ようやく魔法少女を卒業できたのに、マスコット役とかウソでしょうっ!?

京高

魔法少女からマスコットへ!?

「わ、わたしと契約して魔法少女になってよ」

「はあ!?」


 私の言葉に目の前の女の子は不審げに、いや、心の底から胡散臭そうな表情を浮かべていた。

 それも仕方のない話よね。何せ今の私ときたら三十センチほどのウサギの縫いぐるみというか、(・×・)←こんな顔の某有名キャラクターのような姿をしていたのだから。

 まあ、さすがに(・×・)←こんな顔はしていなかったけれど。


 なお、本当の私はしばらく前に十六歳になったばかりでピッチピチなお肌の現役JKなのでお間違えのなきようお願いするわ。

 更に言うと好き好んで縫いぐるみのウサギ状態な格好をしている訳ではないということも付け加えておきたいところね。


 どうしてⅮカップ現役JKの私がウサギの縫いぐるみ姿で怪しげな勧誘を行っているのか?

 事の原因となったのは半年前、私が十六歳の誕生日を迎えた時のことだった。



〇□△◇〇□△◇〇□△◇〇□△◇〇□△◇〇□△◇〇□△◇〇□△◇〇□△◇



「ついに……、ついにこのとんでもない生活とも今日でお別れできるのね!」

「あー、おつとめご苦労だったでやんす」

「微妙に言葉のチョイスがおかしいような気もするけど、今日の私は機嫌がいいから許してあげるわ」


 この日、私は約三年間続いた魔法少女のお役目からようやく解き放たれようとしていたわ。

 実は何を隠そうこの私は、人知れず魔法少女として異世界からやって来る怪物どもを退治して回るという過酷な生活を強いられていたのよ。


 そしてその原因となったのが目の前のこいつ、ギョロリとした目に巨大なくちばし、馬面にカバのような体という謎生物だった。

 体長が二十センチほどと小さかくなければ、間違いなくミュータントとして駆除されていただろう不気味なやつよ。


 そして外見は内面に通じるのか、件の怪物どもと同じ世界からやってきたというこいつは、私のように素養のある女の子を言葉巧みに騙しては、怪物たちと戦わせるという外道極まりないことをやっていたのだった。


「何が辛かったかって言えば、この三年間ほとんど身体の成長がなかったことよね」

「まあ、これから成長するかどうかは分からんでやんすけどねー」

「育つわよ!ママの遺伝子がこのくらいで仕事を終えるはずがないもの!」

「確かにママさんのあのエロボディはヤバいでやんす」

「人の母親をスケベな目で見ないで、と言いたいところだけど娘の私からも歩く猥褻物陳列罪わいせつぶつちんれつざいにしか見えないんだから仕方がないわよね。あれでアラフォーとか年を逆にサバ読んでるとしか思えないわ」


 うちのママの体形は出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる、いわゆるダイナバイトボディとかボンキュッボンとかいうタイプだ。しかもアンチエイジングの体現者のように――ただし何もしていない――ぷるっぷるでもっちもちのツルスベお肌をしている。

 その上街を歩けばすれ違う人がことごとく振り返ったり見惚れたりしてしまう美貌の持ち主で……。


「ねえ、うちのママも本当はあんたたちと同じ世界出身とかなんじゃないの?」

「疑う気持ちはよく分かるでやんすが、ママさんはれっきとしたこっちの世界の人でやんす。何度も調べ直したから間違いないでやんすよ」


 ふざけた口調だし、複数の動物の不細工なところだけを抽出して掛け合わせて融合させたようなこれまたふざけた外見だけど、腐ってもあちらの世界では高位精霊という偉い存在らしく仕事の腕だけは確かなのよね。

 そんなこいつが断言する以上、ママは生まれも育ちもこちらの世界で間違いないのでしょう。


 おっと、身近な驚異的存在についてはさておき、私の成長が止まっていたことには説明が必要かしら。

 不気味マスコットいわく、異世界からの侵略者かいぶつどもは、様々な邪悪な概念が実体化したような存在なのだそうだ。そのためか対抗する魔法少女は清らかな存在であることが求められるのだとか。


 具体的に言うと、見たものが劣情をもよおさHなきもちにならないように、外見の成長が抑制されてしまったという訳。

 ちなみに私の場合、あの時点での胸のサイズはギリギリでBだったわ。


 もっとも、それ以前に体に張り付いてラインが丸わかりになってしまうやたらと伸縮性に優れた素材だとか、肩がむき出しのノースリーブだとか股下十センチほどしかないきわどいスカートだとか、どこからどう見てもセクシー寄りな衣装を何とかするべきだと思うのだけれどね。

 フリルやレースをふんだんに使えば誤魔化せると思ったら大間違いなのよ。


 余談だけど、ロリコンという業の深い種族がいたことは完全に想定外だったそうよ。

 魔法があって妖精や精霊といったおかしな連中が存在するファンタジー異世界の住人たちですら想像もできなかったとか、別の意味でこの世界やば過ぎない?


