第四話
生徒会室にて。
俺は園芸部の
彼女は俺と同じ2年3組の生徒で、一番仲の良い女友達でもある。
現在、この生徒会に会計の仕事をする人材はいない。
そこでこうして
俺は会長一筋だが、それでも彼女といる時間は好きだった。
一緒にいるとリラックスできて、何故か落ち着いていられるのだ。
と、そんなオアシスを邪魔する声が室外から聞こえてきた。
「翔くん翔くん! ここのドア開けて! 手が塞がっちゃってさぁ!」
「……………」
げんなりしながらもドアを開けてやる。
すると会長は手に大量の紙束を抱え、プルプルと身体を震わせながら立っていた。
「……なんですか、それ?」
「と、とにかく入れてくれないかな!? 話はその後で……ああ、これ、やばい……!」
俺は無言で紙束の半分を
チラリ、とその紙束を見れば、それらは全て何かのチラシだった。
こんなものを何に使うのか……。
用途は分からないが、何のために使うのかはなんとなく想像できた。
会長がこのような奇行に走るのは、右京が関わっているときだけだ。
会長は自分の机まで紙束を持っていく気力は残っていなかったらしく、それをドスン、と音を立てて床の上に置いた。
そうして意気揚々と何かを宣言しようとしていた会長だったが、ふと志保のことが目に止まり、その口を
「……………えっと」
志保を見つめる会長。
会長の言いたいことを察して、俺深くため息を吐いた。
……志保がいるから、右京に関する相談ができないのだろう。
会長は右京のことが好きであることを周囲の人間にあまり知られたくないのだ。
志保に「これから大事な話があるから今日はもう大丈夫だ」と言うと、残りの仕事を持って素直に退出してくれた。 後の仕事は俺がやると言ったのだが、そこは何故か譲ってくれなかった。
志保を見送り、俺は改めて会長に向き直った。
「それで、今度は何なんですか? また何か思いついたんですか?」
「うん、よくわかったね! 今日はデートの場所選びに手伝ってもらおうと思ってね!」
「……デート、ですか」
反射的に断わろうとし、しかし俺は踏み止まった。
……まあ、行き先を決めるくらいなら別にいいか。
会長は右京に怯えられているし、多分断られるだろうし。
「それでチラシを持ってきたんだけど、どれが良いと思う!?」
「どれでもいいかと」
「ちょっと、もっと真面目に考えてよ! まったくもー!」
プンプンと怒る会長を見てつい頬が緩む。
こういう感情を素直に表すところが会長の好きなところでもあった。
「ちなみに会長はどこに行きたいとかあるんですか?」
「え、私? 私はそうだなぁ、登山と行きたいかも!」
「と、登山ですか。デートで登山……。ほ、他には?」
「うーん……あ! 夜の校舎とか二人で忍び込んでみたいかも! なんかスリルあるよね!」
「なんか……普通のデートスポットとかは……」
「あ! あとはそうだね、ボーリングとか!」
「ああ、ボーリングですか」
なんだ、マトモなのもあるじゃないか。
会長は満面の笑みで「うん!」と頷いた。
「
そっちのボーリングかよ。そんなの見たいって言う人初めてみた……。
絶対にOKなんてされないだろうけど、もしそんなもので右京をデートに誘おうものなら会長が恥をかくことになる。
好きな人がそんな恥を
ここは感性があまりにも残念な会長に助け
俺はあるパンフレットを会長の前に突き出した。
「あの、無難に水族館とかはどうですか?」
「嫌だ」
即座に却下する会長。
「水族館とか普通すぎるでしょ? それじゃダメだよ、もっと工夫がないと!」
その工夫があなたの恋愛の足を引っ張ってる気がするんですがね。
「それに水族館って、子供っぽい、し……」
そうしてチラリ、と水族館のパンフレットを見た会長の言動は次第に尻すぼみになっていった。
気になったので俺も手にしているパンフレットを見てみた。
そこには柔らかめのピンク色のフォントでこう書かれていた。
『水族館でカップル続出! 魚たちは恋のキューピット!』
恐らくは水族館のキャッチコピーなのだろう。
会長を見ると、目を輝かせてその文字をジッと見つめていた。
会長はそのパンフレットを俺の手から奪い取り、スカートのポケットにしまった。
「アタシ、水族館が良いと思う! 魚って可愛いし、右京くんも喜んでくれると思うし!」
「……………」
ジト目を向ける俺に、会長は無言で目を逸らした。
……ともかく、会長は右京を水族館に誘うことになった。
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伏見ダイヤモンド
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