第八話
右京と合流し、そのまま目的地である水族館に向かっている最中、会長はやたらしつこく右京に話しかけていた。
「あ、その……楽しみだね! 右京くんは魚とか好きなのかな!?」
「……普通です」
「そ、そっかぁ普通かあ! まあそんなもんだよね! あはは……」
会話に困っているのが目に見えて分かる。
右京は会長を避け続けていた。
二人の距離が縮まらないのは俺にとって好都合だが、こういった日常会話すらできないとなると生徒会の仕事に支障をきたしてしまうかもしれない。
せっかくの機会だし、一般的な会話くらいはできるようになってもらおうと思う。
密かにそう決意し、
しかし不思議と賑わっている気配はない。
疑問に思いながらも歩き続け、扉の前まで到着したところで会長が声を上げた。
「着いたよ! イルカショーとかあるみたいだし、楽しみだよね! ラッコとかも、いる、のか、な……?」
段々尻すぼみになっていった会長の視線の先には、とある張り紙があった。
見てみると、そこにはやたら達筆な文字でこう書かれていた。
『本日定休日』
この完結な一言でも会長にダメージを与えるには十分だったようで、その証拠に彼女は悲しげな表情を浮かべて固まっている。同情せずにはいられなかった。
会長のことは可哀想だとは思うが、こればかりはどうしようもない。
このまま帰宅しようかと考えた俺だったが、何気なく向けた視線の先に、ある建物を見つけた。
そこには大型ショッピングモールがあり、遠目から見ても
予定とは違うが、このまま帰宅するよりは良いだろう。
俺はコソッと会長に耳打ちする。
「会長、このまま帰るのもアレですし、そこのショッピングモール行きませんか?」
「え、でも……」
会長は困ったような表情を浮かべた。
その手には水族館のチラシが握られており、そこにも『水族館でカップル続出! 魚たちは恋のキューピット!』というキャッチコピーが記載されていた。
「なあ右京、予定変更でこれからショッピングモールに行こうと思うんだが、それでも良いか?」
「はい、いいですよ」
そこにはいつもの王子様モードの右京が立っていた。
これであとは会長を納得させるだけなのだが……。
チラリ、と先ほどまで会長がいた場所を見ると、既にそこに彼女の姿はなく。
「ほら、翔くん! ……う、右京くん! 早くショッピングモール行くよ!」
そう言って、会長は元気よくスキップでショッピングモールへの道を進んでいた。
俺は本当に会長の扱い方が上手くなってきたのかもしれない。
あと、右京を呼ぶときだけ露骨に照れるのはやめてほしいと思った。
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伏見ダイヤモンド
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