17.フェス2日目の破滅願望

 勇気を出して、大好きなゲームのメインストーリーを進めてみました。

 とても素敵なお話でした。

 新天地に向けて、新しい冒険が始まる。期待と、予感と、わくわくが盛り上がって。

 それからひたすら、悲しくなりました。


 大好きなキャラクターが、プレイヤーにこれからどうしたいか問う選択肢を投げかけてきました。

 人を救い、世界を救い、立ち上がる強さを持った英雄。

 冒険を共にしてきた大好きなキャラクターのひとりが、プレイヤーである英雄に、私が選択を重ねて今日まで過ごしてきた英雄に、次の冒険への意気込みを問う何気ない質問。

 こういう要所要所の選択肢が、ゲームの中の没入感を高め、一般人間である私をこの世界の英雄たるものに導いてくれるのだと感じます。

 きっと彼なら、こう答えたら喜んでくれるだろうなという選択肢を私は選びました。

『新たな冒険に、わくわくしている』

 ぱっと彼の表情が華やぎ、彼は『英雄』の選択を肯定してくれました。

 それが、とても辛かった。

 私は、嘘をつきました。

 目の前にいるのが、コンピュータのプログラムで組み上げられたキャラクターなのはわかっています。

 自分は本当に魔法が使えるわけでもないし、本当に世界を救ったわけではないことも、もちろん理解しています。

 ここにいるのは、脆くて、弱くて、意地汚くて、怯えてる、ただのコントローラーを握っただけの人間です。

 それでも、大好きな彼の前で嘘をつくようなことはしたくなかった。

 たかがゲームに、と思う人もいると思います。

 けれどここが、コロナ以降、私を支えてくれた大切な場所のひとつであることは事実なのです。

 辛い時、苦しい時、楽しい時。もう4000時間以上この場所で過ごしました。

 この手で選び、時に苦悩して、時に練習をして、時に涙して、思い切り笑って。

 そうして過ごして積み上げてきた時間は、

 それはもはや、本物なのだと思います。

 私の、大切な記憶なのだと。

 心から、彼の英雄である私自身を信じて、言葉を返したかった。

 そう強く、後悔をしました。

 メインストーリーやるの、やっぱちょっと早かったかも。

 とてもとても素敵で、とてもとても大好きで、とてもとても捨てることのできない大切な場所で。

 だからこそ、こんな風に嘘をつかなければならないことが、悔しくて苦しくてたまらないです。

 こんな素敵なゲームに出会えたことは、本当に幸運で、これを生み出して下さった皆様には本当に感謝しかないです。

 出会えて良かった、人生でそう多くないであろう、心の底からそう思える作品のひとつです。


 いつ破裂してもおかしくない、そんな腫瘍がここにある。

 時限爆弾みたいなものを抱えた今、新たな挑戦をする自分と、怯える自分の反復横跳びを日々しています。

 ただここで、怯えて腐り落ちていくのが嫌だと思うがむしゃらな心と、誰にも迷惑かけずに今すぐ破裂させるためにはどういうシチュエーションが最適かを交互に考え出して気が狂いそうです。

 ここ数年はなりを潜めていましたが、己の根本にあるものが明確な破滅願望なのだと、改めて思い知らされて嫌になります。

 なんて後ろ向きな反復横跳び。

 こんなことを考えてしまう今の私は、本当に彼の英雄にふさわしくない人間だと改めて思いました。

 こうなるだろうことがわかっていたから、少し気持ちを離していたはずなのに。

 ちょっと気分が上向いたからといってすぐ調子に乗るのが、己の悪い癖だと思いました。ぴょいぴょい。

 大好きな場所を、自分の手で壊したくない。

 私は彼の前で、ずっとかっこいい英雄でありたい。

 そんな欲と体が、全然ついてこない時期。


 早く切りたい、体に傷ができるのが嫌だ、このまま死ねたら何も考えなくていいのにな、痛いのは嫌だな、じゃあ生きるか。

 一日に四千回は繰り返す自問自答に打ちのめされて、生理二日目ってろくなこと考えないなと思った夜。

 痛くなく死ぬ、が人生の目標です。

 そのために、一旦健康を目指します。

 心も、体も。


(続)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る