俺だけレベルという概念が存在しない〜〜レベルが低いと言われ追放された俺は、女神の騎士でした

うさこ

幼馴染からの絶縁状


 辺境の片田舎で育った俺、ユウヤには夢があった。

 それは幼い頃に、大切な幼馴染たちと交わした約束。


『ねえ、闘技場のトップになって、ずっと一緒にいようね!』

『ユウヤ、約束だ。俺達は必ず成り上がる』

『やはりユウヤは最強ね。このパーティーは永遠に不滅よ』


 それ以来、俺達幼馴染四人のパーティーで闘技場の天辺を取る。幼馴染四人で幸せに暮らす。それだけが望みだった。





 なのに――



「ユウヤ、貴様をこのパーティー『聖なる剣』から追放する。異論は許さん」


 俺は幼馴染のハヤトからパーティー離脱の書類を突きつけられた。


「ま、待ってくれ! お、俺が弱くなったのはわかってる。休み期間にどうにかするから!」


 帝国の中心部である帝都、全ての物、人が集まる都。

 帝都23区のミナト区にある闘技場街。

 ここは俺達、幼馴染パーティーの拠点であるハウスがある場所だ。


 数ヶ月前なら、のんびりとお茶をしながら次の戦いについて話し合っている時間だ……。


 俺は突然、幼馴染でありパーティー仲間であるジョブ『賢者』のハヤトから追放を言い渡された。

 ハヤトの横にはジョブ『剣聖』のマリ。


 もう一人の仲間である『聖騎士』エストはこの場にいない。


 幼馴染であるはずの二人は俺を汚いモノみるかのように見下している。

 

 いつからこんな風になってしまったんだろう?

 あまりにも日常過ぎて覚えていない。

 

 ハヤトとは村で一緒に走り回った親友だ。貧乏だけど男友達のこいつがいたから楽しかったんだ……。俺が馬鹿な事をしても温かい目で見守ってくれたハヤト。

 

 今、俺に向けている視線は恐ろしく冷たいものであった。


「残念だがもう決定事項だ。 お前が弱くなりすぎたんだよ……。俺達はここからが正念場だ。今までは幼馴染の情でパーティーにいさせたが、それももうおしまいだ」


 俺達幼馴染四人は、12歳の時の職業適性検査で俺達四人は強力なジョブを持っている事がわかった。

 四人でパーティーを結成して、村の外れのダンジョンで鍛錬を積み、ダンジョンボスを倒してから帝都で一旗上げるべく上京したんだ。

 

『ユウヤ! なんで俺を庇ったんだ!! くそっ、死ぬんじゃねえよ!!』

『うるせえよ、ボス倒すぜ!! 俺達ならやれるだろ? うぉおおおぉぉ!!』


 10年前か。そんな思い出が嘘のようであった……。



 俺のジョブは『魔法剣士』。バランスの取れたジョブで、サブアタッカーであり、補助に長けている存在だ。


 レベルが全てのこの世界。レベルが1違うだけでも強さがかなり変わる。

 ダンジョンボスに挑戦した時の俺達はレベル10


 その1年後、俺のレベルだけが急速に上がり、前代未聞の最年少のレベル60となったのだ。レベル60は闘技場のトップ層であり、今のハヤトやマリと同レベルだ。レベルを1上げるのには相当な努力が必要だ。きっと何かがおかしかったんだ。


 そして、とある日から、何故か俺のレベルは下がり続けるのであった……。

 俺達はこれを呪いと呼んでいる。

 日数が経てば経つほど俺は弱くなっていく。

 

 


 マリの表情はわからない。感情がこもっていない言葉で俺に言う。

 

「何故ユウヤはレベルが下がるのだろうか? ……だが、現実的に考えてこれ以上闘技場で闘うのは難しいと思う。なら、ここで引退して……、わ、私のお婿さ――」


 語尾が小さくて聞き取れねえな……。結局マリも俺に追放を勧めるのか……。


「いやさ、俺も必死になって呪いを消す方法を探してんだよ。……もうちょっとだけいさせてくれよ」


 マリは俺から顔をそらしハヤトの判断を仰ぐ。


 ハヤトは腕を組みながら俺の見下す。

 幼い頃の面影はない。嫌悪感を隠さない。


「七大勇者ギルドの一つから加入の誘いがあった。……加入条件はお前の離脱と新しいメンバーの斡旋を受け入れる事だ。なあ、こんな話は二度と無いんだ。だから、大人しくこのパーティーから出ていってくれ。俺達のパーティーにレベル30がいるなんて笑いものだ」



