第二十四話:止められるのはただ一人

 胸倉を掴まれたアラウスは鉄人を睨みつける。彼の相棒の援護狙撃が期待できない中、鉄人はそれを面食らわず、無慈悲に超周波振動電磁刃サイバーエッジを彼の頭に目掛けて振り下ろそうとする。

 その時、背後から銃弾があの時と同じように鉄人の頭に当たり、貫通せずとも、頭内の機器を負傷させた。

 思わず、アラウスの胸倉から手を離し、振り返れば、自分が追いかけ回したはずのニオが片手で拳銃を構え、もう片腕で弟のリッテを抱えながらも、地面を踏み締めるようでその実、足を震わせながら立っていた。

「この化け物! この屑野郎! お前さへいなければ…! お前なんていなければよかったんだ!」

 鉄人はニオやリッテの方へ向き、体勢を整え、超周波振動電磁刃サイバーエッジを構え、振り下ろす。

「散れ。」

「ひぃっ!?」

「おぎゃあぁぁぁぁぁ!」

 しかし、その刃はニオの頭上を焼き斬らず、いつのまにか間に入ったアラウスが身を挺して、片腕を斬られながらも守り通した。

「ぐっ、がぁっ、ぐっ!」

「まだ、立つか! まだ、戦うか! まだ、殺し続けるか! 軍はもはや成り立たない! ダム・ダーカーの支配は覆られな…」

「親友の身体を好き勝手してんじゃねぇ!」

 アラウスは斬られても、出血してもなお、踏み留まるどころか強く踏み締め、腹の底から鉄人の声を遮るかのように叫び、頭を突いた。

「何が鉄人だ! 何が兵器だ! いつまで、偽物に奪われ、戦いから逃げてんじゃねぇぞ、ロード! 俺はなぁ! お前より多く殺した! 多く護れなかった! 立派な兵士とかこつけて、己が偽善で血を染め続けた!」

「錯乱か、どうせこの程度か!」

「俺は愚かで、惨めで、残酷で、最低で、最悪で、無様で悲しい、だから死ぬのか! 違うだろ!」

「畜生、隊長が! なんでピンと合わねぇんだよ!?」

 アラウスから距離を取った鉄人を撃とうとするヘルメは極限状態の焦燥から照準が定まらない。

 そして、尚もアラウスは叫び続ける!

「殺したそいつら、護れなかったあいつらの為に生きてやる! 償いでも自己犠牲でも関係ねぇ! お前だってそうだろ! あの糞爺ぃの命令ためでも、俺の命令ためでもねぇ!」

「もういい、死ね。」

 鉄人は痺れを切らし、アラウスの頭を目掛け、超周波振動電磁刃サイバーエッジで貫こうと、一直線に迫る。

 その時、鉄人が意図しない視界に映ったのは…

「お前の道で進んできたんだろ!」

 顔を引き締らせ、厳つかせながらも、涙目で親友を帰りを待つ目だった。

 その目は今の鉄人には意を解さなかった。超周波振動電磁刃サイバーエッジが彼の頭前に止まるまでは。

 鉄人は無慈悲に彼を殺そうとした。頭内の人工知能にも刺し殺すという命令パターンをうけていたが、行動原理を阻害する何かがあった。

 鉄人がそう考えた瞬間、見えた。この時の勇敢な兵隊長、怯える兄弟、焦るスナイパーには見えないはずのなにか…

 己が姿、鉄人自身、否、ロードの姿が自身の脳内視界に映し出された。まるで、幽霊を見るかのように。


 


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