第十九話
生徒会室に到着すると、来ているのは会長だけだった。
会長に他の生徒会メンバーの行方を問うと、志保は学園祭の出し物のため部活へ直行、右京は分からないとのことだった。
右京が来ていない理由は恐らく……いや
右京は会長が生徒会室にいる時はなかなか顔を出さないのだ。
俺は自分の机に鞄を置くと、何をするでもなくボーッと窓の外を眺めていた。
書記の仕事は昨日で全て終わらせてしまったため、今日の俺にはすることがない。
それは会長も同じらしく、頬杖をついたまま天井を見つめていた。
最近忙しくてお互いに疲れていたのか、それから数分は会話もなくただただボーッとするだけの時間を過ごしていた。
……のだが、突然会長がガバッと席を立って声を上げた。
「そうだ翔くん! アタシいいこと思いついた!」
「……いいこと、ですか」
いつもの俺なら面倒くさいことに巻き込まれるのを予想し、スルーすることに
……が、今日はすることがなくあまりにも退屈だった。
暇つぶしくらいにはなるだろうと、俺は珍しくも会長の話を聞くことにした。
「生徒会でも何か出し物しようと思うんだよ!」
「……?」
生徒会で出し物……? やることあるのか……?
顔で疑問を最大限に表現していると、会長はフフン、と鼻を鳴らせてみせた。
「風紀委員会でも出し物するでしょ? 文化祭だからって浮かれないように、『制服の正しい着こなし』のポスター貼ったりとか!」
あれは出し物というのだろうか。多分違う気がする。
「あと環境委員は学園祭中に掃除もするしね!」
「……そんなことするんですか。ちなみにどこを掃除するんですか?」
「廊下だよ! 学園祭中、回ってる人には
迷惑だろ。なんでそんなもん許可されたんだよ。
「ていうか委員会が出し物するのってやっぱりおかしくないですか」
「まあ確かにそうなんだけど、ほら、生徒会は委員会ってわけじゃないしね! 一応は部活動って扱いだし! 他の部活がやってるのに、アタシたちだけやらないなんておかしいよ!」
「……なるほど、それは確かにそうですね」
会長の言う通り、生徒会も一応は部活動という枠組みに入る。
うちの学校の生徒会は会長と副会長を除き、申請すれば誰でもなれるというシステムなのだ。
部活動として扱われるため、当然人数制限などもない。俺が1年生の時など、会計が三人も在籍していた。
「よし、じゃあ早速何するか決めていこうか! 生徒会っぽいことがいいよね!」
拳を突き上げ、高々にそう宣言する会長。
まあ、生徒会で何かをするっていうのには賛成だ。
一致団結してやり遂げたときの達成感にはやはり来るものがある。
……あとはまあ、暇ってのもあるが。
俺はスマホを操作し、『生徒会で文化祭の出し物決めることになったから生徒会室カモン』と右京に連絡した。
俺と会長ではマトモな案が出るとは到底思えなかったからだ。
志保は園芸部でのことで忙しいだろうし、後日出し物の内容を伝えればいいだろう。
「生徒会っぽいことって……何かありましたっけ」
「そりゃあ色々あるよ! 例えば元気なところとか!」
「元気……」
それは会長しか当てはまっていない気がする。
右京はクールな方だし、志保に至っては引っ込み思案だ。
俺だって活発な方じゃない。
「他にはないんですか?」
「……え、そうだなぁ」
そうして会長は思案顔をつくり……。
「……………………」
「ないじゃないですか」
「ちょっちょっと待って! まだある! きっと何かあるはずだから!」
そんなに考えないと出てこないのか……。
……いや、だがそれも仕方のないことだろう。
現生徒会メンバーは個人がバラバラすぎて統一性が皆無なのだ。
生徒会らしさというと、正直何も思い浮かばない。
しばらくの間考えていると、会長がハッとして手を打った。
「そうだ! 流しそうめんとかはどうかな!?」
「却下ですよ」
生徒会らしさというのはどこへ行ってしまったのだろう。
理由がただ食べたいというだけなら
「えぇ、だって食べたいんだもん!」
食べたかったらしい。でもやはり却下だ。
それからも会長は変な出し物ばかりを提案してきて、一向に話は進まなかった。
自分の案を却下ばかりされることに腹を立てたらしい会長に
連絡がなかったのでもう帰宅したと思っていたのだが、どうやらまだ校内に残っていたらしい。
テンパった会長の腕から隙をついて逃れ、右京にも何か案がないかと問いかけると、彼は淡々と無表情で。
「いえ、僕たち当日は見回りしないといけないので、出し物なんてできないと思いますけど……」
「……」
俺は無言で会長の方を見た。
会長はそっぽを向いて、「あ、今日は快晴だね」とかなんとか呟いていた。
見回りのことを知らなかった俺も俺だが、会長という立場なのだから当日の義務くらいは把握しておかなければならないだろう。
でもまあ、いい暇つぶしにはなったと思う。
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伏見ダイヤモンド
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