2 彼女との出逢い

「OK、ボス。で、その髪飾りをどうするつもりなんだ?」

「誰がボスだ」

 こうの不平に右手で鉄砲のような形を作り、くいっと一度天に向けその後指先をこちらに向けた有馬ありま

「指は差すな」

 紅は自分に向けられた指先を握り込む。こんなやり取りもいつものことである。

「持ち主を探し出し、届ける」

「それが今回のミッション。もし見つからなかったら?」

「探す前から見つからないことを想定しているのか? どうかしているぞ」

 校内で落とされたものならよっぽどの理由でもない限り、この学園の生徒が落とした可能性が高い。それでも、見つからない可能性を今考えろと言うのか。


「見つかるまで探すんだよ」

 紅は、林檎のバンズクリップを掲げ眺める和馬に告げ、ため息をついた。質問をして置いて、話を聞いていないとはいかがなものか。しかも片手の指先は紅に握られたまま。

「なあ、紅。これ、何処かで見たことないか?」

「アクセサリーショップでか」

「いや、そうじゃなく。林檎を……」

 何を言っているのか訳が分からないなと思っていると、廊下の先からパタパタと駆けてくる足音が聴こえた。

 ”廊下を走ってはいけないんだぞ”と思いながら、そちらに目をやる紅。

「どこでだったかな」

 こちらのことなど全く意に介さず、眺めていたバンズクリップを紅の手の中に戻す有馬。だがマイペースでいられたのもそこまでだった。


「あ、あのっ! ここで林檎……あーッ!」

 紅に駆け寄るなりまくし立てたのは、ネームプレートに引かれたカラーから同学年の生徒であると推測できる。

「うん? どうかしたのか紅……って、蜜花みつかちゃん」

 走って来る者に気づかなかった有馬が振り返り、紅の手の中のバンズクリップを指さす女子生徒に気づく。

 紅は落とし主と思しき彼女の手の平にバンズクリップをちょこんと置いた。

有馬ヘンチメン、どうやら落とし主が見つかったようだぞ」

「ヘンチメンって……」

「俺が上司ボスなら有馬は部下ヘンチメンだろ?」

 紅の言葉に唇を歪め、やれやれのポーズを取る有馬。やれやれと言いたいのは、むしろこちらの方である。

 蜜花と呼ばれた女子生徒はこちらをじっと見上げていた。


 彼女の名は【柊木ひいらぎ 蜜花みつか】というらしい。

 名前くらいは紅も知っていた。何故なら親友の想い人であり、よく話題にのぼるから。可愛いということは話に聞いていたが、見たところ確かに可愛らしい。ダークブラウンの艶やかなストレートロングの髪が印象的で、ツインテールというのもポイントが高かった。


「あの、これ探してて」

 要領を得ないのは余程慌てていたからだろう。

「それは良かった。ちょうど落とし主を探していたところだ。この、助手の有馬と」

「部下じゃなかったのかよ」

 せっかくアピールしてやったのにとチラリと有馬の方を見やるが、彼はただ両手を軽く広げただけ。”黙ってますよ”とでも言うように。

「有馬くんと一緒にいるということは、もしかして【青城あおき】くん?」

「いかにも」

「もうちょっと高校生らしい返事をしろよ、紅」

「インテリに高校生らしさなど不要だ」

 紅と有馬のやり取りに、彼女がクスクスと笑う。

「噂通り、青城くんって面白いね」

 紅が『誉め言葉と受け取っておこう』と返答すれば、彼女がまた笑った。


 有馬と蜜花は部活を通して出逢ったらしい。同じ学年とは言え、クラスが違えば接する機会はほとんどない。委員会や部活が同じでもなければ。

 しかし蜜花はサッカー部に所属していたわけではない。

 彼女の親友【荻那おぎな かおる】が家庭の事情により、二週間ほど部にいけなくなった。その代わりにマネージャーを務めたという経緯で出逢ったのだという。


 荻那に関しては紅もよく知る人物であった。

 彼女とは高等部一年の時に同じクラスとなり、一緒にクラス委員を務めたこともある。その荻那の親友である蜜花と逢ったことがなかったのは、蜜花が他のクラスに顔を出すタイプではなかったからなのだろう。

 ここは一肌脱ぐべきか。談笑する有馬と蜜花を眺め、紅はそんなことを思うのだった。

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