第二十五話:名前

 鏡を写したかのようなその自身の姿、ロードは一直線水平に突き刺そうとした超周波振動電磁刃サイバーエッジを真横から掴み、もう片方の拳を振り被り…

「私の親友をこれ以上傷つけて見ろ! お前の鉄屑かけら諸共、ぶっ殺すぞ!」

 殴り上げた。

 鉄人は無音模倣パントマイムよりもオーバーに何もないところで後ろに仰反るどころか、瓦礫の壁に当たり砕けるほどぶっ飛ばされる。視界内の映像によって映し出されたロードの動作を条件反射するように身体の動作機構が勝手に強い反応を受けたのだ。

 しかも、反応だけでなく、ロードの怒りという強い感情がデータ化され、共有することによって、

「セカンドの分際で!? 人工知能の欠陥の分際で!? 私のシステムに反抗したというのか!? ふざけるな!?」

 鉄人とロードは互いに超周波振動電磁刃サイバーエッジで斬りかかり、剣戟を始めた。

 鉄人はより正確むじひに、より精密れいこくに、互いの剣筋を計算予測シミュレートし、間合いを完全に把握しようとする。

 対するロードは鉄人と同じ計算予測シミュレートを行うが、感情任せに剣筋を力一杯に振り回し、空振りによる隙が多い。

 この余の差は鉄人が有利に感じた…

と自身で侮っていた。しかし、

「ふざけるな!? こんなメチャクチャな攻撃があってたまるか!?」

「ああああああ! うぉああああああ!」

 振り下ろし空振った肩を狙うも、すぐさま剣筋を振り上げ、刃を弾いた。

 がら空きな頭部を突き刺そうにも、刃の峰を弾き返す。

 蹴り上げには蹴り返し、目眩しさへも砂埃ごと払い斬る。

 正確無比な剣筋に爆発力の力を乗せるその剣術は氷のような冷静さと焔のような猛進さを併せ持つ心技体の攻防を繰り広げる。

「なんなんだ!? なんなんだ、貴様は!? 私のより貴様の計算予測シミュレートの処理速度が上まって、いや、違う!?

私の抑える何かが…」

「いあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ロードは鉄人の頭部を鷲掴みにし、地面に叩き落とす。

 鉄人の脳内AIにしか見えないロードの仮想体アバターは幻影の如く、他の周囲は姿も見えず、叫びも聞こえない。

 しかし、少年の目視やスナイパーのスコープでは感知できないはずの戦いをアラウスだけは模索した。

「壊れたわけじゃねぇ? 何かと戦っている? 何かにやられている? 何かを恐れている? 一体何だ!? 何なんだ!?」

「何なんだ、貴様は!? この言動不明存在パーソナルバグがぁ!?」

 ロードは鉄人の頭を捻じ込ませるかのように握り下ろした瞬間、鉄人の脳内AIに情報記号が乱列し、システムを書き上げ、黒銀の身体ボディを白く、赤い瞳孔カメラレンズを青く染め上げる。

「何故だ!? セカンドなんかに!? セカンドなんかに何故、私が!?」

「セカンドじゃない! 私の名はロード! その名を刻んだ魂だ!」

 その叫びを聞いた鉄人は意識を喪失し、ロードの身体ボディ脳内AIを完全に取り戻した。

 白と青の姿に戻ったロードは鉄人の面影が完全に消え去ったかのように輝き、親友の方に目を向ける。

 仲間の仇として自身を見つめるアラウス・タケヤマの姿を。

 

 

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