43.髄液、漏れました。

 なんて???????????????

 びっくりさせてすみません。正直私がびっくりしてます。

 実はさらりと流していたのですが、覚えている方はいらっしゃいますか?

 入院三日目のエピソードに『麻酔科の先生のお話し』という項目があったことを。


 遡ること、少し前。

 手術から目覚めた私は、ひどい頭痛に悩まされていました。

 頭というか腹かっさばかれてるんだから、もうあちこちそこらじゅう違和感と痛みだらけなんですけど。

 今回の手術、そもそも結構早い段階で歩行練習がスケジュールに組み込まれていました。

 具体的に言うと、目が覚めたら翌日から歩け。です。

 なんでも、歩行ができないと尿カテもはずせないし(トイレ行けないってことだもんね?)歩行しないと腸管が通らずうんぴ(マイルド表現)も出にくくなるから、とにかく歩いて早く腸管を通せってことらしいです。

 腸管が通らないと腸閉塞になってる可能性があって、ようするにお腹の中が動かなすぎて腸と傷口がくっついちゃうってことで。そうなったら、ワンモア手術おかわりみたいな話にもなるらしく。

 それだけは絶対回避しなければならないというのが、私に課せられた最初のミッションでした。


 なのですが。

「初心者さん、ゆっくり立ち上がって下さいね〜。焦らなくて大丈夫ですよ〜」

「無理かもしれません!!!!!!!!!!!!!」

 看護師さんたちに付き添われて行われた最初の歩行訓練で、私はひどいめまいを起こし、ベッドから床へ一直線。床が友達マイフレンドみたいになりました。

 ローリング視界、冗談じゃない吐き気、やばすぎる。これが術後か。これで歩く訓練しないとなのか。術後ってすげー。です。

 初めての術なので、こんなもんなのかと思ってたのですが、なんだか周りの看護師さんたちの様子がおかしい。

 ちょっと緊迫してる感じがしました。えっ、なになに。

「大丈夫ですか? 座りましょう!」とすぐにベッドに戻されて、ああ歩行訓練って大変なんだなぁ。でも歩かないと尿カテ取れないし。本当、体に管が繋がってるのってしんどいし、管が繋がってる状態で寝るのって本当に精神を削られるし。なんてことをぼんやり考えてるうちに、気絶してました。


 術後は本当に消耗してて、比較的気絶できてたのはラッキーだと思ってます。

 やっぱり気になるじゃん。体の中に管が入ってて、それが外に繋がってるってさぁ。

 その時は、尿カテと、点滴と、背中に麻酔の管が入った状態でした。

 少しでも痛いって思ったら自分で麻酔を入れて下さいねって、スイッチも渡されてました。

 こわすぎない???? 入れんの??? 自分で??? 麻酔を????

 こんな早押しクイズの回答ボタンみたいなやつで???

 ただでさえ管が繋がってて怖いのに、何もかも初めてすぎて術後って怖すぎるんだなってちょっと泣きました。

 だってめっちゃ嫌じゃん。私が暴れたら、この管どうなっちゃうの。いや暴れないけど。すごい緊張する。もういっそ興奮してくる(なんて?)

 そんな初めての管との共同生活に熱い思いを馳せてる私を叩き起こしたのは、主治医のパチ先でした。


「初心者さん、手術は成功しましたが、麻酔の際に針が入りすぎてしまい、髄液が漏れてしまいました」


髄液が漏れてしまいました。


髄 液 が 漏 れ て し ま い ま し た 。


 なんて?????????????????????????????

 なるべくなら、人生においてあんまり聞きたくなかったなぁ。その単語。

 状況が飲み込めていない私にパチ先は、丁寧な謝罪をしてくれました。

 そして、このあと麻酔科の先生が詳細の説明に来てくれることを伝えてくれました。

 こ、これ、もしかしたら訴えたら勝てるやつか?

 一瞬まじで考えました。いや別に訴えないけど。


 これが、最初にこの物語を非公開にしようと思ったきっかけのひとつです。

 だってこれ、私が騒いだら本当に騒ぎになるやつじゃない?

 結構ガチで騒げるやつじゃん? いや、もしかしたらよくあることなのかもしれないけど。いやあってたまるか。そんな説明受けてないって。あとパチ先がポーズでもあんな申し訳なさそうな顔して謝罪するの絶対イレギュラーなことだよね。

 へらへら日記にそのまま書いて、もし本当に騒ぎになったら責任持てないし、パチ先にこれ以上謝って欲しいわけでもなかったし。

 というわけで、信じるか信じないかはあなた次第です、な書き方を一応しておくのですが。


 真面目な話、あれだけの患者さんを一日でさばく巨大な病院で、ヒューマンエラーがないとは思えなかったんですよね。

 もちろん、ミスは怖いし、最悪死んでたかもしれない。

 でも、私は実際生きているし、説明によると命に別状はなさそうだし。

 何より一番焦ったのは、深く刺しすぎちゃった麻酔の先生だと思うし。

 ヒューマンエラーって、なくせないものだと思うんです。 私もするし。

 医療の現場って、本当にそれが許されないことがあって、それを誰よりも痛感してるのは現場の皆様だと思うので。

 多分、私が騒ぐのは簡単なんですけど、それよりも今回の大したことなかったミスを教訓に、次のミスを減らすために時間を使って欲しいなって思いました。

 何より、たったひとつのミスで優秀な医療チームの手が止まることの方が、私にとっては損害だと思いました。

 なので、この話に関して私が怒っていたり、病院に何かしてもらおうという意思はないということで。この物語はフィクションです、実在の人物団体とは一切関係がありません。とエッセイジャンルに登録しているとは思えない文言を一応書き添えておきます。信じるか信じないかはあなたし(割愛)


 ベッドを訪れた麻酔科の先生による丁寧な謝罪があり(本日二度目)私の状況について、説明がありました。

 髄液は少し漏れた程度で問題はない。

 ただ、少しの間頭痛が出ることがある。

 その頭痛は、絶対に、完璧に治さないといけない。

 頭痛がなくなる時が、髄液周り完治の合図になるのかなという雰囲気でした。

 なるほど、頭痛がある間は髄液がなんかしらなんかなってるのか。なるほど。

 つまり。


「初心者さん、歩行訓練は中止です。というかベッドからも出ないで下さい。絶対安静です」


 頭痛が治まるまで、ここから出られなくなりました。

 動けない、だと!?

 腸管通らないと腸閉塞なんでしょ!?

 歩行なしで!? 腸の力だけで!? ただでさえ不得意な方(マイルド表現)なのに!?

 つれぇ、なんで私こんな日記書いてるんだろう。

 管がついてることより、頭痛がひどいことより、髄液漏れてることより、うんこ出ない話書く方がつらいよ。何言ってんだ本当に。

 己の中にまだ眠っていた内なる乙女が羞恥で死ぬのを感じながら、腹を括りました。

 ここまで来たら、みんな見守ってね。


 どうなる、私の腸管。

 どうなる、私の髄液。


次回、お医者様のウン圧がすげぇ。


(続)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る