 話を戻しましょうか。ともかく魔法少女にはこのような厳しい制約があるため、活動できる期間にも制限が設けられていたの。

 その期限となるのが十六歳の誕生日であり、この日を迎えるとどんなに泣こうがわめこうが強制的に魔法少女としての力をはく奪されてしまうのよ。

 まあ、私の場合は前述の通り嬉々としてお返ししますけれどね。


「ところで、私の後継者になる子は見つかっているの?」


 つい先日、こちらの世界にやって来ていた怪物たちとその親玉をぶちのめして光に還元したばかりなのだが、奴らは侵略を諦めた訳ではないらしい。

 やんす口調の胡散臭いマスコットによれば、今も再度の侵攻に向けて準備を進めているはずなのだとか。

 そのため、こちらも一刻も早く後任の魔法少女になれる子を見つけ出さなくてはいけない状況だった。


 余談だけれど幸か不幸か真の親玉、つまりラスボスは高みの見物を決め込んでいるのかあちらの世界に引きこもって出張ってくる気配はないそうだ。


「何人か資質がありそうな子はピックアップ済みでやんす。とはいってもまだ確定には至っていないでやんすがね」


 言いながら差し出された書類を受け取ってみれば、なんと次期魔法少女候補のリストじゃないの!?

 しかもスリーサイズのような乙女の禁断情報まで記載されているし。実はこいつこそがいの一番で滅ぼさなくちゃいけない危険な存在なのではないかしら?


「ちょっと!こんな関係者以外閲覧禁止な超重要マル秘書類を持ち出してこないでよ!」

「現魔法少女で思いっきり関係者が何を言ってやがるでやんす」

「それだってあんたが強引に先延ばししているだけでしょ。もう私の誕生日はきているんだから」


 本来のレギュレーションからすればありえない、ロスタイムどころか延長戦を強制的にやらされているようなものだ。


「そうなんでやんすよ。もうお前の誕生日はきてしまっているでやんす」


 ふいに不気味マスコットがニチャアと嫌らしい笑みを浮かべた。


「これは重大な違反でやんすよお!」


 直感的に、私ははめられたのだと悟った。

 元はといえば期限までに後任を選定しきれていないこいつの責任であるはずなのだが、これだけ自信満々な態度からすると、そうした正論で歯向かったところで対処できるだけの何かを用意してあると考えられる。

 先にも述べたが、こいつは仕事の腕だけ・・は確かなのだ。


「その重大な違反までさせて、何をするつもりなの?」


 腹立たしいことこの上ないが、怒りに身を任せて問い詰めようとしたところではぐらかされたり煙に巻かれるのがオチなのよね。いや、それならまだマシな方で、ここぞとばかりに馬鹿にして煽ってくる可能性も高い。

 どんでん返しを狙うためにも、最悪一矢報いてやるためにも冷静でいなくちゃならない。


「やるのは俺じゃなくてお前でやんすよ。十六歳の誕生日を迎えてなお魔法少女の座にしがみつこうとした罰として、お前には魔法少女のマスコット役になってもらうでやんす!」

「はあ!?……そのマスコットであるあんたはどうするのよ?」

「そんなの決まってるでやんす。晴れてこのくそったれな役目から解き放たれて自由の身になるんでやんすよ!」


 腐れマスコットの言うことには、魔法少女たちのサポートをしながら怪物たちと戦う日々は、偉い精霊様にとっては大変苦痛な日々だったのだとか。


「なーにが「年頃の娘っ子は可愛いものが大好きなのでちやほやしてくれますよ」でやんすか!」


 いや、誰かは知らないけれど嘘は言っていないわよ。ただ、こいつの外見及び内面がその枠から大幅にはみ出してしまっているというだけで。


「魔法少女が憧れの対象だなんて嘘っぱちだったでやんす!」


 いやいや、それも本当のことよ。ただ、スカウト対象となるくらいの年齢になるといつまでも夢見がちではいられなくなってしまうものなのよ。

 女の子の成長は心身共に男子よりも早いことが多いから、いわゆる中二病からは卒業してしまっていた、という訳ね。


「どいつもこいつもキモイだのグロイだの好き勝手言いやがって、一緒に風呂に入るどころか布団の中にすら入れてもらえなかったでやんす!」


 うん。それは当然よね。というか、そんなこと企んでたのか、このクズマスコットめ!

