第2話

 深く深呼吸し、落ち着いてからひとまず一度マップを開く。どうやらこの最初の町はヘシタタウンという名前らしい。

 このゲームは世界全体が下へ下へと続くダンジョンになっているという設定だ。今いるのが地上で、下に降りていけば行くほど現れるモンスターのレベルも上がってくる。

 厳密にはこの下の階が地下1階となっているが、ややこしくなってしまうためここが1層、下の階が2層で101層まであるダンジョンと表記することが多い。

 地上1階、地下100階というのがこのゲームの構成だ。

 ややこしいから今後は101層までの層表記で統一する。


 先行リリースで公開されているのは10層まで。1層は本当に初心者向けのエリアになっていて、レベル1以外のモンスターが現れない。そのため、戦闘に不向きな生産職の人たち用の町が多く設置されている。


 また、町ごとにテレポート用の機械が設置されていて、同じ階層の町は一度でも行ったことがあれば自由にテレポートすることができる。階層間の移動では、必ず階層の一番初めにたどり着く町にテレポートすることになっている。


 ちなみに、先行リリースは抽選で当たった1000人のみに成されている。私は凄いことにこれに当選していたのだ。




 このゲーム内のお金の単位はGで、最初の所持金は1000G。お金はモンスターを倒すかレベルアップ、依頼など様々なことで手に入れることができ、素材や武器の強化、アイテムの購入などで使用出来る。

 私の場合はログアウトという機能が存在しないので、休むために宿代や家を買うお金が必要になる。お金はコツコツ貯めていこう。


 最初の町はゲームの入り口で、顔と言っても過言ではない。そのため、このヘシタタウンは大分凝った作りになっている。そして大きさも相当広い。

 初心者の多くを受け入れられるよう、ひたすらに広くしているのだろう。

 今いるのは町の中心部近くの路地。そこからフィールドに出るまでは相当歩かねばならない。

 ただ、素早さにステータスが振られている私は、均等にステータスを振っている人に比べれば歩行速度が速い。

 とりあえずこの町の外まで向かおう。






 ヘシタタウンの町並みは赤と白が美しいヨーロッパ風のものだ。

 出口は東西南北に1つずつ、計4つ存在している。ヘシタタウンの北、西側はそのまま森へ、南、東側は草原ということになっている。今回は森に行きたいので北側を目指して歩いている。

 私の職業上、隠れながら戦ったりするプレイスタイルが強いはずだ。


 戦闘系の職業の中にも得意とするプレイスタイルがある。これは職業によってあらかじめ持っているスキルや、手に入れることができるスキル、基礎ステータスが違うなど様々な要因があるのだ。

 まず、私のような女忍者ははじめから俊敏性、つまり先ほどから素早さと言っているステータスが高い。この俊敏性は、歩く速さや攻撃の速度、動体視力などに影響を与えるステータスだ。

 加えて、女忍者は他の職業にはないステータス、跳躍力というものが追加されている。これは俊敏性に比例して上がっていくので、特別跳躍力を鍛える必要はない。


 他にも女忍者の場合は様々な機能が備わっていて、例えば他の職業に比べて夜目が利いたりする。これはレベルによってその強さが変わっていく。今はレベル1なのでほとんど他の職業と変わらない。

 また、女忍者特有のスキルとしては隠密系のスキルがいろいろあったりする。あと手裏剣やクナイを投げると自動で戻ってくるようになるスキルとか、結構考え抜かれて作られているのだ。

 純粋な攻撃力の基礎ステータスを比較すれば片手剣使い、大剣使い、侍などからは劣る。代わりに先ほども言った俊敏性のステータスが高い。

 これらを上手く活用して自分自身のオリジナルなプレイスタイルを組み立てていくというのがこのゲームの楽しいところなのだろう。







 そうこうしている間に北側の出口に到着した。

 まだ先行リリースということもあって人の数はそれほど多くないが、正式リリースになったらこの町はとんでもないことになるのだろう。レベル上げなんて言っていられないかもしれない。

 やはりこの2週間で10層まで到達しておきたい。

 私にはログアウトという概念が存在しないので、ひたすらにレベル上げに打ち込むことができる。他の人に比べてログインしていられる時間が物理的に長いのだから、思う存分楽しませて貰う。