 神様からジョブを授かった俺達は英雄と呼ばれ、様々な仕事につくことが出来る。


 例えば世界を冒険して依頼を受ける英雄。

 傭兵として戦場を駆け巡る英雄。

 そして、帝都で行われる英雄同士の戦いを見世物にしている闘技場。


 その闘技場とは別に、個々のパーティーが集まった集合体、ギルド。

 ギルド同士が戦うギルド戦はこの帝都で花形コンテンツであり、対魔族に対する防衛部隊でもある。


 ハヤトの話が本当なら、七大勇者ギルドからの誘いはとてもすごい事だ。

 勇者が管理している超高位ギルド。そこに入れるのはごく一部のパーティーのみ。


「……あと、一ヶ月待ってくれ。帝都に呪いの解決方法がなければ他の国で――」


「くどい、散々試しただろ? どれもこれも効果が無かった。もうお前は駄目なんだよ、ユウヤ」


「も、もしかしたら――」


 ユウヤがテーブルを強く叩く。


「冗談も程々にしろ、俺達は闘技者だ。次の戦いが迫っている。練習もせずにパチンコに行ってるやつが何を言ってる!! なあ、俺達は上に行きたいんだ、お前ならわかるだろ?」


「ちょ、落ち着けよ! あれは景品にレベルアップのエリクサーがあったから仕方なく……。てか、エストは? エストは追放に賛成なのか?」


 ハヤトが大きくため息を吐いた。マリはオロオロして顔を下に向けている。


「無論だ。むしろエストはもうお前の顔を二度と見たくない、と言っている。さっさと荷物をまとめて出て行け!!」


 衝撃を受けた。エストは追放に反対してくれると思っていた。

 俺の一番の幼馴染の女の子のエスト。一緒に悩んでくれたり、特訓に付き合ってくれた。


『えへへ、ユウヤのレベルはきっと大丈夫だよ。私達で方法見つけようね! ……あ、他の女の子の事よそ見しないの!』

『ユウヤ、まだ大丈夫だよ……。レベル50だもん!』

『……ユウヤのレベル追い越しちゃった……。これからは私達がユウヤを守るからね』

『ユウヤ、私は今集中してるから話しかけないで頂戴。あんたは私達の後ろで隠れていればいいのよ、ふん』


 ……確かに、この何年間はエストは俺によそよそしい態度だった。機嫌が悪いだけかと思っていた。


 そっか……。

 潮時か……。


 ハヤトから向けられる視線は憎しみにも近いものがあった。仲間に向けるような目つきじゃない。

 俺のせいで何度も負けた。俺がもう少しだけ強ければ勝てる場面が沢山あった。俺のせいで冒険者クエストの依頼も失敗した。




「……わかったよ。追放の書類、くれよ」




 俺はハヤトから書類を受け取った。涙が滲んできた。走馬灯のように昔の思い出が脳裏に駆け巡る。

 ハヤトは「ふんっ」と鼻を鳴らすだけだ。

 マリは嬉しそうな表情をしていた。そっか、やっぱマリも俺がお荷物だと思ってたんだな……。


「これでユウヤが戦わなくてすむ。……良かった。本当に良かった。パーティーじゃないから一緒に住めないけど新しいアパートを見つけて、それで『聖なる剣』のサポーターとして――」


「おい、マリ、お前は馬鹿か? パーティーを追放した奴を雑用に雇うのか? こいつは役に立たなくなったんだ。追放した奴などいらん。おい、金はあるだろ? なら出て行け」


「えっ? は、話が違う!? そ、それでは……」


 俺のせいで二人が喧嘩してほしくなかった。憎まれているとしても、二人は大事な幼馴染だったんだ。


「……わかった。お前ら頑張って上目指せよ」


 離脱届に自分の魔力印を押す。

 悲しい気持ちを表に出すな。悔しい気持ちを表に出すな。馬鹿みたいに笑って、嫌われればいい。全部心の中で押し殺せばいいんだ。


 もう二度と会えないであろう幼馴染の二人の顔を頭に焼き付けた。


「ユウヤ! 待って! 話がまだ終わってない!」

「どうせ後で荷物を取りに来る。それよりもこのあと新しいメンバーのサクラが――」


 俺は飛び出すようにハウスを出るのであった――


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