わかりますよ」


 違う。理由は全然違う。

 だけど、桜の不適な笑みを見ているときっと僕の本心を理解して行っている言葉だと思う。桜は天才なんだから、僕の気持ちなどすでに理解しているだろうに。


「それじゃあ、行ってきますね。先輩」


 桜が僕の隣を走り去っていく時、少し立ち止まって僕の耳打ちした。


「心配しなくても、いずれ先輩と一緒にいる時間は増えちゃいますよ」


「ん?」


 その言葉の意味を咀嚼する暇もなく、僕は桜の吐息が耳にかかった事実に興奮していた。

 好きなこの息がかかったくらいで情けない。

 ちょっとレモンの香りがしたけど、レモネードでも飲んだんだろうか。


「ちょっと、ちゃんと引き留めてよ。せっかくのチャンスだったのに」

「わ、悪かったよ」


 僕だって自分でダメなことくらい理解している。今の杏の発言のようにうまく行ってないことくらいは理解している。

 だけど、ダメ押しのように周斗が僕にアドバイスというより地獄に叩き落とすような発言をしてきた。


「まあ、あれだけ可愛いとなるともしかしたら他に彼氏とかいるのかもな。俺だったら絶対アプローチするもん」


 ちなみに地獄に叩き落とされるのは僕ではない、杏の方である。


「ちょっと! 私がいるのに桜にアプローチするって言うの?! マジで許せないんですけど、せっかくあなたと付き合えて気持ちよく飛んでいる私を叩き落として楽しいですか!」


 周斗は言ってから失言だったと気づいたのだろう。

 今更訂正しているがもう遅い。

 杏はこれまでにないくらい嫉妬した様子でケチとか死ねとか暴言を吐いている。

 あの様子だとしばらくは機嫌は戻らないだろう。周斗くん。僕に攻撃するためのセリフが自分に刺さってくるなんてね。ざまあない。

 でも桜がいないとなるとちょっと寂しい。

 僕はこんなに好きなのに、桜はなんとも思ってないと思うと心が痛んだ。

 せめてもっと優しくしてくれればいいのに。エッチなちょっかいはゲーム中じゃなくてもいつでもおっけいだ。

 そろそろ今日やる分の夏休みの宿題も終わる。

 今の僕の目的は桜と付き合うことだけど、桜の側からしてみても夏休みに彼氏の一つや二つつくらないとも限らない。

 この夏休みが最後だ。来年は受験もある。

 夏休みに入るまでにダメだったら、僕は彼女を諦める。

 心にいい聞かせてから、気づいた。

 このままだと多分諦めることになるだろうことに。


「はは、惨めだな」


 自分に対する卑下。

 それを口にした。誰にも聞こえることのない音量で言ったはずだった。

 しかし。


「セーンぱい。あんまりそんなこと言わないでくださいよ。私が悲しくなります」

「桜。もう帰ってきたのか?」


 桜は図書室に行っていたと言うのに本を持つこともなくこの場に戻ってきていた。一体いつ自習室に入ってきていたのか。怖いな。


「先輩。もっと自分に自信を持ってください。勉強してない癖に成績はいいし、運動してないくせに運動神経もいい。ついでに身だしなみに気を使ってない割にはカッコよくて清潔感もあります」

「はは、ありがとう桜」


 きっと僕が優しげな笑みを桜に向けたからだろう。焦った桜が僕に手を振ってくる。


「勘違いしないでください。先輩は勉強も運動も身だしなみも努力してないからそこまでカッコよくはないですよ!」


 どっちだよ。さっきと言っていることが真逆だ。

 可愛いところもある。


「まあ、努力してない割にはすごいいいと思うんですけどね」

「はいはい、ありがと」


 桜は席について自分のポケットに手を入れてものを取り出した。


「図書室に行ったついでに先輩の無くしたって言ってた消しゴムを取り返してきました。使ってください」

「! 見つけてくれたのか」

「だから勘違いしないでください。たまたま拾っただけです。別にあなたのために探しに行ったとかではないんですからね」

「ありがとう」

「! 私ちょっとトイレに行ってきます」


 なぜか桜が走って逃げていった。どうして?

