第五話:その問いは
「たくっ、老害も困りもんだ。」
「すまない、ヘルメ。俺のせいでこんな目に…」
「いいっスよ、そんなこと。隊長同士の仲じゃないっスか。」
無機質な通路を歩く二人にいつの間にか後ろにいた存在に声をかけられる。
「アラウス・武山。ヘルメ・マークリー。」
二人は恐る恐る振り向くと、戦場で遭遇した元凶である異形が平然と現れた。
「どういう神経してんだ?てめぇ…いや、機械に神経は無かったか。」
「何しに来たんだ? 屑鉄野郎。」
アラウスは自分や戦場で出会った親子を殺そうとした悪党である鉄人に睨みを利かす。ヘルメも口ではヘラヘラ笑っているが、彼と同様に眼を鋭くする。
「何故、あの親子を助けようとした?」
「それがどうした。」
「お前のやっていることは無駄なことだ。あの親子を助けても捕虜として
「死ぬよりはましだろ。」
静かに殺伐とした空気が流れる中、会話は緊迫とした。
「捕虜となった彼らは劣悪な環境に晒される。それにあの親子、特に母親と赤子は死ぬからだ。」
「は!?」
嵐の前の静けさを砕く勢いでアラウスは怒りを露わにし、鉄人の突拍子もない一言に食って掛かる。
「どういうことだ!? てめぇ…」
「あの二人の心拍数と体温の様子から推測すると、この時代特有の不治の病にかかっている。」
「な!?」
戦争の時代となった世紀末では多量の紫外線に晒され、有害物質を含む砂埃が大地を覆う。十分な医療技術を失ったこの世界ではペスト以上の流行が蠢いていた。
「そんな彼らがこの世界に生き抜く可能性は0%に近い。それでもなぜ彼らを助けた?」
罪悪感さへも感じない物言いにアラウスは青筋を立て、異形を睨む。そして、口にした返答は…
「断る。」
「何だと!? 何故だ!? 何故答えない!?」
憤りを模倣する異形の前にアラウスは冷たく言い放った。
「覚えておけ、心がない奴に何を教えても無駄だ。」
「心というものが関係してるのか?」
「けっ!」
機械なだけの異形を軽蔑した眼差しを向けるアラウスは鉄人の戸惑う姿を嘲笑するヘルメと共にその場を後にした。
「あの人間たちは何なんだ? 何故、不明な言動と行動を取り続けるんだ。」
彼らを罵り返した鉄人であったがあの戦場の光景と心というキーワードに自らのメモリーにこびりつかせ、エラーを更新し続けた。
研究所に戻った異形は今でも疑似的に悩んでいた。そんな中、ダムが声を荒げ、彼に怒鳴り散らす。
「貴様、どこ行っていた? 道具の分際で開発者である儂の下を離れるな!」
鉄人はその怒鳴り声さへも恐れず、自らの創造主に話しかけた。
「勝手に出て行って、すみません、マスター。一つよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「アラウス・武山、彼は一体何者なんですか? 命の危険を理解せず、敵国の人間を守ろうとした意味は何ですか?」
その瞬間はダムが異形に対する視線が憤慨から冷淡へと目を鋭くし、ゆっくりとため息をつく。
「…下らん。今すぐ、そんな疑問(バグ)を消してやる。早く、データカプセルの中へ入れ。」
彼が指さしたのはデータバンクを担う機械に繋がった大型カプセルだった。この機械により、鉄人はカメラやマイクなどの
「待って下さい! マスターは何故答えてくれないのですか?」
「そんなものは戦闘の役にも立たん。無駄なデータで容量を埋めるな。」
「しかし、私は…」
その刹那、ダムはスタンガンを持って、鉄人を殴った。憤慨した表情で鼻息を荒くして。
「勝手にいなくなるどころか儂に反論するとはな…ふざけるな! 道具の分際で儂に指図するな!」
鉄人は険しい表情の創造主に対して、後悔や懺悔よりも先に困惑をし、あの戦場での感覚を再度思考した。しかし、その感覚を押し殺し、なおもダムにすがる。
「お願いします。どうかこの問いだけは答えて下さい。」
必死に頼み込む異形の姿に中てられて、ダムは冷淡な表情を浮かべながら、ある提案をする。
「くどい。その答えは儂も知らんし、知りたくもない。…が、提案をしよう。明日の朝までにその
ダムは自らを嫌う者に答えを求めるという無理難題な解決方法を授けた。しかし、鉄人は黙って従うしかなかった。
「了解しました…」
鉄人は苦悩しながらも重い足取りで研究室を後にした。ダムはただ彼の姿を冷たく言い放つ。
「精々足掻け、兵器風情が。」
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