第29話 増えたスキル

【気配遮断】…気配を消すことが出来る。


【咆哮】…このスキルを使用した時、一定距離内にいる相手の意識を自分に向けさせることが出来る。距離は使用者の声の大きさに比例する。


 スキル欄に増えていた不審者はこいつらだ。【気配遮断】と【咆哮】。多分、【気配遮断】については、迷宮内で途中からずっと足音を消して歩いていたから、取得したのだろうと予想する。【咆哮】に関しては…名前や説明的に、叫ぶことがトリガーになるのかな? おかしいな、僕そんなにたくさん叫んだ記憶は…。


 ふと、唐突にひとり言で叫んでハクを驚かせたことや、「このやろー!」とか色々叫んでいたような記憶が蘇る。

 うん、完全にこれだ。思い返してみれば、思いっきり叫んでますやん。そりゃあ【咆哮】なんてスキル貰うわな。

「でも【咆哮】って…絶対タンク系が使うスキルでしょ。僕剣士なんだけど…」

 僕に重戦士か何かになれと? この世界の神様はそうおっしゃっているのかな? はっはっは、ご冗談を…。


 ……マジでやめてくんない? 僕が怖いの苦手なの、知ってるんだよね?


「はあ…まあ、取得してしまったものは仕方ないし、パッシブスキルだからうっかり何かをやらかしそうだけど…どうにかなる、ということで」

 こういう時は、お得意の「どうにかなる」戦法でいくことにした。現実逃避とも言うけどね。






 …えっと、うん。

 確認したくないなぁ…【孤独を呼ぶ者】。ずっとぼっちで動いてきた弊害が、今、ここに現れている…。


【孤独を呼ぶ者】…一人でいる時、自身の能力が1%上昇する。


 だいぶ悲しくなる内容だった。悠とカンナと行動しないだけで、この世界からぼっち認定されるほど、僕は今まで孤独に過ごしてきたと言うことなのだろうか。あれ? もしかして今馬鹿にされてる? 「や~い、お前ボッチ!」って?

「うるさいやい! 僕だって、好きで孤独になってるんじゃないんだよ!」

 スキルにキレても仕方ないけど、自分一人だと被害妄想が膨らんでカチンときてしまう。この世界にすら孤独と認められたんだし、もう本当にぼっちで旅してやろうかな。


 …いやいや、駄目に決まってるじゃん。そうしたら悠とカンナがどうなるか分かんないし。それに多分、こういうところなんだよな、【孤独を呼ぶ者】この称号を取得した原因って。

 もう自らボッチになりに行ってるじゃん…。


「はぁ…。いくら取得したスキルにキレ散らかしても、自分の行動が原因なのは分かってるし、しょうがないからもう考えるのはやめよう」

 そして急に正気に戻って、そう言えば肉を焼いていたんだったと思い出す。


「あちゃー…ちょっと焦げてる」

 ステータス確認にそれほど時間はかからなかったはずだけど、火の調整が上手く出来ていなかったのか、火に面していたボアの肉がこんがり炭になりかけている。ちょっと強火になっちゃってたかな?

 でも食べられないほどじゃないので、苦くても我慢して食べてしまおう。せっかくいただく命なんだし、何よりもったいないしね。

「あっちゃ! …あ、焦げてたの表面だけだ。良かったぁ~」

 そして中も少しは黒くなってるかな、と覚悟して食べてみたら分かった。見た目はかなり炭化していたような気がしたけど、案外そうでもなかったということに。これは嬉しい誤算。いやそもそも焦げないように気を付けていたら、こんなどうでもいい覚悟なんて必要なかったはずなんだけどね…。

「…うわ苦っ!? …は~…流石に奇跡はそう簡単に起こらないってか…」

 肉を刺した串は僕が食べる用に5本用意したけど、一本目を平らげた後に二本目を齧るとそれは中身まで真っ黒で、完璧に炭と化していた。本当に火の調整ミスったなぁ。

「まー、確かにステータス確認中になんとなく、感じる熱の温度が上がったなって思った時があったけどさ。まさかここまで悲惨になるとは予想できないじゃん…」

 言い訳しつつ、解体用のナイフで炭になった部分を削ぎ落としていく。が、串二本目に残ったのはほぼ芯あたりの部分だけだった。残りの三本も同じ状態だったらどうしよう…。

 心配だけど、二口で二本目の肉を食べ切って次の串へ…。


 結論から言うと、残りの三本中一本は先程の二本目と同じような状態になっていた。ただ、不幸中の幸いと呼ぶべきか、残りは無事表面以外が残っていて、僕は嬉し泣きしながら食べた。おかげで、肉がちょっとだけ塩辛かったよ…。


 そんな失敗談が出来上がったところで、僕はテントを【収納】から取り出して設置する作業に取りかかった。

 そして気付いたんだけど、そういえば僕、ハクと会う前に倒したビッグボア2体をまだ食べ切ってないんだった。1体は解体したけど全部は流石に食べ切れなかったし、2体目なんてもう完全に倒したときのままだ。さっき狩ったビッグボアも食べ切れてないし…。

 やばい、【収納】した物のことをよく考えもせずに狩っちゃったせいで、さらにビッグボアのお肉が【収納】の中に増えてしまった。

 まあ、これはあれだ。ずっと歩き続けていたら多分またどこかの町に着くだろうから、そこの冒険者ギルドか商業ギルドに買い取ってもらおう。

 僕は意外と忘れん坊だから、放置してたら今みたいにさらに増えて面倒くさくなる。つまり【収納】したやつは永遠に使うことは無いだろうから、売って別の誰かに活用してもらう方が良い。

「……覚えてるかな」

 問題はそういうとこだけど。


「まあいいか。どうなるかはその時の僕次第ってことで」

 そういうことにしておいた。


 そしてテントを設置し終えると、僕はその中に潜り込んで寝ることにした。おやすみなさい。

 …そういや、せっかくべルキアに来たっていうのに結局宿には泊まらなかったし、また野営してるよなぁ。

 べルキアではほぼ何も買わなかったし、来た意味よ…。

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