第30話 二つ目の町
次の日、日が昇り始めた頃に僕は目が覚めた。
睡眠時間、短くね? …そう思うじゃん? 実はこの世界、前世よりも1日が長い。大体4時間ぐらいは延びていて、この辺りでは昼と夜が約半分(ちょっぴり夜が長いかな?)になっている為、日が沈んで「しばらく経った」と前世の感覚で思った頃に眠っても、意外と8時間睡眠もばっちりだ…と思う。
そんな訳で、僕はぐっすりと眠ることが出来たのだ。
テントから這い出てみると空は雲一つ無い快晴で、朝特有の涼しさがあった。いや~、爽やかだね! 今日は迷子日和だ!
「まあ、僕にとっては毎日が迷子日和なわけなんだけど…」
いや、そんな暗くなる話は今は置いとこう。
という訳でテントを片付けて、いざ! 当てのない旅へ!
…で、3時間。僕にしてはかなり珍しい事態に陥った。
「マジか」
思わずそんな呟きが漏れる。というのも、とりあえず昨日と同じ棒倒し方式を利用して前進してみることにしたら、(べルキアではないけど)町に辿り着いてしまった。そう、筋金入りの方向音痴であるこの僕が!
少し高い丘に出たなと思ったら、その向こう側に壁で囲われた大きな町を見つけた。やったー戻れたーと喜んだのも束の間、それは知らない町であることが発覚して急速に喜びの熱が冷凍されていった。
「嬉しい…嬉しいんだけども、なんだかなぁ」
べルキアにしばらく滞在する気満々だった身としては、どうせ戻ってくるならべルキアが良かったな…なんて。それは我儘すぎるか。
そして何気に面倒なのが、新しい街のどこに何があるのかを把握すること。どこが迷いやすいポイントなのかを知っておかないと、僕は永遠に迷子になる可能性がある。だからなるべくそこを避けるように知らない土地では行動しているんだけど…僕の土地勘だと、それをやっても心配だなぁ。
まあ、気休め程度ではある。これでちょっとは迷子になる回数が減るよ~ってだけの。
「うん、せっかく見つけたんだし、入ってみるか」
小心者としては大決断、僕は名前も特徴も知らない町の中へ入っていくことにした。
「…君、冒険者カードは持っているのか?」
覚悟を決めて町の門に近付けば、そこに立っていた検問官らしき鎧姿の男性に声を掛けられた。
「へ? 冒険者カード?」
「なんだ、持っていないで旅をしていたのか? 一度町を出てもう一度中に戻りたいなら、冒険者カードだったり商業者カードだったりと言った、身分証が必要なんだ」
へぇ、そうなんだーと思ったのもつかの間、あれ? それじゃあ僕入れなくね? ということに気付く。だってべルキアに入ってすぐ、冒険者ギルドにも寄らずに暇潰しで森に入って遭難したんだし。
「…ち、ちなみに持っていない場合は?」
恐る恐る尋ねてみた。
「なんだ、持っていないのか。それなら、銀貨2枚で仮身分証を発行してもらうしかないな。ほら、仮身分証製作所はあっちだ。一旦そこに行ってまた出直してこい」
「は、はい。すみません…」
相当面倒くさかったのだろう。検問官さんはぎろりと僕を睨むようにすると仮身分証を作れる場所を顎で指し示し、追い払う仕草をした。そんなおざなりな対応じゃなくてもいいじゃん…。
「まあいいや。ここで諦めたらまたサバイバル生活になっちゃうし、何が何でも入れてもらう為に頑張ろう」
検問所から少し離れたところに小屋があり、僕はそこの窓口にいる…これまただらしなく座っている男性に声を掛けてみた。
「あの、すいません。仮身分証を作ってもらいたいのですが」
「………んぁ? あー…野良冒険者か」
えぇ…野良って…。僕に対してはあながち間違いでも無いから何も言い返せないけど、身分証を持っていない旅人をここでは野良冒険者って呼んでるの? なんか…悪意無い?
「えーっと、…ほらよ、この書類に名前、職業、年齢、…その他諸々。何でもいいから、ここに記載されてる通りに書け」
「は、はい…」
適当過ぎる。もしやこの町、全体がこんな感じなんじゃあるまいな? さっきの門番といい、この人といい…。
ちょっと不安になってきたけど、「中に入ってみなければ分からない」の精神でとりあえずまだ付き合ってみることにした。
「これがお前の仮身分証な。失くすんじゃねぇぞ。あと、これの期限は2カ月だから、延長したいかそんな手続きが面倒だと思うなら、ギルドにでも行って頼んでこい。それで大体はどうにかなるだろ」
「はい、ありがとうございました!」
言われた通りに、出された書類に色々と記入して提出したら、約1分で仮身分証を作ってくれた。面倒くさがっていたから作成もせず途中で「やっぱ無理だわ」とか言い出すのかと思って身構えていたけど、一応仕事はこなすようで安心した。
さて、これでちゃんと町に入れるね!
町に入ると、驚くほどに色とりどりな家々が立ち並んでいることが、まず目に付く。壁が赤かったり、屋根が真っ青だったり、扉がピンクだったり、窓枠が緑だったり…。何なんだここ…と思うぐらいには、とんでもなくカラフルである。
「でも、不思議だなぁ。こんなに色が沢山あるのに、目が痛くならない」
配色がぴったり過ぎるのだろうか。この町の家は面白いことに、全体をずっと見回しても目がチカチカしない。芸術的すぎるだろ…。
「…ま、今は忘れないうちに、冒険者ギルドにでも行こう。道草食ってたら絶対に記憶から出ていくから」
悠とカンナを見つけるまでの生活維持について考えると…そして二人と再会した後は絶対旅に出るだろうという予想からも、今のうちに冒険者カードは持っていた方が良い。
そう判断したので、僕は冒険者ギルドへと直行した。道中、パリコレにでも出るのかというほどど派手な格好をした集団とすれ違ったり、「ああっ! 今日も今日とて、素晴らしい一日だ!」と叫んだかと思うと、歌を歌い始める人がいたりしたけど、…無視だ無視!
…退屈しない町だなぁ? これは、最初に出会った門番達だけが場違いなやつだ。
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