第九話
普段生徒会のメンバーで出かけることなんてほとんどないし、せっかくなのでお揃いで何か買おうということになった。
そんなわけで雑貨屋へとやってきたのだが……。
俺は表情を
「翔くん! これどうかな!? けっこういいと思うんだけど!」
そう言って会長が持ってきたものは、見るだけで不快感を抱いてしまうようなマグカップだった。
ブサイクなおじさんの絵がプリントされ、何の目的でこれを作ったかも分からない。作成者はこれが売れるとでも思ったのだろうか。
そしてそんな意味不明なものを何の疑問もなく平然と持ってくる会長の感性が本気で心配になる。
俺が「あはは、そうですね」と適当に流していると、今度は右京に向き直り、顔を赤くしながら話しかけた。
「う、右京くんはどう思うかな!? これ、どう思う!?」
突然話しかけられた右京は「ヒッ!?」と悲鳴を上げ、やがて目線を
「……とてもお似合いだと思います」
「え、えへへ……そうかな!」
似合う、とは褒め言葉だろうか……。
そのブサイクな顔面が描かれた置物が会長に似合う、と言う意味ならどう考えても悪口だと思うのだが。
まあせっかく喜んでるんだし、無粋なことは言わないでおく。
「それじゃあこれをお揃いで買おっか! みんな気に入ってくれたみたいだし!」
「「……!?」」
はにかみながらそんなとんでもないことを口にする会長に、俺と右京は揃ってギョッとして目を向いた。
冗談じゃない。こんな趣味の悪いもの買わされてたまるか。
安いのなら買うのもやぶさかではないのだが……いや、安くてもいらないな。
俺は何気なく置物の値札に目を向けた。
『1万2000円』
高えよ。高すぎるだろう。
こんなもの買えないし、そもそも買いたくない。
どう断わろうかと考えていると、いつの間にか隣に来ていた会長がコソッと耳打ちしてきた。
「翔くん、ちょっといいかな?」
目を向けると会長は恥ずかしそうに顔を赤らめて。
「ちょっと、お花摘みに行ってきてもいいかな」
「……?」
花を摘む……? なんでいきなり……?
俺は頭にクエスチョンマークを3つほど浮かべた。
右京と一緒にいるとおかしな行動を起こすのなんていつものことだが、それでも今回の行動は突拍子がなさすぎる。
「よく分かりませんけど、花ならショッピングモールの前の噴水付近に生えてましたよ。そこで摘んできたらどうですか?」
「ななな、何言ってるの!? 人前でできるわけないでしょ!」
「……?」
なんで動揺してるんだ?
別に花を摘むくらい恥ずかしいことでもないだろうに……。
もしかすると会長は、一人で摘むのが恥ずかしいのかもしれない。
「しょうがないですね。なんなら俺も一緒に行きましょうか?」
「うえぇ!? ほ、ほんとに何言ってるの!? ……あれ!? アタシがおかしいのかな!?」
「……?」
会長がこんなに取り乱している理由が分からない。
いやまあ、会長はおかしいですけど。
「それで、その摘んだ花って何に使うんですか?」
「……ッ!」
そこまで言って、会長は何かに気がついたように顔を紅潮させた。
「お花を摘むってそのままの意味じゃないから! トイレに行くってことだから!」
言った後、周囲の視線に気が付き、顔を急激に赤らめる会長。
そのまま「翔くんのばかぁ!」という可愛らしい捨て台詞を吐いてトイレに駆けて行った。
会長が帰ってきた後は、特に何事もなく帰宅した。
お揃いで購入するものはまだ決まっていなかったので、右京の提案で色違いの可愛らしいマグカップを買うことになった。
会長は自身で選んだブサイクおじさんマグカップを
会長はあのマグカップをよほど気に入っていたらしいので、誕生日の時にでもプレゼントしてあげようと思う。
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伏見ダイヤモンド
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