第十二話

 「右京くんに好きになってもらうために大事なのは、やっぱり会話することだと思うんだよ!」


 生徒会室にて。

 書紀の職務をまっとうしていると、窓際に腰掛けた会長が突然語りだした。

 今日の分の仕事は終わったし、目があったので無視するのもどうかと思い聞き返した。


 「……会話、ですか」

 「そう、会話だよ! アタシってほら、右京くんと話すとき、ほんのちょっとだけどテンパっちゃうでしょ?」


 ちょっと……? あれのどこがちょっとなのだろう。

 俺の頭には右京を前にすると顔を真っ赤にして取り乱す会長の姿が浮かんでいた。

 

 「そこでアタシは考えたんだよ! 右京くんと会話するためには、心臓を強くすることが大事だってね!」

 「……?」


 何を言っているのか分からず、俺は首を傾げるばかり。

 

 「ということで! 今日はホラーゲームをやってみようと思います!」


 要は、右京との会話が成立しないのは心臓が弱いせいなので、その心臓を鍛えれば右京と会話できるのでは、という魂胆こんたんらしい。

 会長の目が先ほどからホラーゲームに釘付けになっているのを見ると、単にゲームをしたいだけのような気もするが……。

 ゲームの内容を確認すると、襲ってくるゾンビを所持している拳銃でひたすら倒していく、というシンプルなものだった。

 パソコンでプレイ可能なものだったため、早速ゲームを開始した。

 インストールを事前に済ませていたので、これをプレイすることは会長にとって決定事項だったのだろう。

 俺はこの手のゲームはやったことないのでよく分からないが、会長の表情を見るによほどホラーゲームに自信があるようだった。

 ……しかし開始数秒。

 会長はゾンビから逃げ回っていた。


 「翔くん! 助けて! どうしよう、アタシ倒せない!」


 初めはゾンビが怖いから逃げているのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 画面を見てみると、会長がゾンビから逃げ回っている理由はすぐに分かった。

 ゲームに登場するゾンビが右京にそっくりなのだ。


 「翔くん! どうすればいいかな!? これどうすればいいかな!?」

 「いや、どうするって……撃てばいいんじゃないですかね」

 「翔くんの薄情者! 右京くんのこと撃てるわけないでしょ!」

 「いや、それ右京じゃないですから」


 俺の提案も全く受け入れてもらえない。

 しまいには「薄情者!」と罵られる始末……。

 「なんとかして!」と会長に言われ、俺は仕方なく倒す以外に方法がないかと説明書をパラパラとめくった。

 

 「あ、会長! 足を撃てば無効化できるらしいですよ!」

 「え、足!? いや、でも右京くんの足……」

 「これゲームですから! ていうか右京じゃないですから!」


 俺が力説すると、会長は今にも泣き出しそうな表情で右京……もといゾンビの足を撃ち抜いた。

 次の瞬間、足を撃たれたゾンビが崩れ落ち、他のゾンビの足止めにも成功する。

 

 「ご、ごめんね右京くん!」

 「ほら、殺してないから大丈夫ですよ。まあ右京ではないですけど。ともかくこのままじゃゲームが進まないですから、どんどん撃ち抜いていきましょう!」

 「……」


 そうしてゲームを進めていくと、今度は別のゾンビが登場した。

 それは俺にそっくりだった。

 なんだこのゲーム……なんで登場人物がこんなに俺達に似てるんだよ。

 俺達のことを参考にして作ったんじゃないだろうな。

 だがどうしよう……会長は右京似のゾンビを倒すのを渋っていたのだから、別の人……つまりは俺でも渋ってしまうのではないだろうか。

 そんな期待を胸に会長を見てみると……。


 「……あ、右京くんじゃないゾンビが出てきたよ! これなら遠慮なく撃てるね!」


 笑顔でそう言い、俺に酷似こくじしているゾンビの脳天を撃ち抜いた。


 「……………」


 真顔で固まる俺。

 ……いくら好きな人の顔じゃないからと言っても、少しは躊躇するものだろうと俺は泣きそうになった。

 これについて言及してみると、会長は不思議そうに「え、これ誰かに似てるの?」と言ってきた。

 俺だと知らずに撃ったのだという安心感と、どこからどう見ても似てるのに気づいてもらえない複雑な感情でいっぱいになった。……いや、まあ俺じゃないんだけど。

 それから数十分が経過し、ついにゲームはラストスパートを迎えていた。

 と、その時。

 突如生徒会室の扉が開き、右京が入ってきた。

 それを目に止めた会長は急激に顔を赤く染め上げて立ち上がった。


 「ううう、右京くん!? ど、どうしたのかな!? アタシに何か用なのかな!?」

 「あ、いえ。プリントの提出今日まででしたので」


 右京は鞄から一枚のプリントを取り出した。

 そしてゆっくりと会長の元へと歩み寄ってくる。

 

 「あ、ど、どうしよう……。あれ!? 拳銃がない!? ……あ、これなら」


 とかなんとか呟いて、会長はマウスを手に取った。

 それをどうするのだろうと眺めていると、会長は突如右京の足めがけてそれをぶん投げた。

 すねの部分に直撃し、うずくまる右京。


 「ちょっ、ちょっと会長! なにしてるんですか!?」

 「……え、あ、あれ!? ごごご、ごめんね右京くん!? ゾンビかと思って……」

 「……ぞ、ソンビ……? なに言ってるんですか……?」


 どうやら動揺のあまり現実とゲームの区別がついていなかったらしい。

 ゲームに出てきたゾンビがあまりにも右京に似ていたせいで、現実の右京をゾンビであると勘違いしてしまったのだろう。……いや、普通はそんな勘違いしないけれども。

 俺は無言でパソコンの電源を落とした。

 生徒会室で会長にゲームをさせるのは金輪際こんりんざいやめさせようと思った。



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 伏見ダイヤモンド

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