 やっぱり嫌われているのかもしれない。かなりショックだけど、仕方ない。夏休みが始まるまでに彼女と付き合えなければ諦めるという話。

 あれが現実になってしまいそうだ。


「ふふ」

「いい感じだね」

 

 杏と周斗が2人で微笑ましいものを見る目でこちらのことを見ていた。


「どうかしたの? 傷心中の僕には優しくしてもらおうか」

「傷心中って、冗談でしょ?」

「ああ、あの子とは結構うまく行ってるんだな」

「うまく言ってるってそんなことないだろ。さっきだって適当に消しゴムを渡されたし」

「あんたほんとに男なの?」

「アニメとか見てツンデレを勉強してきた方がいい」


 そんなことを言われたって桜が僕に脈ある感じには見えなかった。ああ、諦めたくないな。でも悔しいけど、諦めないと。


「でもサクヤ。すぐに告白とかしないとダメだと思うぞ」

「どうして?」

「ああ、その話しちゃうの? 桜ちゃん本人はサクヤくんには言わないでって言ってたけど」

「まあ、別にいいんじゃないか。いずれ知る話になるし」

「でも本気で言わないでって言ってたと思うけど」


 2人はなんの話をしているのだろうか。

 気になるからさっさと言ってほしい。


「ああ、ごめんなさい。桜ちゃんがあなたには言わないでって言ってたから」

「それを言ったのは杏だけだろ? 俺はそう言われたわけじゃないから行った方がいいともうけどな」

「まあ、確かにそうだけど」

「言ってくれ。杏は一旦離席すれば大丈夫だろ?」

「そうね」


 そう言って杏は一旦席から離れてもらった。そうすることで彼女が約束を違わないようにするのだ。


「それじゃあ、どうして僕は桜にすぐに告白しないとダメなんだ?」

「ああ、その理由だけど。それは」


 次に周斗の口から放たれた言葉は衝撃のものだった。


「実は桜ちゃん。夏休みに入ったら引っ越すらしいんだ」

「もしかして県外に行くの? それとも海外?」

「安心しろ。彼女は別に遠いところに行くわけじゃない。学校も転校しないらしい。だけど」

「だけど?」

「だけど、桜ちゃん。親同士の再婚で、向こうの連れ子のとんでもないレベルのイケメンと同居することになるらしいんだって」

「なっ! イケメンと同居するの?」

「ああ、なんでも桜ちゃんがイケメンって言ってたから、そこは間違いない」


 いや、大事なのは同居のところなんだけどな。


「サクヤ。お前、うだうだしていたらそのイケメンに桜ちゃん取られちゃうぞ。急いで告白した方がいい」

「わかった」


 桜ちゃんが男と同居する。

 それもイケメンと。

 普通に考えてイケメンが身近にいるのだから好きになってもおかしくはない。そうなったら、僕は好きな相手を取られた惨めな男ということになってしまうじゃないか。

 それだけはなんとしても避けたいことだった。


「わかった。ちょっと桜ちゃんに聞いてくることがあるから。ちょっと彼女を探してくる」


 僕は走り出していた。

 気づけば、走り出していた。



 桜ちゃんを探すのはそう時間はかからなかった。たまたま校舎の外に行った時に鉢合わせしたのだ。

 その時の桜ちゃんはあたふたしていた様子だったが、そんなことは特段どうでもいい。僕にとって大事なのは桜ちゃんが他の男に取られてしまうかもしれないということだ。


「桜。聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

「せ、せ、せ、先輩! お、お、お、落ち着いてくださいよ。どうしたんですか?」

「いや、まずは桜が落ちつけ。深呼吸だろ」

「は、は、はい。わかりました。でもまだ落ち着かないので、そのヘッドフォンを貸してください」

「え?」

 

 桜は僕が首にかけていたヘッドフォンを横取りして、自分の耳に当てた。

 だけど、それは間違いだったようだ。


「サクヤくんの匂いがする。きゃあー!」

「叫ぶな、叫ぶな」

「くっ、すいません。ちょっと色々あって、体が熱いんですよ」

「そうか」


 その言葉を聞いた僕は近くの自販機でペットボトルを購入して、桜のクビに当ててあげた。


「冷たいですね、先輩」

「だな、買ったばかりだし」

「違います。先輩の指ですよ」


 ? 

 まあ、冷たいペットボトルを買ったばかりだしな。


「この前先輩に触った時も、冷たかったです」

「それ何か重要なのか」

「はい。先輩。きっと私がイケメンの人と同居することを聞いたんですよね?」

「知ってたのか?」

「はい。さっき図書室で聞いてました。先輩が私を探しに行ったのは驚きましたけどね」


 桜は「焦って逃げちゃいましたよ」と微笑む。


「大切なことはまだあなたには教えません。だけど、いつかわかる日が来ますよ。私の体温が」

「!」


 それって抱きしめ合うってこと?


