四季の物語
埜田 椛
第1話 冬:受験生の健闘
「あー、もう、頭に入ってこない!!」
リビングの炬燵机に赤本、参考書、ノートに筆記用具を広げながら勉強すること1時間
持っていたシャーペンをノートの上に転がし寝転がった。
時計を見れば16時半になるところだった。
「みんなもう、おばーちゃん家着いたかな…。」
年末年始はいつもおじーちゃんとおばーちゃんの家でゆっくり過ごすのがうちの年越しの仕方だった。
でも、今回は受験生だから!という理由で一人家に残ることに
ママは心配そうな顔でご飯は冷蔵庫に作り置きしておいたから食べるのよ、と言い
パパは正月くらいはいいじゃないか、とこちらも微妙な顔をしていたが
お兄ちゃんはあ、そう。と言い早々に車に乗り込んでいった
「お兄ちゃんってクールと言うかドライと言うか、そんな所あるよね…。」
三人を見送ったのは2時間ほど前
もうそろそろおばーちゃんの家に着いててもおかしくない時間。
見送ってすぐにママが作ってくれたハヤシライスをお昼ご飯に食べて、自室から参考書諸々を持ってきてリビングで勉強し始めた。
集中できると思ったのに…
「私以外誰もいない家って、久しぶりだな…。」
ぽつりと呟いた言葉もシーンとした空気に消えていった。
身体を起こせば勉強を再開させるべくシャーペンを手に取り赤本を開き過去問を解き始める。
キリの良いところまでできたのは19時過ぎだった。
頭も使ったし流石にお腹空いたと冷蔵庫を開ければ、ママが沢山作り置きしてくれたご飯達がタッパーに入れられ並んでいた。
肉じゃががあったのでそれを電子レンジで温めながら冷凍のご飯も温める順番に並べた。
お湯を沸かしてレトルトの味噌汁を作っていけば肉じゃがが温まったので今度は冷凍ご飯を温めた。
準備ができダイニングテーブルに並べていき手を合わせ
「いただきます!」
早速肉じゃがから食べることに
じゃがいもはほろほろ、にんじんにいんげんと白滝もいい感じ
お肉は牛肉と豚肉が入っているのが我が家の味
友達とかに聞くと片方しか入ってないよ、と聞いた。
ママに聞いたら
譲れないものがあってね…。と言ってきたので調べてみたら地域によって入れるお肉が変わってくるみたい。
「おばーちゃんの肉じゃがは牛肉だったな…。」
食べ終わり洗い物をしながらふとおばーちゃんの作ってくれた料理を思い出した。
私がハンバーグ好きだからいつも作ってくれて、お兄ちゃんが好きな唐揚げも一緒に作ってくれて
ストーブの上で焼くみかんや干しいもは熱々で特別感の美味しさがあり
炬燵机の上にはみかんやお菓子がたくさん置いてあって
「はぁ…、やっぱり行けばよかったな…。」
でも、おばーちゃんの家行ったら絶対に勉強しない。
お節にお雑煮にお餅にと食べるだけ食べて、のんびりして…
そんなのが安易に想像できるから自分から行かないと今回言ったのだ。
洗い物が終わったタイミングでスマホがバイブ音を鳴っている。
手を拭いて炬燵に向かいながら誰からかメッセージかと思いながらスマホの画面を見れば
「お兄ちゃん?なんで?」
お兄ちゃんからの着信だった、それもビデオ通話の
不思議に思いながらも応答のボタンを押していけば見慣れた天井が写っていた。
『お、出たな。勉強はどうだ?』
「夕飯食べる前超捗ったよ!ってか、いきなりビデオ通話ってなに?」
『まあまあ、お前も画面ONにしろよ。』
なんか濁されたな、と思いながらも赤本や参考書にスマホを立てかけて自分も画面をONに
通話の向こう側は騒がしく、やっと画面が安定したと思ったら写っていたのは…
「おばーちゃん!」
