第7話 セディアの街

「ミカル王子殿下、これからどうしますか?」

「んー、そうだなぁ、城に帰る訳には行かなくなったし、王都に戻ることも危険であるかもしれない。今夜はひとまず、王都とは反対にある街〈セディア〉にある宿にでも泊まろう」


 王都ルティールとは反対にある街〈セディア〉は、王都ルティールとは違い、賑やかさとは真逆の穏やかな街である。

 ミカルは小さい頃に一度、現国王であり父親でもあるアルベルト王と一緒に街〈セディア〉に訪れたことがあった。

 幼少期の頃とは違い、歳を重ねるにつれて、王子としてやらなければならないことが増えていった為、王都ルティール以外の場所に訪れることは少なくなった。



「久しぶりに来たな」

 

 ミカルは王都ルティールとは真逆の雰囲気を漂わせる街〈セディア〉を見ながら、懐かしむように声を漏らす。


「初めて来ました」

「そうなんですね。殿下は一度、来たことがあるんでしたよね?」

「ああ、小さい頃な」


 アリア、ミカル、ディオールの三人は他愛のない会話をしながら、セディアの街並みを歩き始める。


「じゃあ、数年ぶりですね」

「ああ、そうだな」


 ミカルがそう返答すると同時に、ミカルの隣を歩いていたアリアの弾んだ声がディオールとミカル。そんな二人の耳に届く。


「ミカル王子、私、王都に来たのも、この街セディアに来たのも、初めてだったんです。

見る物全てが私にとってはどれも新鮮で。王都に来ていなかったら、私はきっと村の外の世界がこんなに美しいってこと知ることもなかった」


 アリアは18の誕生日を迎えるまで、一度もティゼ村の外に出たことはなかった。

 村の外に出ては行けない。などという決まりもなければ、大人達の許可が降りなければ外出は許されないということもなかった。何処に行くか、何時に帰って来るかを長老や親含む大人に伝えれば、外出は出来たのである。


 けれど、アリアは村の外で両親が賊に襲われたこともあり、村の外に出ることに対して恐怖感が心の奥底にあった為、村から出て買い物をすることもなければ、自ら出掛けて来ると大人に伝え、村の外に足を運ぶこともなかったのだ。


「そうなのか。くく、出会った時から思っていたが、アリア、お前は思ってることや、気持ちが顔に出るから、見ていて飽きない」

「殿下、奇遇ですね。私も同じことを思っていました」

「そうなんですか? そんなこと初めて言われましたよ」


 アリアは苦笑し、雲一つない青く澄み渡る晴れた空を見上げる。そういえば、両親が村から出て、帰って来ぬ人になったあの日も、今日と同じように雲一つない空であったなとふと思う。心地良い春の風がアリアとミカル、ディオールの髪を揺らし、陽の光がセディアの街と三人の姿を照らしていた。

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