第7話 違和感

 次の日、カイルは眠い目をこすりながら、再び『鳥の巣』にやってきた。

 昨日は誰かさんとゲームをやり過ぎた。

 その誰かさんが今日も元気いっぱいでやってきた。

 ずんずんこちらに歩いてきた。

 リン・マイヤーだ。 朝っぱらからにこにこ顏だよ。


「カイルー! 今日も張り切って行こー」

「おまえ、元気だなー。眠くないのかよ」

「全然。朝はすっきり、空も真っ青いい天気ってね」

「羨ましいやつだ。ふぁーあ」


 この日はソードによるアバター対決訓練が行われた。

 弟カイルと兄アレックスの兄弟対決では、これまた珍しくカイルが快勝した。


「アレックス、手え抜くなよ。つまんねーぞ」

「カイル、そんなことないよ。お前が強くなっただけだ」

「そうか? いつもの兄貴と違ってやけに冷静だな、調子狂うぜ」

 

 いつもの負けず嫌いの兄貴アレックスなら、対抗心剝き出しにしてくるのに、やけにおとなしい。


「ほら、あそこにも調子が良いのがいるぞ」

 アレックスが示した先には年上を次々と打ち負かすリンのアバターが躍動している。

 やばい。あいつにだけは負けたくないが、何から何まで追いつかれそうだ。

 

 コントローラでアバターを操作中のリンにカイルが叫んだ。


「リン、それくらいにしとけよ。みんなガキのお前にやられると凹んじまうぞ」

「ガキじゃないもん。それに見てよみんな優しいよ」


 見ると確かに、まわりの訓練生はリンに優しく微笑みを向けている。

(なんか不気味だ、こいつらいつもこんな反応してたっけ?)

 エース級のエミー、サーシャ、アナ、ミア達もいつもと違い素気無い。


 カイトは訓練が終ったあと、リンに訊いてみた。

「リン、何かみんなおかしくないか? やけにおとなしいというか、感情の起伏が無いって言うか……」


 リンはそういう感じは特に持っていない様だ。

「別にー。普通じゃないの? 私はちょっと腕が上がったけどね。えへん!」


「そうか、俺の気のせいかな。まあいいやリン、今日も一緒に帰るか? ただし今日はゲームはやんないからな」

「帰る帰る。一緒に帰る! ゲームもやろうよ。昨日の続き」

「今日はやんない。眠いんだから」


 帰り道、リンと一緒に帰るのは楽しい。

 前はアレックスと帰っていたけど、やっぱり女の子の方がいいや。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る