第11話 Dead end 異世界①

 ちょくちょく不幸な死に際と共に転移する『異世界』。多くの物語が描くような華麗なる成功事例は実は少なく、酷い人だとものの15分程で再び神様の元に帰って来てしまうのだ。


 今日はそんな不幸な異世界転生の話をしよう。

「この世界は君が居た世界より塩素が少ない世界なんだ。まあ気を付けてくれな」

 神様はそう言って送り出した。

 塩素が少ないなんてありがたい。塩素系洗剤で中毒起こす事が無いのだからむしろありがたいじゃないか。

 

 目の前には海が広がり、見たことの無い生き物が暮らしている。それを今日の晩餐にしようと海に潜ってその生き物を狩る。

 鑑定スキルはそれが食べられる事を教えており、そしてニンゲンに慣れてないその生き物は簡単に捕まる。

 やったぜ!今夜の夕飯Getだぜ!


 しかしそれがこの異世界の罠である事に気づくのに大した時間はかからなかった。

身体がぬるぬるして海に溶け出していく。

 塩素が少ない。それは海の食塩塩化ナトリウムNaClが塩素以外の物質と結び付く。

 相手は水酸化物だ。出来上がった物質は水酸化ナトリウム苛性ソーダNaOHだ。道理で海がしょっぱくなかった訳だと言いながらわずかの間に身体が溶けてなくなった。


「気を付けてって言ったのに」

 現地の神様は案外褪めた顔して睨むのである。

 


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