 今すぐ滅してやろうかしら。


「だからマスコットなんて辞めて、これからは自由に生きるでやんす!」

「あ、そう……。ところであんたに嘘を教えまくった人たちってどうなったの?」

「あっちの世界の奴らでこっちに逃げて来たって話は聞いていないでやんすから、怪物どもに支配された時にサクッとやられちまったと思うでやんす」


 なるほど、そういう展開なのね。


「最後に一つだけ教えて。私にはそのマスコットの力なんてないわよね?どうするの?」

「俺の力を譲り渡してやるから問題ないでやんす」

「あんたの力を?それって弱くなるパターンなんじゃ……」

「偉い大精霊の俺様からすれば、マスコットの力なんてほんのちょびっとでやんす!弱くなるなんてありえないでやんす!」


 フラグにしか思えない台詞だけど、忠告したところで聞く耳持たなさそうだし放置でいいかな。

 騙し討ちをしてきた奴にそこまで親身になってやる必要もないでしょう。


「了解。それじゃあ、さっさとやっちゃって」

「物分かりがいい奴は嫌いじゃないでやんす。さっそく始めるでやんす」


 ふんぐるなんちゃらとヤバそうな呪文が聞こえてきたが気のせいだろう。気のせいだと思いたい。

 しばらくすると拳大の光る球がふわりと現れ、触れようとした私の左手にすうっと吸い込まれていった。


「成功でやんす。これでお前がマスコットでやんす。クーリングオフは受け付けないでやんすよー!」


 仕返しを恐れたのか、「よーよーよー……」とドップラー効果を残しながら元マスコットこと異世界の偉い精霊様はあっという間に空の彼方へと飛び去って行ったのだった。


「やれやれ。逃げ足の速さだけは一級品だわね」


 まんまとはめられてやり返すこともできなかったけれど、私の胸の内には既にそれほどの怒りはなかった。

 いや、だってねえ。騙すつもりがあったのかは不明だけれど、あいつをこちらの世界へと追いやった人たちの末路を聞いてしまうとね……。


「歴史は繰り返すって言うし、グッバイ、腐れマスコット。せいぜい長生きできるように頑張りな」



〇□△◇〇□△◇〇□△◇〇□△◇〇□△◇〇□△◇〇□△◇〇□△◇〇□△◇



 と、まあこんなことがありまして、不本意ながらも私は二代目マスコットに就任することになったのでした。

 だけど、まあ、そう悪いことでもないのかもしれない。マスコットの力を得たことで私は魔法少女への変身能力を自由に着脱できるようになっていたのだから。

 そのおかげなのか、わずか半年で驚きの成長を遂げることになった。詳しくは冒頭参照ね。


 ついでに言えば、怪物どもとの戦いはこれからも続いていくようだし、どうしようもないピンチにはこれで介入することだってできる。

 基本的には次代の子たちに任せることになるだろうけれど、いざという時に何もできないという無力感にさいなまれているだけなんて御免だもの。


 ……ええ、ええ。もちろん強がりですとも!

 魔法少女なんて分不相応な身分から解放されて、ようやく一般人になれると思っていたところだったのに!

 あの元外道の腐れマスコットこと異世界の大精霊め、フラグ回収せずにのうのうと生きていたならその時は私が滅殺してやるんだから!


 と、できることとなら忘れ去るどころかなかったことにしてしまいたい過去を思い出したことで殺意が漏れ出てしまったのか、目の前に居る少女が少しばかり怯えた様子を見せていた。


 コホン!

 さて、この女の子は魔法少女になって異世界から訪れる怪物たちと戦ってくれるかしら?







◇ おまけの蛇足 ~その後の一人と一匹~ ◇


 ヒロインはその後、マスコットとして無事に契約を行い次代の魔法少女たちを世に送り出すことに成功する。

 更に彼女たちがピンチに陥った時に謎の助っ人『魔法少女エルシス』として、第一クール中盤から怪物との戦いに参戦することになるのだった。


 一方、元マスコットの大精霊(笑)だが、行く先々で変態珍獣扱いされ――主に本人のセクハラ言動が原因――ることに腹を立てて異世界へと帰ろうとするものの、マスコットの力を譲り渡したことによる大幅な弱体化によってかなわずこちらの世界を放浪することになる。

 やがて進出してきた怪物のリーダーに発見され、捕獲→洗脳→改造のコンボを食らって怪物化し、第二クール序盤の強敵――なんと二話続けての登場!――として魔法少女たちの前に立ちはだかることとなるのだった……。

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ようやく魔法少女を卒業できたのに、マスコット役とかウソでしょうっ!? 京高 @kyo-takashi

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