風伯の魔女

みんと

序幕

プロローグ 光

「ずっと一緒にいようね」


 無数に煌めく星空を見上げ、無邪気な笑顔で願い合う。

握りしめた小さな手の感触も、あの人の笑顔も、まるで昨日のことのように覚えている。


 あれは今から、どれくらい前のことだろう。


 この世界に数多存在する精霊エネルギーたちと言葉を交わし、身の内に宿る魔力エレメントと掛け合わせて様々な事象を起こす、私たち魔法族。

その中でも直接精霊の加護を受けた魔法名家と呼ばれる七つの家は、長い間魔法族の筆頭としてこの東欧の地を守る存在だった。


 私は風、彼は氷、それぞれに精霊の加護を受け、共に過ごした幼少期。

今でも決して忘れられない…思い出の日々。

あのころの私は、彼と見上げた星空のように、煌めく未来は必ず来るものだと信じていた。


 ――…だけど。


 あの日、バチっと大きな音を立てて光が爆ぜた。

人々はそれを事故だと言う。

でも、どれだけ周りが慰めたところで、この傷が癒えるわけもない。

暗く、鬱々と溜まるような傷は、むしろ時を経るごとに深くなり、今でも心を蝕んでいく。

もしもあのとき、そんなifばかりが、いつでも頭を過った。

覆せないと、分かっているのに。



「……」

 屋敷の屋上から星を眺める少女は、遠い過去に想いを馳せていた。

あのころはもっと若く、彼と共に想い描いた未来が、どこまでも広がっているはずだった。

だが、今彼女の隣にいるのは、氷色の瞳をしたこの黒猫だけ。

手すりに登り、器用に少女に寄り添う黒猫は、星を見上げる彼女を見つめ、ふと口を開く。


「ねぇ、リーシェル。ずっとにゃにを考えているにゃ?」


 ――…これは四百路を生きる魔女の、運命と心を巡る物語。

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