銀色の残響

エピローグⅠ

エピローグⅠ side××

 頭が割れんばかりの轟音が小さなハウス内に響き渡る。


 ――ラスト・シガレット。それがこの空間を支配するバンドの名前。


 オーディエンスたちは皆、彼らの奏でる音楽の虜となり、思い思いの動きでその場に漂う空気を楽しんでいた。


 前方では拳を突き上げた人々が、日頃の鬱憤を晴らすかのように大きな声で歌い、身体を揺らしている。


 後方では暴れることはしなくても、彼らの音楽に耳を傾け、彼らが音に乗せて伝えようとするメッセージに心を寄せる。


 掻き鳴らされるメロディは絶望の中で喘ぐ人々へと送る歌。


 煙草のにおいのするその場所の空気を肺一杯に吸い込み、ヴォーカルはここが死に場所であるかのような悲痛な声で叫ぶ。


 彼の叫び声に、オーディエンスの動きは先ほどよりも荒々しいものへと変わる。


 何人もの客が、人の頭上を転がっていくダイブと呼ばれる行為をしては存在を主張するかのように、誰よりも高く拳を突き上げる。


 それに答えるようにバンドメンバーはより繊細に。そして、荒々しく音を紡いでいく。


 全てが完璧に思えるような空間だった。


 現に、この空間の誰もが楽しげに笑い、精一杯楽しもうとしている。


 だが、ただ一人だけ。この空間で悲哀の表情を笑みの裏に隠している人物がいた。


 その顔をちらりと映したのは髑髏どくろをモチーフとした無骨なリング。自分だけは全てを知っているぞとでも言いたげに、それはこの空間の光を浴び、鈍く輝いていた。

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