39.入院します、初心者です!

 馬鹿馬鹿しくなるくらい晴れ渡る空、快晴の四月。

 今日の最高気温は十九度。絶好のお花見日和に、私はタクシーで病院へとやって来ました。

 入院手続きは午前十一時。九時過ぎに車が到着し、コロコロとカートを転がしながら院内のカフェへと向かいます。

 どうせ朝は道路も混むのだからと、さっさと移動して朝ご飯を院内のカフェで食べました。

 卵とハムのトーストサンドとヨーグルトとアイスティー。

 口にしたパンは焼いて放置されていたのか、ほんのりと冷めていて猫舌の私に優しかったです。

 これが最後の晩餐かぁ。いや別に今日はご飯食べられるけども。

 口の周りについたパンの粉を払っていると、友人からLINEでスタバのチケットが送られて来ました。

 サンキュートッモ。絶対のむわ。


 無事入院の手続きを終え、レンタルパジャマの初日分を受け取りいざ病室へ。

 すんげーいい部屋。

 四人部屋なのですが、家具で仕切られている分ほとんど個室みたい。

 窓際なので景色も良くて、明るいお部屋です。

 机と椅子もあるし。快適〜。

 入れ替わり立ち替わり様々な科のお医者さんや看護師さんが来て、それはそれはたくさんの確認をしてくれました。

 みんな優しそう。感じ良さそう。流れるように血を抜かれて下剤を飲んだ。

 グッドラック、六時間後の俺に乞うご期待。


 バタバタと説明を受けて、書類を書いたり出したりして、シャワーの予約をして着替えました。

 とりあえずレンタルしたパジャマを着てみました。

 プチプチですぐ着脱できるタイプ。病院って感じします。

 寝る時は、持ってきたパジャマで寝ます。

 ここをホームにすることが、初日の課題。


 同室の先輩がひとりいらっしゃって、挨拶させていただきました。

 詳細は伏せますが、同じく開腹の先輩。

 めちゃくちゃ感じのいい先輩。

 迷惑をかけないようにしたい。先輩、養生してくれ。

 今日の私は健康だからね。下剤飲んでるだけで。


 十二時。早速ランチをいただきました。

おかゆ、鯛味噌、煮魚、チキンスープ、レモンティー、お茶。

 注腸食。

 普通においしかった。

 明日は朝から水も飲んじゃだめなので、どきどき。


 十五時。倒れた。草。

 血圧が下がって、迷走神経反射が起こったらしい。

 視界真っ白になってやばかった。

 そこらじゅうの壁にある看護師さん呼出ボタンを初日に押した。本当にすみません。

 どこもぶつけてないからえらいって言われました。えへへ。

 切る前から大騒ぎで、ほんますみません。

 申し訳なさを感じてたら友人が「お世話されようぜ。一泊一万二千円の中に含まれてる」って言ってくれて謎に納得。

 そっかぁ。じゃあお世話になろぉ。


 十四時。冷や汗かいて、めちゃくちゃ寒い。

 このまま少し眠りたいけど、今寝たら夜寝られなさそう。

 お向かいの先輩が、定期的に麻酔を入れる機械の音がする。

 明日から私も続きます。先輩!


 そうか。そういや昼採血したんだった。そら貧血も起きますて。納得。


 十七時。シャワー。

 明日はシャワれないから、存分に浴び散らかした。

 近年建て直されたおかげか、シャワールームも綺麗。

 予約制。脱衣所もしっかりあって個室で、快適。

 インターネットで見た知識を生かして、下敷きがわりに使ってるクリップボードにルーズリーフでメモを残しておいた。

『シャワー行ってます。 初心者』

 少し席を外してるのかわかるようにしとくといいって聞いて。

 早速役に立ちました。

 髪乾かしてたら、パチ先が来た。

 パチ先の名誉のために一応言っておきますが、脱衣所ではないです。洗濯機とかあるスペースで、髪乾かしてました。

 だから普通に声かけてくれたんだと思う。パチ先はちゃんと常識的な、ちゃんとした人なんだ。

 こんなわけわからんあんぽんたんの日記に、頻繁に登場していい人物じゃないんだ。そこんとこよろしくな!!

「メモ見たので。何か変わりはありませんか?」

 貧血で倒れました。えへへ。

「採血後だったからですかね。大丈夫そうですね。明日よろしくお願いします」

 初めて立ったパチ先と対峙したけど、あんなに小柄な人だったんだなぁ。

 相変わらず小難しそうな顔してるけど、見慣れた顔が来てくれると安心します。

 ありがとうパチ先。明日はよろです。

 あと、ユニクロのゆるブラしててよかった。

 たとえ股の間を先に見られている間柄でも、正面向き合って乳首晒すのはなんか照れる。

 ご飯は何かなぁ。汁かなぁ。

 混雑緩和のために十七時以降がコンビニ解禁らしいので、ご飯食べたらちょっと散歩してきます。

 あと今夜の水ももう一本買っておこう。


 十八時。ご飯。

 おかゆ、豆腐煮、すまし汁、塩、リンゴジュース、お茶。

 まだこんなに固形食べてもいいんだってくらい、ちゃんと出てきた。

 普段の私の晩御飯より豪華。

 おいしくいただく。ほんまだしがうますぎる。これだけでもいいよ。


 二十時。最後の検診。

 明日の確認。注意事項。遅くまでありがとうございます。

 せっかくなのでふらふら院内のコンビニへ。

 でかいコンビニがふたつもあるから、見てるだけで楽しい。

 この時間は先生方が慌ただしくお買い物されてる。

 さすが病院、今日入院ですって言われてもひと通りのものが揃いそうなラインナップ。

 推しのデザインのブレスケア売ってたから買った。

 もう絶食だからたべられないけど。

 元気になったら食べるね。


 二十一時。一応消灯らしい。廊下の電気消えてた。

 看護師さんのチェックのあと、共有部分消灯。

 同室の先輩はまだまだ眠れなさそう。

 お辛いよね。私も明日こうなるのかぁと、ようやく実感。


 背中に管入れっぱなしになるのも、麻酔自分で追加するのも、挿管されるのも、尿カテ入れられるのも全部こわいなー痛いのやだなーです。


 まあでもここまで来たら逃げられないしな。

 ワンチャン行けるけど。いやさすがに。行かないよ。行かないってば。信じて。

 まだ夜九時半。街はまだこれからだと思うけど、ここは嘘みたいに静か。

 明日は朝イチに、腹を捌かれます。

 さあ、何が終わって何が始まるのか。乞うご期待。

 明日手術です! 初心者です!


(続)

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