相合傘

道草

第1話

 あるところに雨男という男がいた。

 彼の頭上には絶えず黒雲が雨を降らし、冷たい風が彼の周りを吹いた。

 生まれたときから雨男には四六時中この黒雲がついてくるので、彼は常時傘を差していた。

 人々は濡れてしまうからと、皆雨男のことを避けた。彼が姿を現すと多くの人は家に帰り、洗濯物を取り込み始めた。

 雨男にはこの黒雲のため友達がいなかった。


 あるところに晴女という女がいた。

 彼女の頭上からは絶えず陽光が射し、暖かな風をその体に纏っていた。

 生まれたときから晴女には四六時中この陽光が射しているので、彼女は常時日傘を差していた。

 人々は最初は彼女のことをもてはやしていたが、やがて眩しいからと皆彼女のことを避けるようになった。彼女が姿を現すと多くの人は帽子を深く被り、日陰へと逃げた。

 晴女にはこの陽光のため友達がいなかった。


 雨男は天気を狂わせるからと、人々は晴れた日に彼を見つけると嫌悪感を露わにした。それでも日照りが続いたとき、人々は涼むために、雨男の雨を都合よく利用した。


 晴女は鬱陶しいからと、人々は晴れた日に彼女を見つけると嫌悪感を露わにした。それでも雨が長引いたとき、人々は洗濯物を乾かすために、晴女の陽光を都合よく利用した。


 雨男は独りだった。雨男は消えてしまいたいと思った。


 晴女は独りだった。晴女は消えてしまいたいと思った。


      *


 ある日、雨男と晴女が出会った。

 雨男の雨はアスファルトを飛び跳ね、晴女の陽光はそれをきらきらと照らし出した。

 雨男は初めて暖かな風に触れた。晴女は初めて冷たい風に触れた。

 雨男は光を浴びて、晴女は雨を浴びた。

 黒雲は薄く広がり、真っ白な雲になった。

 陽光はその雲で濾され、淡い光になった。

 彼らは傘を捨て、手を取り合った。

 そうして彼らは、七色に光る粒となった。

 人々はそれを見て、「綺麗」と呟いた。


 その憐れな二人の亡骸を、人々は「虹」と呼んだ。

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相合傘 道草 @michi-bun

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