理屈じゃない恋

Nobuyuki

第1話 好きだ

小林 大和(こばやし やまと)は進学校に通う17歳の男子だ。

彼は、勉強も運動も出来て、ついでにイケメン。

小学生の時から常に一軍にいた。


一見華やかに見えるが、実は夜遅くまで働いてる両親に代わって、10歳年下の妹(心美)の世話をしていた。

大和にとって妹はすごく可愛い存在だが、幼稚園のお迎えや、遊び相手になったりしていると、友達と遊ぶ時間はなかった。

それを周りに知れて気を使われるのが嫌で、友達には家庭の事情を伏せていた。

それに加え大和は陽キャを演じていた。

そうする事で、クラスの人気者でいられるというメリットはあるが、たまに息苦しくなっていた。


大和はいつも男女10人くらいで、つるんでいるが、その輪からこっそり抜け出せた時は、友人の千夏(ちなつ)のいる美術室に顔を見に行っていた。


千夏は、大和同様、10歳下の弟(千尋)がいる。

心美と千尋が仲良しなため、その2人を含め4人で遊んだりすることも多かった。

なので、千夏は大和の家の事情も大和の本性もすべて知っていた。

  


「千夏」

美術室のドアを開け、大和はひょっこり顔をだした。

「大和。久しぶりだね」

2人は笑い合った。

大和は千夏が元気そうでホッとした。


大和は千夏の座ってた席の前の席に座った。

「心美ちゃん元気?」

「うん。元気だよ。千尋から聞いてない?」

「うん。千尋、軽く反抗期だからあんまり話してくれなくて」

「小1で?早すぎるだろ…」 

「でも、千尋、大人だから」

「まぁな…」


「千夏は?」

「え?」

「元気?」

「まぁまぁ」

「…それ、元気じゃないでしょ」

大和はフッと笑った。

「なんかね。たまに淋しくなる」

「…彼氏の事?」

千夏は現在遠恋中だ。

もう、3年ほどになる。

だが、年々、連絡を取り合う回数も減ってきていた。

「彼氏…、とかね」

「クラスに馴染めない?」

「とかね」

「…俺にあまり会えないから?」

大和はいたずらっぽく言った。

「…とかね」 


「じゃ、もっとここに来る」

「一軍は忙しいでしょ?」

「俺の器用さなめるなよ」

「あはは。はい」



「あれ?大和?」

教室の外から、大和の女友達3人が声をかけてきた。

「ホントだ何してるのー?」 


「うわ…」

大和は小さな声で言った。

「大和行った方がいいよ。またね」

「うん。また来るから」

「うん」


大和は急いで、友達の方へ行った。

大和は女子達と一緒に居たいのではなく、千夏に変な噂が立たないようにしたかった。

「中学一緒の子がいて話してた」

大和は女子達にそう説明した。

「へぇ。かわいいね」

「そうだね」

「好きだったりして」

女子が冷やかした。

「友達だよ」

「本当かなぁ」

「本当」

「へぇ」

千夏は美術室の外で、なにやらワーキャー言ってるのを聞いて淋しくなった。



帰りに、千夏は大和を見つけた。

千夏と大和の関係は一応秘密という事になっているので、見つけても、一緒に帰ったりはできない。

千夏が大和を見ていると、大和の方に女子が来て、楽しく喋りはじめた。

女子は大和の腕に手を置いたが、大和は笑いながら振り払っていた。

女子がすねているように見えた。


大和は千夏に気がついた。

一瞬目が合って、千夏は逃げるように帰った。


(やっぱり、淋しい…かも…)

千夏がトボトボ歩いていると、後ろから足音が聞こえた。

「千夏」

「大和?!」

「一緒に帰ろう」

「友達と一緒じゃなくていいの?」

「うん。女子しかいなかったし」

「…そっか」

ホッとした様子の千夏を見て大和は思った。

(あれ?俺が女子といるの嫌がってる…?)


「あのさ、今日、心美とケーキ作るって約束してるんだけど、千夏と千尋も食べにおいでよ」

「…いいの?」

「うん。来れる?」

「うん」

「じゃ、適当な時間に来て」

「うん」




ピンポーン。

小林家のチャイムが鳴り、心美が勢いよく玄関を開けた。

「千尋、千夏ちゃん。いらっしゃい」

「ね、心美っ。ここに来る途中の公園に賢人とかいたよ」

千尋が、かぶせぎみに言った。

「へぇ」

「佐和もいたし、一緒に遊びに行こう」

「行く行く!お兄ちゃーん!公園行ってくる!」

心美は家の中に向かって叫んだ。

「心美ー?ケーキは?」

「後で食べるー!千夏ちゃんまたね」

「うん。気を付けて」

千夏は二人に手を振った。


数秒後、大和が玄関に来た。

「心美ちゃんと千尋、公園行っちゃった」

「もう、我儘…。ま、いいや。上がって」

「うん」

大和は千夏と二人きりだと思うと胸がドキドキした。



「いい匂い」

「だろ」

「チーズケーキ?」

「うん。好きでしょ?」

「うん。好き」

「俺の事も?」(なんちゃって…)

「あはは。そうだね。ケーキ作ってくれるからね」

「やな答え…。…ケーキ焼き続けなきゃいけないじゃん」

「…あぁ、お腹すいたー」

千夏は笑ってはいたが複雑な気持ちだった。

(私に好かれたいって事?友達として…?だよね)


「美味しい!」

千夏はケーキを一口食べて言った。

「今日、せっかくうまくできたのにな。心美のやつ…」

「相変わらずシスコンだね」

千夏は休まずケーキを食べる。

「うるさい」

「あはは。仲良くて羨ましいよ」

「千尋は反抗期だっけ?」

「うん。ちょっとピリッとしてる」

「さみしいね」

「うん」



「はぁ、美味しかった。ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」

大和は頭をペコリと下げた。

「ははっ。おばあちゃんみたい」

「うるせ」

「ふふっ。あ、私、食器洗うよ」

千夏は立ち上がって机の上のお皿を片付け始めた。

「いいよ。座ってて」

「いいよ。やるやる」

「…じゃ、お願いします」

「はい」


千夏が流しに立って袖をまくると、大和も来て、同じように袖をまくり、スポンジを持った。

「私やるって」

「千夏は流して」

「うん…」

「二人でやれば倍の速さだ」 

大和がスポンジに洗剤をつけて洗い出した。

千夏も隣に立った。


食器を渡すと手が触れた。

なんとなく二人は黙って食器を洗っていた。


「千夏、ありがとう。それ、ペーパータオル。使って」

「…ペーパータオル…。店みたい」

「ん?意外とイイよ。そんなに高くないし、衛生的」

「そうなの?」

「それに手を吹いたあとチョコチョコっと掃除に使えるしね」

「それはいいかも…。キッチンのベタつきとか」

「そうそう。ゴミ箱の上をサッとか」

「あ、いいっ」

「…高校生の会話じゃないよね…」

「ホントね」

2人は笑った。


「あ、ペーパータオルのストックあるから一個持って帰って使ってみなよ」

「いいよ。自分で買うし」

「いいって」

大和はペーパータオルを千夏の頭の上の棚から無理やり取ろうとした。

大和の胸と千夏の頭がくっついた。

「あ、ごめん」

「ううん…」


大和がペーパータオルを渡そうと千夏を見ると顔が赤くなっていた。

「…千夏」

千夏は呼ばれて湊の顔を見ると、もっと顔が赤くなった。

大和の心臓の音も早くなった。

「千夏…」

「何…」

2人、目があった。


「好きだ…」

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