第22話 迷宮での初戦闘!
仮装樹にしてやられて迷宮に入った僕は、現在とても単純な問題に直面していた。
「うう、暗くて何も見えない…」
僕は今、松明などの明かりを何一つ持っていない挙げ句、火魔法や光魔法といったものすら使えない。つまり、盲目の状態で迷宮の中に居るも同然なのだ。だんだんと暗闇に目が慣れてはいるが、それでもこの状態で魔物に襲われでもしたら、僕は一巻の終わりだろう。マジで死ぬかもしれない、これ…。
…キュイ!
…今、何か鳴かなかった? 気のせい? でも、かなり高い周波数の鳴き声が絶対にしたよね?
コウモリっぽい何かの声が、どこからかは分からないけど反響してきたので、サバイバル生活2日目の朝を思い出した。目が覚めたら天井にコウモリがびっしり張り付いている様子…あれは鳥肌もんよ。正直、今の方がサバイバル生活よりも怖いけど。
「…まさか、ここでも天井にびっしり張り付いているわけじゃないよね…」
盛大なフラグを立てたような気もするが、そこは気にしたら駄目だ。…あー、でも、よく見たらそこらじゅうを何かが蠢いているように見えてきた…。本当に薄暗くてほとんど見えないから、それがただの幻覚なのか本物なのか、区別が付けられない。めっちゃ怖い!
びくびくしながら、視覚以外の五感をフル稼働させて先へと進む。確か迷宮は10層ごとにボスがいて、ソイツを倒すと下へと進む魔法陣と外に出るための魔法陣が出現する、という話だ。だからとりあえずは 10層まで行ってボスを倒し、外に出る魔法陣に乗ることを目標に動こう。覚悟を決めたとは言ったけど、やっぱり何の準備もしてないのに、こんな所にいるわけにはいかない。ただの自殺行為だと思う。だから、仮装樹には悪いけど一旦脱出して戻らせてもらおう。
…の、前に…右側から何かが羽ばたく音がする。しかもこっちに近付いて来てるな。多分さっきの鳴き声の奴なんだろう。洞窟に棲んでいるコウモリ的な? よくマンガとかで見るシチュエーションだ。実際に同じ体験をする羽目になるなんて、想像もしなかったよ…。
…キュイ!
わっ、結構近くにいるし! というか、近距離で鳴かれると仮装樹と同じで耳が痛くなるな。仮装樹は単純に声量が大きいからうるさかったけど、このコウモリ(仮定)は高音が頭の中で響くうるささだ。こっちの方が嫌いだな…。
「せいっ!」
見えないから音で判断して、コウモリの方へ剣を振る。…手応えは無し、避けられたな。まあ、飛んでいる相手に剣を当てるなんて、かなり難しいことだと思うし仕方が無いかも。
でも攻撃を当てられないと、死ぬのはこっちなんだよなぁ! マジで相手がよく見えないし、どうしようこれ。
キュイ! キュッキュイ!
そして今気づいたけど…これ、群れてるな? 多対一じゃん。しかも相手からは見えるけどこっちからは見えないっていう、超不利な状況。早速詰んだかもしれない。
「おりゃっ!」
闇雲に剣を振ってみる。そんなことをすれば隙が丸出しになるが、だからってじっとしていても、どうにもならないし。そして案の定、振り回した剣は1ミリも当たらず空振ってばかり。たまに響く相手の声が僕を嘲ってるように聞こえるから、腹が立って尚更当たらなくなる。
「…駄目だ、一旦冷静になろう。とりあえず深呼吸…いてっ、いててて!?」
動きを止めたら、冷静になる隙も与えないとでも言うように、何か石のような硬さのモノが複数飛んで来た。一瞬羽のようなものの感触がしたから、体当たりでもされたかな…。
「くっそー! こいつら手馴れてやがるな」
序盤でこんな劣勢になるなんて恥ずかしいことだが、今はそんなの気にしてられない。嘲ってきたり群れて行動したりするから、相手は多少の知能があるということだろう。そんな相手と暗闇の中で戦うというのは、本当に無謀にも近い状態だ。やっぱり僕には早かったみたいだよ、仮装樹さん…。
キュイ! キュイ!
キュッキュイ!
