9.思い当たる節

「ねじれてお腹痛くなることもあるんで、そうしたら連絡下さい」

 A病院の診察から、ニ週間。

 今のところそういった症状は出ていないのですが、実は思い当たる出来事ががひとつだけあることに気付いた晴れた日の午後。

 皆様いかがお過ごしでしょうか、私は相変わらず腫瘍を育てています。


 2023年。年末も年末、ド年末。

 人生で初めて、救急車に乗車しました。

 胃の下辺りが、激痛に襲われたためです。

 最初は救急相談センターに電話して救急車の判断を仰ごうとしたのですが、呼吸すらできないくらいの激痛が始まり問答無用で119を呼ぶことになりました。

 近づくサイレン、やってくるタンカー、エレベーターの足元ってそうやって開くんだへぇと妙な発見に感動しながら、私の体がマンションの一階へ運ばれていきます。

 救急隊員の皆さんの問いかけが、本当に優しくて泣きそうになりました。

 弱ってる時の優しい言葉って本当に沁みる。いや、ただの現状確認なのはわかってるんだけど。本当にすみません。お世話になります。なりまくります。この年の瀬に。

 意識ははっきりしており、受け答えもできている。

 なんだこれ。もしかして私、早とちりだったか。痛みもなんだか引いてる。さっきまで息が吸えないほどだった痛みは、一体なんだったんだ。幻覚? 痛みだからここは幻痛?

 受け入れ先の病院を探すために、隊員の皆様が懸命に連携を取ろうとして下さっています。

 感謝しかない。本当にすみません、こんな年末に。

 そうこうしている間に、念のため取った心音から一瞬異音が検出されてしまいました。

 い、いいいい異音ってなにー!!

 心臓から異音って。何その恐ろしい単語。「今日小テストあるらしいよ」と「もう確定申告終わったよ」に次ぐ絶望ワードだと思う。

 ビビり散らかしながらも、病院との連携が取れサイレンを流しながら車は進みます。

 救急車の防音ってすごいなぁ。もちろんサイレンは聞こえるけど、案外うるさくない。

 周りの状況を把握できる程度に痛みは引いており、何かあってもどうとでもしてくれそうなプロに囲まれてようやく私は息を吸い込むことができました。

 あれだけ苦しかったはずなのに病院に着く頃にはすっかりなりを潜め、救急の先生の前に到着する頃にはもういつもの落ち着いた状態を取り戻していました。

 本当にお騒がせなだけだったのかも、ごめんなさい。

 謝罪する私に、救急隊の皆様は本当に優しくて「少しでも変だと思ったら遠慮なく呼んで下さい」と声をかけて下さいました。本当にお世話になりました。ありがとうございます。

 呼ぶラインかどうか、不安な人は7119にかけるといいと思います。


 救命救急にて、触診が行われました。

 けれど、痛みはまったくの皆無。押されたら多少痛いけど、そりゃ人間押されたら多少痛いもんだよね?くらいの痛みしかありません。

 結局何もわからないまま「また何かあったら来て下さい」という形でその日は帰路に着くことになりました。

 ほんとにお騒がせしただけで、申し訳ないないなぁという気持ちでいっぱいでした。


 ただ一点、気になることがありました。

 診て下さった救命の先生が、念の為と財布と一緒に持って来たMRIの検査結果写真を見て不思議そうな表情を浮かべていました。

「こちら、もう診ていただいたんですか?」

 髪をひとつに束ねた女性医師は、印刷された結果を怪訝そうな顔で見下ろしています。

「まだです。年明けに紹介状をいただきに行こうと思って」

 検査結果の書き方としては『念のため婦人科受診をお勧めします』と書かれていたので、落ち着いて病院に向き合える年明けにもろもろを想定していました。

 ところが、『念のため』から顔を上げた救命の先生は、ちっとも笑っていない目で私にはっきりとこう告げました。

「診てもらった方がいいと思います。年明け、行って下さいね」

 この真剣なトーンを聞いて初めて、もしかして私の想定する『念の為』よりもまずいことになっているのではないかと、そんな予感めいたものが脳裏に焼きつきました。

 あの時、診て下さった救命の先生の言葉が、年明けの早急な対応に繋がったのは間違いありません。

 その節は、本当にありがとうございました。ありました、腫瘍!!!!!!


 今思えば、あの時の痛み。

 あまりの激痛に呼吸さえままならず、床の上でのたうち回ったのに、あっさりと引いていったあの痛み。

 その正体こそ、パチ先が仰っていた「ねじれてお腹が痛くなる」の状態だったのかもしれない。

 痛みが引いたってことは、ねじれて戻ったという状態になっていたのではないかと。

 素人判断なので正解は今のところわからないのですが、次の診察の時聞けそうだったら先生に聞いてみたいと思った出来事でした。

 今、またひとつ人生の伏線がひとつに繋がりつつあって、まったくもってFワードです。

 体の丈夫さだけが自慢だったのに、健康って本当に一瞬であっさり崩れるんだなぁと、やさぐれた気持ちになりそうです。やさやさ。ぐれぐれ。

 こんなにぴったり点と点が繋がって、嫌な気持ちになる伏線ってあるんですね。

 勉強になります。


(続)

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