 森の中は鳥や動物の声などの環境音が数多く聞こえてくる。樹海のように薄暗いわけではなく、適度に光が差し込む爽やかな森だ。

 私が今歩いている街道は次の町へとつながる道でもあるので、しっかりと整備されている。ただこれではモンスターとの遭遇量が少ない。

 そのため、道を逸れてしっかりと森の中へ入っていくことにした。




 森の奥の方へと歩いて行く。視界の左上の方には常にマップが表示されている。マップは1層の場合は地上でありダンジョンではないという設定なのですべて表示されているが、2層以降は行った場所しか表示されない。

 なお、町に着けばその町全体のマップが読み込まれるようになっている。


 女忍者は探知系のスキルを入手出来る職業でもある。探知系のスキルを手に入れると、敵の居場所がマップ上に赤く表示されたりもするらしい。

 まだ探知系スキルは持っていないので、モンスターが現れるのを今か今かと待ちながらどんどんと歩いて行く。






「早速来たね」


 思ったより接敵は早かった。街道から逸れて数分もすれば早速最初のモンスターと遭遇。現れたのは綿毛のようなふよふよとしたモンスターであった。

 真っ白なふわふわの丸の下に緑色の枝のようなものが着いているモンスター。

 そのモンスターの上には『フワロン Lv.1』と書かれており、下に緑色のラインが書かれていた。

 緑色のラインはHPなのだろう。


「吹奏楽部で鍛えた私の手さばきを見せてやろうではないか」


 アイテムボックスからクナイを取り出し、さっとフワロンに向けて投げつける。

 すると、投げたクナイは見事フワロンに直撃。フワロンはふぁふぁぁ……とかいうよくわからない効果音を出しながら消えていった。


「うん、あっさりだね」


 想像以上にあっさりと終わってしまった初戦闘。

 きらりんというSEがなると、視界の下の方に『フワロンの綿毛を入手しました。』『23Gを入手しました。』と書かれたものが表示された。

 これがドロップ品だろう。


 1層目はレベル1しか現れないので、おそらくこれからもこんな感じの地味な戦闘シーンが続く。


 と言うことで、カット!









 あれから丸2日1層にて狩りを行った。

 この2日の狩りでわかったことがあるのでご紹介。まず、このゲームでは寝なくても良さそう。ただ、脳が疲れてくるような感覚があるので、そういったときにはログアウトしてちゃんと眠るか、ゲーム内で仮眠を取る必要がありそう。

 私はもう疲れたとか言う次元を超えたので、気にせず狩りをしていた。町に戻ったら宿でも取って寝ようと思う。

 あとやはりログアウトはできない。それはもうわかっていたことなのでしょうがない。

 運営に言われたように、外部からいろいろしないとここからは出られないみたいだ。私の外がどうなっているのか正直わからない。今の私の本体のことを考えると正直不安が募る。

 まあその不安を力に変えて戦っていたので、さらに頑張っていこうと思う。


 丸2日1層でレベル1相手に狩りまくったわけだけど、レベルは現在7まで上がった。はじめの4くらいまではサクサク上がっていったのだが、やはり上がって行くにつれて必要な経験値の量が変わるみたいだ。大体前のレベルの1,5倍から2倍と言ったほどだろうか。

 スキルは『飛び道具回収』というものを獲得した。これのお陰で当初買わないとと思っていた短剣を買う必要がなくなり、今はクナイ1つで続けている。

 飛び道具回収とは、投げて使った武器が勝手に戻ってくるという便利スキルだ。

 お陰で長距離からチマチマと狩りができた。


 お金は82000G位まで貯まった。相当貯まったと思う。レベルが上がるときに結構もらえたということもあるが、倒したモンスターの数がとにかく多かったと思う。

 元々コツコツ作業をするのが好きなので、この2日間無心でひたすらに作業をしていた。レベル1ならやられる心配がないので、自然の音を聞きながら流し作業だった。


 正直結構くたくただし、実は1日目の後半でクナイの耐久値がなくなり、壊れてしまったのだ。それからずっと拾った石で戦っていた。

 新しい武器も欲しいし、ひとまず一度町へ戻ることにする。  

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