第五話

 「あああの、右京くん! 話があるんだけど今いいかな!?」


 デートの行き先を考えた翌日。

 会長は早速、右京をデートに誘おうと試みていた。

 どうせ会長はテンパって何も言えないだろう考え、何か手伝おうかと提案したのだが、つい先ほど「今日は手を出さないで!」と言われてしまったので本日の俺の役目はない。

 「アタシ自分で誘えるから、その辺は任せて!」と親指を立ててウインクしてきた会長の姿が脳内によみがえった。……本当に大丈夫なんだろうか。

 ちなみに俺が会長を手伝おうと考えたのは、恋心が冷めてしまい、右京との恋路を応援しようと考えたからではもちろんない。今でもこの恋心は健在だし、何なら以前よりも増大している。俺は少し手のかかるドジな女の子が好きなのだ。

 デートに誘ったところで会長はどうせ断られるだろうが、それを俺が手伝わなかったからだとか騒がれても困る。

 だから一応手伝う意思はあるのだということを示しておくための作戦だったのだが、運悪く断られてしまった。

 会長に声をかけられた右京は「ヒッ!?」と小さく悲鳴を上げ、勢いよく後ずさった。

 世間で認知されている右京のイメージはといえば、「何事にも動じないクールなイケメン」というものだったのだが、最近、俺の中でその印象が変わりつつある。

 一般の生徒相手にはそのイメージ通りの対応なのだが、会長には苦手意識があるらしく、クールの片鱗へんりん垣間見かいまみえなかった。

 完全におびえた表情で右京は尋ねる。

 

 「なんでしょう……? 僕に話、ですか……?」

 「そそそ、そうなの! 右京くんは魚とか好きかな!? 私けっこう好きなんだよね! そ、それで……えぇと、なんだっけ……ねえ翔くん! なんだったっけ!? なんでアタシ右京くんに話しかけてたんだっけ!?」


 目的まで見失うなよ___。

 何が任せて、だ。完全に失敗じゃねえか。

 やはりこうなったか、と俺は会長のもとに駆けつけた。

 コソッと耳打ちしてやると、会長は「そうだった!」と手をポンと打ち、再び顔を赤くしながら右京に向き直った。

 

 「こここ、今週の日曜日! アタシと水族館に行ってくれないかなって!」

 「え……」


 途端、右京は顔を引きつらせた。

 まあ、俺としては予想通りの反応だ。

 右京は会長に怯えているわけだし、OKされる可能性なんてまずない。

 俺は顔を真っ赤にして俯いている会長を見た。

 会長にしてみれば、デートに誘うということですら精神的に疲弊ひへいしてしまう行為なのだ。それなのにこれから断られるということに、不覚にも同情を覚えてしまう。

 ……しかし。


 「……それは、翔くんも行んですか?」


 それは右京が発した言葉だった。

 予想外の言葉に上手く脳が機能せず、俺の口からは「……え?」という疑問の声が漏れた。

 いや、俺が行ったらそれはもうデートじゃないだろう。

 行かないことを右京に伝えようとすると、それよりも先に会長が口を開いた。


 「ももも、もちろんそうだよ! 生徒会メンバーで行くことになってるんだ!」

 「は!?」


 驚いてバッと会長を見ると、目はぐるぐると渦を巻き、緊張で何も考えられなくなっているようだった。

 『あとで後悔するんだろうな』とか『動揺してる会長可愛い』とか色々言いたいことはあったが、それよりも俺は右京の質問の意図の方が気になっていた。

 会長の回答を聞いて、後に俺を一瞥いちべつすると……。


 「それでは、僕も行かせてもらいます」


 そんな、予想外のことを口にした。



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 伏見ダイヤモンド

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