思い出の噴水

  

 今は闘技場もギルドバトルもプレシーズンだ。

 一ヶ月は試合がない。ランクに影響しない模擬戦しかない。

 闘技者は冒険者としてクエストを受けるか、ダンジョン攻略をして自分を鍛えているだろうな。


 このプレシーズンに入る前、俺のレベルは30だった。ハヤトたちのレベルは60。闘技者としては上位に入るレベル帯だ。


 ブロンズランクから始まり、シルバー、ゴールドを経て、プラチナ、ミスリル、最高峰のオリハルコンランク。


 俺達はミスリルランク帯の闘技者として競っていた。


 『聖なる剣』パーティーは帝都で新進気鋭として注目を浴びていた。

 ……英雄掲示板の書き込みでは俺のせいでパーティーが勝てないと書かれている。


 レベル1の差はとても大きい。この世界はレベルが強さを決めると言っていいだろう。レベルを上げるためには訓練所やダンジョンで魔物を倒し経験値を貯める。レベルを一つ上げるためには多大な経験値が必要だ。



「とりあえずエリクサーの確保しなきゃな。お、おお!! 来た来た! 大当たりじゃねえか!」


 俺はカジノでスロットを回しながら今後の事を考える。ほとんどの金はハウスに置いてきた。カジノの景品にはエリクサーがある。俺にとって重要なアイテムだ。


「おっ、落ちこぼれのユウヤがいるぞ! お前ほんと、なんで100Gから勝てるんだよ……」

「お前のせいで『聖なる剣』パーティーは負けるんだぞ! 俺の賭け金返せや!」

「んだ? おい、水晶通信見ろよ! こいつ『聖なる剣』か追い出されやがったぞ!」

「っしゃ! ざまぁだぜ! スロットも負けやがれ! ……くそっ、こいつスロットだけは強えんだよな。大当たりじゃねえかよ⁉」

「おいおい、帝都ニュース見たか? 『聖なる剣』が七大勇者ギルドの『漆黒の勇者』に加入決定だぜ! こりゃ面白くなってきた」


 くそ、うるせえな。……俺だって好きで弱くなったわけじゃねえ。元々、ガキの頃はレベルが60あった。

 なんでレベルが高かったかわからない。だが、年を重ねる事にレベルが下がっていった。


 帝都の司祭に診てもらっても、病院の先生に診てもらっても、原因がわからない。女神教会の司祭には呪いと言われた。


 闘技場に挑戦し始めた時はまだレベルが60だった。そこから緩やかに下がり、昨シーズン途中から急速に下がり始めた。エリクサーをがぶ飲みしてどうにかレベルの減少を抑える。


 だが、エリクサーは貴重なものであり、飲みすぎると中毒症状を起こす。ほら、スロット回している手が震えてるだろ? やべえんだよ。


 シーズンが終わり、エリクサー断ちをしたらレベルが更に下がった。

 一昨日まではレベル30だった。昨日はレベル24だ。今は……レベル15だ。


 ……明日は俺の誕生日だってのによ。


 急激なレベルの減少により、体中が気持ち悪く、痛みが走っている。


 いつもなら言い返すが、今はそんな気力もない。

 身体が重いんだ。歩くのさえしんどいんだ。


「引き際が肝心だな。スロットもパーティーも……」


 俺はひっそりとカジノから出て行く。客たちはそんな俺を見て指をさして笑っていた。




 帝都ミナト区の夜の街を歩く。片田舎から出ていた時は帝都の美しさに驚いたな。エストが噴水で水浴びしようとしたり、マリが迷子になったり、ハヤトは知ったかぶりして恥かいたり……。


「……限界だってわかってんだよ、俺も。だからこの休みにレベルを上げる方法を探す必要があったんだよ……」


 俺には時間がなかった。


 昨シーズンまでは魔法のバリュエーションと補助に専念して、どうにか戦闘をすることが出来た。レベルも30あったからな。夜中に死ぬほど特訓して、エリクサーをがぶ飲みして対戦に挑んだ。

 

 俺のせいで負けるのが一番悔しい。使える手は何でも使った。……無理しすぎたんなよな、きっと。

 反動でレベルの下がり方がひどくなった。 


 なにかの動画で見たことがある。レベルドレインの魔法を食らって、レベル0になって死んだ奴を。

 ……俺のレベルが下がりきったら死ぬ。この世界にレベル0は死を意味する。

 それがすごく怖かった。

 それ以上にパーティーに迷惑をかけるのが死ぬほど嫌だった。あいつらと上を目指したかった。


 ……結局嫌われてんだけどさ。


「……こんだけ嫌われたら俺が死んでも誰も悲しまねえか。レベル上げる方法探見つからなかったな……」


 ……幼馴染として一番付き合いが長いエストだけはちょっと気がかりだ。


 みんなのレベルが上って喜んでいる中、俺だけレベルが下る。それだけでパーティーのモチベーションは下がる。


 いつしか俺は幼馴染たちと距離を取り、自分のレベルを上げる方法を探していたんだ。


 元々いつ死んでもいいように荷物を最小限にしていた。

 ……俺の装備はハウスに置いてきた。あとでハヤトが勝手に売ってくれんだろ。


 帝都を出るためにはケロベロス公園を歩く。

 懐かしいな、ここに初めて来た時エストと二人でアイスクリームを食べたな。





 「ユウヤ、あんた洗濯もしないで何してるのよ。レベルが下がってウジウジ落ち込んでんの?」


 ケロベロス公園の噴水の前にエストが立っていた。俺を見つめる瞳は……もう幼馴染の仲間に向ける視線ではなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る