憧れの生徒会長を恋い慕う生徒会書記、屋上に呼び出されたので告白されるのかと思いきや、生徒会副会長との恋路を手伝ってほしいと懇願されてしまった。

伏見ダイヤモンド

第一章

第一話

 生徒会書記を務める俺こと多々良たたらしょうには好きな人がいる。

 名前を速水はやみ飛鳥あすかといい、彼女は生徒会長を務めていた。

 学年一位の学力に加え、明るい性格ゆえに人望も厚く、生徒全員の憧れの存在。


 俺はそんな学園のマドンナ的存在である彼女に、放課後の屋上に呼び出されていた。

 目の前に立つ会長は両手の指をモジモジと恥ずかしそうに絡め、言いにくそうに顔を赤らめている。

 生徒会室であれだけ大騒ぎしている普段の活発さは微塵みじんも感じられなかった。

 肩の少し上あたりで切り揃えられた赤茶色の髪が屋上の風に吹かれてなびいた。


 ……この状況を見て察しのつかない男はいないだろう。

 これはアレだ、所謂いわゆる『告白』というやつだ。


 告白だと分かった上でなお、俺は大して驚きはしなかった。

 なんとなくだが、以前からそんな予感はしていたのだ。

 自惚うぬぼれるなと言われるかもしれないが、しっかりとした根拠だってある。

 チラチラと視線が交わることは多々あったし、俺に対しては特別優しかったような気もする。


 「……」


 会長は相変わらず口をつぐんだまま俯いている。告白を口にする気配はない。

 恥ずかしそうに視線を彷徨さまよわせ、俺と目が合っては逸らす……先程からそれを繰り返していた。


 ……焦らしプレイだろうか。

 俺に焦らされて喜ぶ趣味なんてないのだが。


 それまでだんまりだった会長は、意を決したようにばっと唐突に顔を上げ、正面から俺を見据えた。

 ドクン、と心臓が跳ねる。

 そうして会長は震える拳をなんとか握り。


 「翔くん! 私の恋路を手伝ってほしいの!」


 そのまま俺に告白を……………今なんて?


 会長は唖然あぜんとする俺のことなど気にも留めずに、顔を紅くしたまま続ける。


 「アタシ、副会長の右京うきょうくんのことが好きなの! ……あー! 言っちゃった!」

 「え、あ、え……?」

 「あ、どこが好きかっていうとね! まず優しいところでしょ、それにカッコいいところでしょ、あとは」

 「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」


 俺はそのままヒートアップしそうな会長の言葉をあわててさえぎった。


 「あの、これは新手の告白か何かですか? 最初に副会長のことが好きだと言って俺を動揺させた上で、その後に本命の告白をするっていう高等テクニックなんでしょう!?」

 「新手の告白……? 高等テクニック……? よくわからないけど、私が右京くんを好きなのはホントだよ! ……って、何回も言わせないでよ恥ずかしい!」


 照れて顔を覆ってしまう会長を目の前に、俺は呆然と立ち尽くしていた。


 院瀬見いせみ右京うきょう


 この学園においてその名を知らぬ者などいないだろう。

 彼は学園一の美少年として知られ、その上、この学園の生徒会副会長でもある。

 勉学はもちろんのこと、スポーツまで万能の完璧超人だ。

 陰では「生徒会の王子様」などという二つ名までついているらしい。

 ちなみに俺も生徒会ではあるが、そんなカッコいい呼び名は未だ付けられてはいなかった。

 副会長と同じように言うのなら、「王子様の引き立て役」とでもいったところだろうか。


 そして彼女……会長も、そんな副会長のことが好きなのだろう。


 ……いや、いやいやいやいや。


 俺はブンブンと手を振った。


 おかしいだろ、それはおかしいだろう。

 だっていま告白する流れだったじゃん! どう考えても俺と付き合う流れだったじゃん!


