第4話 やっと
あれから大和と千夏は毎日一緒に帰った。
千夏のクラスでも、大和のクラスでも、二人が付き合っている事が、話題になっていた。
特に大和は人気があるので、千夏の想像以上に盛り上がっていた。
大和と千夏が一緒に帰り始めて二週間ほどたった頃、その日も授業が終わり二人は一緒に下校していた。
「大和って本当に人気あるんだね」
「別に」
「私、クラスの子だけじゃなくて、色んな人から声かけられるんだよね」
「へぇ…」
「何て言っていいのか困るときある」
「へぇ…」
「…何か怒ってる?」
千夏は大和の横顔を見た。
「別に」
「何?」
「そんな事しか、言う事ないのかなって…」「え?」
「千夏、最近そんな話ばっかだから」
「そう?」
「周りがどうとか…」
「それ、嫌だったの?」
「それが嫌っていうか…、周りより…、少しは俺等の事考えたら?」
大和は千夏の目を見た。
「…あ…」
「…逃げてるでしょ」
「…ん…」
「俺は、千夏と手を繋いでいいのか、ずっと迷ってる」
「………」
「ほら、何にも言えない」
「大和だって、前にサラッと言っただけじゃん」
「俺は好きだよっ」
大和は怒った声で言った。
「俺に同じようには言えないんでしょ」
「……」
「でも、俺とは一緒にいたいんだよね?」
「…うん」
「むしが良すぎるんだよ」
大和の歩くが速度があがった。
「ごめん」
「…こんな状況だとしても、それでも俺は…一緒にいたいって思っちゃう」
「うん…」
「好きだから…、良いように扱われても、それでも一緒にいられるんならって…」
「良いようになんて…」
「でも…、いつも1人でハラハラして、ドキドキして、落ち込んで…」
「ごめん…」
「…俺の事、どう思ってるのか知りたい」
大和は千夏の目をじっと見て言った。
「俺の事、どう思ってる?」
「…一緒にいたい」
「…あとは?」
「…罪悪感があって言えない」
「彼氏もだけど、俺への罪悪感はないの?」「ある。だから、いつ振られても良いように心の準備だけはしておこうって…」
「千夏がしなきゃいけないのは振られても仕方がない準備じゃないよ?」
「え…」
「俺に好きって言う覚悟だよ」
「……」
「じゃなきゃ、俺に別れるって言う覚悟だよ…」
「そんな…」
「ま、付き合ってもいないのに、別れるも何もないか…」
大和は下を向いた。
いつの間にか、千夏と大和が別れる道についてしまった。
「じゃあね」
大和は淋しく笑って言った。
「大和…」
大和は振り向かなかった。
「大和!」
大和は立ち止まったが千夏の方は見なかった。
「大和…」
千夏は大和に駆け寄り、服を掴んだ。
「大和…。…あの…。……」
千夏は言葉が出なかった。
「…ほら」
「ほら?」
「俺には何も言えないくせに、引き止めないでよ…」
「…でも…」
「もう、いいよ…。ごめん、追い詰めて」
大和は千夏に顔を見せなかった。
「じゃぁね」
大和は千夏の手を優しく振り払って背中を向け歩き出した。
「大和、待って」
大和は千夏にそう言われても、待たなかった。
「やだ。行かないで。大和…」
千夏は大和の腕を掴んだ。
「大和と一緒にいたい…」
「……」
「これからも、一緒にいたい」
「……」
「…好き…。…好きだよ…」
千夏は、声を絞りだすように言った。
あとは、泣いて言葉が出なかった。
「千夏」
大和は振り向いて、千夏の手を握った。
「やっと…、やっと聞けた…」
大和は苦しそうな嬉しそうな顔をした。
「俺と、付き合って」
「うん…」
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