「はい。先輩は冷たいので私の体温で温めてあげます」

「そっか」


 それはある意味告白なのかもしれなかった。だけど、もっと直接的な言葉がないと僕は不安になってしまう。


「桜。僕は、あんまり素直に言えないけど、ちょっと怖いんだ。君がそのイケメンの同居人に取られちゃうんじゃないかって」

「安心してよ」


 その言葉にどれほどの意味が込められているのだろうか。

 僕には桜の笑顔しか目に入っていなかった。

 

「じゃあ、もう戻ろうか。外は暑いしね」

「そうだね」



 自習も終わって僕は家に帰っていた。ベッドの上でスマホをいじっていると急に眠気がやってきた。


「サクヤ? 今日大事な人が家に来るの」


 母親が話しかけてきたけど、それは無視しよう。流石に疲れた。もう眠ろう。

 少しして、僕は目が覚めた。

 いや、少ししてという表現は語弊を招くかもしれない。僕の体感では少しだけだったが、客観的に見れば数時間経っているだろう。

 寝起きだし、歯磨きしに行くか。

 そうして、部屋を出て階段を降りる。

 その途中で違和感に気づいた。

 一階が明るく、何か話し声が聞こえてくるのだ。

 一体なんの話をしているのだろうか?

 いや、そんなことよりも誰だ?

 僕の家は僕と母親の2人だけだ。それなのに、誰と喋っている?

 もしかしてテレビの音かもしれないと思ったけど、違った。明らかに誰かが会話している声だ。


「全く誰だよ」


 洗面所に行くにはリビングを行く必要がある。ちょっと行きにくいけど、行くしかないか。

 そうして、僕はリビングに通じる扉を開けた。

 そして、そこには母親と知らない男。そして、見知った顔がいた。


「えっ、桜? どうしてここにいるの?」

「あら、サクヤ。起きたの? ああ、そうだ。紹介するわね」


 そう言って母親は知らない男と桜ちゃんを紹介した。


「この人たちは今日からあなたの家族になる夜雨さんたちよ」

「???」

「簡単にいうと、わたしとこの方が再婚することにしたの」

「え」


 驚きが脳みそを刺した。そのせいだろう。正常に脳が働いていない気がする。


「じゃあ、桜は今日から僕の妹になるの?」

「ん? 桜ちゃんの名前を知っていたの? まあ、そういうことになるけど」

「というか同居する? 桜ちゃんと?」


 これからお父さんになる人が何かを言おうとした。だけど、それは他ならぬ桜によって邪魔される。

 そして、彼女は僕の腕を掴んで、部屋の外に出した。


「えっと、うまく理解できないと思うんだけど」

「うん」


 僕の苗字が夜雨になるとか桜が妹になってしまうとか、理解できないことがはたくさんある。


「とりあえず、安心してよ」

「何を?

「私のお兄ちゃんいなるイケメンっていうのはサクヤ先輩のことでした! ジャジャーン!」

「そうか」


 うまくこの状況を理解できないでいる自分を責める必要はないと桜は言ってくれた。それなら僕もゆっくりとこの状況を理解していけばいい。


「いや」

「いや? どうしたの?」

「いや、そんなわけないだろ!」


 片思い中の相手が妹になった?

 僕は一体どうやって暮らしていけばいいんだ。


「ふふ」

「笑うな」

「これで安心ですよね」

「何が?」

「これからは一緒の家で私の熱をあなたに伝えてあげますよ」


 ああ、これは何を言っても現実は変わらないんだ。

 可愛い妹ができたというのに、僕の心は興奮と緊張でうまく話せないでいた。

 第一話・了



*作者からのお願い*


 僕は今、小説の第一話の書き方の訓練をしています。


 そのため、この小説の第一話が読者の皆様にとってどれほど良かったのかを知りたいと思っています。


 そこで応援コメントを書いて感想をいただけないでしょうか?


 無理にレビューをしていただく必要はありません。面白くなかったと思われるならコメントしていただく必要はありません。しかし、コメントは作者のモチベーションの原動力になるものです。


 「楽しかった」「つまらなかった」


 この一言だけでもいいので、ぜひコメントをお待ちしています。


 もう一度言いますが、第一話の完成度についてコメントしていただけると幸いです。

 


 無理にとは言いませんのでぜひお願いします。



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ゲーマーくんと桜ちゃん 朱之ユク @syukore16

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