 俺は心の中で全力で叫んだ。


 じゃあアレか? 会長は俺のことが好きなんだと勝手に勘違いして一人盛り上がってただけだってのか? ……なめんな。


 ガックリと膝を付き、項垂うなだれる俺。

 自信満々だっただけに、そのショックはあまりにも大きい。

 会長は先程からデレデレと身をくねらせ、想い人である副会長の話を延々と続けている。


 「私、実はずっと前から副会長の右京うきょうくんのことが好きなの。それでしょうくんには、あたしと右京くんがその……お付き合いできるように手伝ってほしいなって」

 「……」

 「だからお願い! 私の告白が成功するように、手伝ってくれないかな」

 「嫌です」


 神様にでも祈るように両手を合わせて懇願こんがんしてきた会長に、しかし俺はキッパリと断った。

 当たり前だ。何が悲しくて好きな人と他の男の恋路を応援してやらねばならんのだ。

 会長は俺のその回答を予想していたのか、大した驚きは見せずにうなる。

 

 「そりゃ、私もこんなこと異性相手に頼むのは良くないって分かってるけどさ! でも、もう翔くんにしか頼めないんだよぉ! 頼むよぉ!」

 「嫌ですよ!」

 「なんで!?」

 「な、なんでって……それは、その……」


 会長が好きだから、などと言えるわけがない。

 特にこんな状況では事態がややこしくなるだけだ。


 「ていうか、異性に頼むのが悪いと思ってるなら友達にでも頼めば良いじゃないですか!」

 「アタシもそれは考えたんだけど、同性の友達に話しちゃったらすぐに広まっちゃうし……。アタシは誰にもバレずに付き合いたい!」


 いわく、冷やかしに遭うのは嫌なのだと。


 まあ、その気持ちは分からなくもない。

 その冷やかしが原因で別れるカップルなんてのもいるくらいだし……。

 好きな人が困っているのだ。手伝ってあげようか、なんて考えが一瞬だけ頭をよぎった。

 ……いや、でもやっぱり嫌だ。好きな人の恋路なんて手伝ってたまるか。


 「ねえ、やっぱりダメ? 私、異性で仲が良い人は翔くんしかいないんだけど」


 上目遣いでそんなことを言ってくる会長に、フラッと了承してしまいそうになるのを堪え、なんとか踏みとどまった。


 「ぐっ……。そんなこと言ってもダメなものはダメです」 

 「えぇ!? 今のは面倒くさがりながらも『ふう、やれやれ』って言って協力してくれる流れでしょ!? ねえお願い! 少し協力してくれるだけでいいの!」

 

 計算済みだったのかよ……。俺がやれやれ系主人公じゃなくて本当に良かった。


 諦めの悪い会長の声が聞こえたのか、同じく屋上でくつろいでいた少し離れた場所にいる他の生徒数名が俺たち二人に注目し始めていた。

 会長をなだめながらも、しかし俺の決意は固まっていた。


 やっぱり俺は好きな人の恋路を手伝ったりはしない。

 それが想い人の頼みでも、だ。

 ちょっとやそっとのことでは、俺は流されたりは……。


 「私の胸を定期的に眺めてたり、階段で下からスカートの中を覗こうとしてるのは見逃してあげるからぁ!」

 「ぶっ!?」

 「放課後に校庭で活動してる女子バレー部の脚を眺めては、『……フッ、75点』とか度々たびたび呟いてることも黙っててあげるからぁ!」

 「ちょ、ちょっと、待っ……!」

 「生徒会のパソコンにエッチな画像を……ふぐっ!?」

 「手伝います! 手伝いますから少し黙りましょうか!?」


 俺は慌てて会長の口を抑え、冷めた目を向けてくる女生徒数名に愛想笑いを振りまいた。

 ……泣きたい。



____________________



 最後まで読んでくださりありがとうございました!

 評価や★、コメントなどで応援していただけると嬉しいです(_ _)


 伏見ダイヤモンド

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る