向こうも僕が雑魚だと感じたのか、ものすごく勢いづいている気がする。これで向こうの士気が上がってしまうのかもな。もしかしたら僕、迷宮1層目で死亡っていう、不名誉な称号でも貰うんじゃないだろうか。
「…ええい! こうなったら、無理矢理にでも相手の位置を把握するぞ!」
流石に僕にもプライドはある。そんな間抜けな称号をもらうのは嫌なので、どうにかして生き延びることにしよう。
まずは方法一つ目。自ら何か音を発して、その声の反響でどこに何があるのかを当てる方法。実はこれ、目の不自由な人がやることがあるらしいけど、僕はありがたいことに五体満足なので、どうやってそれで把握できるのかを知る由もない。でもやるしかないんだな、これが。
「あ、…あーー!」
やり方を知らないので、とりあえず叫ぶ。僕の声が反響して、滅茶苦茶グワングワンするけど、頑張って耳を澄ます。…が、無理っぽそうだな。僕の聴覚はあんまり優れてないんだよ…音の反響を聞いても、どこに何があるのか分からないじゃん。結局、自分の位置を敵に知らせるだけとなってしまった。やばいな、早くその場から移動しないと、別の何かも来てしまうかもしれない…。
気を取り直して二つ目。羽音と薄っすら使える視覚で、ゴリ押す。
実は、かすかだが暗闇の中で何かが明らかに動いているのが見えてはいる。でも「何かいるなー」ぐらいにしか分からないので、大雑把な位置しか分からないし、そんな情報はほぼ使えない。聴覚の方がまだマシだが、それでもさっきの攻撃を躱されているから、やっぱり羽音で位置を把握するのも大雑把だったということだ。だからどっちも使えば、ちょっとは正確になるんじゃないかなーという、脳みそをかなぐり捨てたような戦法だ。
凝ったことしないで、最初っからこれで良かったんじゃないかとも思うが、やってしまったんだから仕方ない、忘れよう。
「…」
とりあえず周囲を凝視していると、飛んでいる小型の生き物が4羽、僕の背後を取るように飛び回っているのがぼんやりと確認できた。そういえばさっきから、声や羽音も背後から聞こえることが多かったような…。
マジかよ、侮っている相手であっても警戒して背後を取るとか、かなり知能高めじゃん。1層目からこんなのいるのか、この迷宮。やっぱり仮装樹さん基準だったか、この迷宮。
…なんて思っていたら、コウモリ(仮)の一匹がこっちに突っ込んできた。突進かな? 今回は朧気ながら見えてはいるので、ちゃんと躱してカウンターで『スラッシュ』まで入れてみる。
ギュッ!?
マジかよ、普通に攻撃が通った。しかも素早さ重視で防御力は皆無なのか、一発で撃破。もうこれで良いじゃん。音を出してその反響音で場所を当てるなんて、そんな凝ったやり方しなくても出来るじゃん。本当に、ただ敵に自分の居場所を教えるだけになってしまった…。
コウモリ達は僕が一匹を倒したのを見ると、サッと僕から距離を取った…と思う。相変わらず暗くてよく見えないから、距離感が正しく掴めん。さっきのはまぐれだったか?
「いや…ここで感覚を研ぎ澄ませるぞ…」
そうしなきゃ、多分…というか絶対に10層まで辿り着くことは出来ないだろう。
キュッ!
キュッキュイ!
「そこだ!」
鳴き声が聞こえた方向…後ろから突進攻撃が来ると予想して、右に避けてカウンターの『スラッシュ』を起動。
一応手ごたえはあったが、やっぱり暗闇の中だとどこに当たったのかさえ分からない。でも何かが落ちる音がしたぞ。少なくとも一匹は落ちてるな。
そう思って目を凝らしてみれば、2羽しか確認できなかった。
「流石に一匹だけ…でも、ちゃんと減っていってる…!」
キュッキュッ!
「おりゃあ!」
再び声がした方へと剣を振る。今度は空振ったけど、僕の向いた方向が正しかったのか、若干焦っているような鳴き声が聞こえてきた。よし、だんだんと感覚も鋭くなっている…気がする!
「このままいけば…でも、油断はするな…」
夜のバオバブの森以上に見えないこの空間で、視覚以外のものに頼って戦う。こういう経験で得た技は、きっとこれからも役に立つ。だから慌てず、ゆっくり落ち着いて身に付けていこう。…そう考えると、もしかしたらこの迷宮って僕に合った場所なのでは? こうなることを見込んで、仮装樹は僕をここに突っ込んだのかな。だとしたらすごい良い奴だ。
キュッ!
再び背後からコウモリの声…こいつら背後取るの好きだな。でもそれは知能というより本能という気がしてきた。考えて行動したことじゃなくて、元から体に組み込まれていたこと。だから僕がカウンターを入れれば、止まれなくてあっさり引っ掛かったのではないだろうか。
鳴き声に続いて、風切り音…突進攻撃が来る。それを避けるために一歩右にずれ、僕がさっきまでいた位置に『スラッシュ』を打ち込む。
ギュッ!?
一匹に当たった。あと一匹だ。頑張れ僕、集中を切らすな。
キュイッ!
最後の一匹は、真正面から声がした。僕が相手の動きを把握したことに、向こうも気付いたのだろう。フェイクを入れてきたのだ。でもなぜか僕は、さっきから自分の一定の範囲内にあるものが、見えていないのにしっかりと認識できている。相手がどこにいて、どう動いているのかがなんとなくだけど分かる。
…今、攻撃を仕掛けてきた。
「…『スラッシュ』」
ギャッ!!
避けずに、相手が来る方に向けての『スラッシュ』。音だけでも分かる。もう僕の周りには敵がいなくなった。
…真っ暗闇の中、僕は4対1で勝ったのだ。
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