魔法図書室と生徒。

宇佐見 恒木

第一話 歯車はいつだって突然に。


 薄暗く、周りには古びた本が所狭しと本棚に収まっている教室。そして現在この部屋で唯一の明かりがついてあるランタンの近くに女子生徒が一人と木製の梟の人形が一体いることが視認できる。

 

 ファンタジー系のラノベなら表紙として120満点の美しさだが、ただの学校の教室としては怪しさ全開だ。


 ここはどこだ。そして俺は旧図書室に戻れるのか?


 ようやくの脳の処理がひと段落ついたれんはこの怪しさ全開の場所を探索しようと一歩踏み出そうとした瞬間だった。


「ようこそ利用者さん。北高校魔法図書室へ。どういった魔書をお借りしたいですか?」


 肩につくかつかないかの髪の長さをしたウルフカットの女子生徒が物語の狂言回しのように仰々しく、洗練された動き腕を広げ、軽く頭を下げ、セリフを述べた。さらに梟の目が緑色に光輝いたようにも見えた。


 そしてそのセリフを述べられた蓮はあっけにとられていた。彼女のポーズとセリフだけにではない。現在いる場所、現在の状況、彼女のセリフの意味、今起こっていること全てだ。


 俺はさっきまで北高校旧図書室にいた。そして今は薄暗い図書室に俺と同じ高校の制服を着た女子生徒一人、鳥の模型、古書がたくさん、町はずれにある古本屋のような匂いに少し煙のような独特な匂い。そして学校と同じ床……


 蓮は視覚、嗅覚、聴覚、触覚、と味覚以外の感覚機能を総動員して今いる場所を理解し納得しようとした。だが、それでも追いつかないし、まずが脳を支配し適切な処理を開始してくれない。


 なぜなら


 蓮が目玉をぎょろぎょろと動かしながらも体は全く動かずに棒立ちになった状態が10秒ほどたった頃、ようやく女子生徒(多分靴の色的に二年生だと思われる)が口を開いた

「あれ?もしかして知らないで来ちゃった感じ?」


 多分、コミックの世界なら彼女の後ろに三点リーダーが現れ、カラスが泣いているだろう。それくらい拍子抜けた表情をしていた。


 蓮はコクンと首を動かし肯定した。

「……っすぅ。」

  女子生徒は軽く息を吸うと頭を抱えながら足元に蹲ってしまった。

 

 ああ、知らないよ。旧図書室は狭い代わりに面白い本がたくさんあって、読書に向いているっての噂好きのあいつに聞いただけなんだから。それにさ……。


「そっか……。まじか……。でもなぁ……。まぁ別に宣言しちゃったしなぁ……。」


 蓮は現実逃避を始めようとして、女子生徒はブツブツとつぶやき始めた。


 二人とも自分のことで頭がいっぱいになっていると女子生徒の奥にあるカウンターから人影が見えないのに大人の男の声が聞こえた。


「おい、小陽こはる。それなら彼は新入委員となるのが決まり。案内してあげなさい。」


 女子生徒を小陽と呼んだのはおそらく貸出などの業務を行うカウンターに飾ってあっただった。


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