『あらまー、本当に顔も声も見えて聞こえるのねー。』
先程まで考えていたおばーちゃんだった。
おばーちゃんはビックリしながらも画面をまじまじと見ているが…
『ばーちゃん、近いって。あっちから見たら目のアップにしかなってないって。』
『あれま、どれくらい離れればいいの?』
『もうちょい後ろ、そう、その辺り。』
隣でお兄ちゃんが声を掛けてくれておばーちゃんの目のアップから顔全体見えるくらいになった。
「おばーちゃん元気?おじーちゃんも!」
『元気だよぉ、今回帰ってこないって聞いてじいさんったらすっかり拗ねてもうたよ。』
おばーちゃんはけらけらと笑いながら言えば画面から見えない所でおじーちゃんは余計なこと言うな!と声が聞こえた。
「ごめんね、行けなくて…。」
『いいんだよー、お勉強頑張ってるんでしょ。やけど寂しくてお兄ちゃんに写真見せてもらおう思ったらなんとか通話?やってみよ言うてくれてね。』
そう言うおばーちゃんはいつも通りの優しい顔で話してくれた。
というか、お兄ちゃんが?ビデオ通話を提案してくれた?
「えー、お兄ちゃんが?なんか意外。」
『言っておくけどお前だけの為じゃねえからな。ばーちゃんもじーちゃんも寂しそうだから提案したんだからな。』
お兄ちゃんはひょこっと顔出せばふふんと鼻で笑っていく様子に、素直じゃないなと思ってしまった。
「お兄ちゃんも可愛い可愛い妹に会えなくて寂しかったんでしょー?素直にそう言えばいいのに!」
『調子に乗んな。じゃなくて、ばーちゃん言いたいことあるんだろ?』
お兄ちゃんはふんとそっぽを向くもすぐにおばーちゃんに話題を振った。
おばーちゃんはそうだった、と言い水色のお守りを画面いっぱいに見せてくれ
『これなー、みんなが来る前に買ったお守りなんよ。お兄ちゃんに渡すから試験会場に持っていき?』
「えー!ありがとう、めっちゃ嬉しい!」
『ばーちゃん、それ交通安全じゃね?』
『あれま、じいさんったらこれ学問じゃねえよ。』
おばーちゃんはお守りを画面から離しお兄ちゃんと一緒にお守りを見ながらおじーちゃんに言えば
試験に行くまでに移動するだろ、だから交通安全でいいんだわ!
とよく分からないおじーちゃんの声に思わず大笑いしてしまった。
そんな私を見ておばーちゃんはやっぱり笑顔のが可愛いねー、と言ってくれた。
『受験終わったら遊びに来てな、ばーちゃんもじいさんも待ってるよ。干しいもも買ってあるしハンバーグも作るからな。』
「うん、頑張るよ。そのお守りと一緒に頑張るからもうちょい待っててね!」
じいさんお守り気に入ったみたいだよ、と言うおばーちゃんに対して当たり前だろ、俺が選んだんだから。と言うおじーちゃんの声が聞こえた。
『まあ、みんな応援してるってことだよ。勉強頑張れよ。』
「もうやる気出た!お風呂入ったらまた勉強する!」
『湯冷めせんようにねー。』
お兄ちゃんも応援してる中に入っているのかは分からないものの
おばーちゃんとおじーちゃんと少しでも話せて勉強のやる気は十分に。
おばーちゃんから湯冷めしないようにと言われればはーい、と返事を返した。
それから少しだけお話をしてからビデオ通話は終わった。
「さて、みんなに応援してもらっているから頑張らなくちゃね!」
まずはお風呂だ、その後髪を乾かしてから勉強しよう。
お兄ちゃん達帰ってきたらお守りはペンケースにでも付けよう。
そのお守りを持って今度は合格証明書も持っておばーちゃんとおじーちゃんに会いに行くんだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます